Revenge tragedy of agent Ⅰ 7
古い古美術商の店に、一人の男が商品を覗き込む。会社を経営する若い社長であるその男の趣味は自らの価値を見出した美術品を購入し、鑑賞する事であった。主に絵画や、彫像が好きで、気に入った物があれば購入するようにしている。値段が高かろうが、低かろうが関係ないと思っており、美術の真贋はひとそれぞれが彼の信条である。無論、人に見せる為に大枚を叩いて誰もが知るような一枚を手に入れた事もあったが、個人で楽しむ作品の価値は作品そのものではなく
“誰が価値を認めたか”で決まる世の中に釈然としない主義であり
ピカソと落書きの区別が分からない以上自分の直観に殉じてその作品の良し悪しを決めていた。価値の決まった作品は確かに素晴らしい物が多い。しかし、果たして目の前にある作品が、作者が注いだ情熱の量で負けているのだと誰が判別出来ようか。作者の生前どれだけ情熱を注ぎその作品を作り上げ、名作と肩を並べるべく創意したかを汲むのである。地獄のような環境で、スターダムを焦がれ生涯を終えた名も無き落とし児。そんな情熱が垣間見える作品が彼は好きなのである。そして、意外にもその後価値を見出され、評価が徐々に高まっていくのを実感すれば猶更自分が正しかったのだと実感するのだ。男は、ある彫像に目を奪われた。悪魔を描いた彫刻は片手をもがれて痛がっているように見える。その様が本当に感情が伝わる程見事としか言いようがなく、一目で彼はその作品に目を奪われた。
「店主、すまないがこれを売ってはくれないか」
「すみません、それは止めといた方が⋯⋯」
妙にソワソワとして落ち着かない様子。
「価値が無くとも構わないんだ。言い値で買い取るよ」
「いえ、あれは生きた彫像です。手放して何が起こるか知れたもんじゃない」
「やはり、そう見えるよな」
「冗談じゃないんですよ、旦那」
顔が真剣みを帯びているが、彼には冗談に見えた。恐らくすでに買い手がいるので断りを入れているのだと思ったのである。
「10年前は、そもそもあんな格好してなかったんですよ」
そう言って、当時の買い取った時の写真を見せられる。確かに、今よりも少し腰の位置が低く、俯いた状態である手を痛がっているのは同じだが。それから、数枚事、数年事に写真を見比べると徐々に膝が浮かんでいる。まるで、ゆっくりと時間が流れているかのような。遅々とした時間の中で彼は生きているような錯覚を生んだ。
「気味が悪くてね、いつあれが動き出すか私は怖いんですよ」
「手放せば楽になるじゃないですか」
「後味が悪いんだよ。世の中には、呪いの道具なんてもんがあってだな。人に渡るが如く死屍累々、呪いを撒き散らすもんが存在するのさ」
「昔、ネットで齧った事がある程度ですが宝石やら人形やらの事ですかね」
確かに、曰くつき過ぎて美術館に保存されていたり霊媒師に封印して貰った物なんかも存在する。近年心霊現象を静めてきた教授夫妻のエピソードが映画化したり有名である。彼は要は目の前にある彫像もそれと同一だというのだ。商売柄か、そういった物品の話も稀に聞くらしい。
「売った事なら何度かあるんだよ。それでも2日と持たずにすぐにウチに戻ってくる。見られているようで気味が悪いってな。それが何件も立て続けに起こってみろ信じるしかねえだろうが」
店主は、怒った口調でそう告げた。
「それでは、絶対にこちらに返品しない念書をお書きしましょうか。きっと、この作品のそれが凄さなのかもしれません。本当にそこに居るかのような、名作の証拠ですよ」
念書を書くと言われ、それなら二束三文で手放して良いと殆どタダ同然の値段で男はその悪魔の彫像を買い取る事に成功した。




