Revenge tragedy of agent Ⅰ 6
息遣いが聞こえる。目が覚めると、ズキと痛む手の痛みに気が付く。苦痛に顔が歪んで良く見れば、掌が△に切り刻まれている。
「起きた?一馬、大丈夫?」
「姉ちゃん、なんでそんな⋯⋯」
姉の姿は、縄で簀巻きにされて吊るされている。自身の激痛よりも遥かに衝撃の大きい光景と言えた。
「今、助けるから!!」
「大きな声を出しちゃ駄目!!」
掠れた声で自分にそう言う姉の声の心境が理解出来なかった。姉によると自分達は危機的状況にあり、拉致されいつ殺されてもおかしくないという。このまま待っていてもいずれは殺されるかもしれない。姉と話し合い何か道具はないか、部屋を出て探検する事にした。古い家屋で今は誰も住んでいないのだろう。蜘蛛の巣が張りめぐされ、埃が舞う。ゆっくりと階段を下りて廊下に出ると、玄関が見える。しかし、ソファーや机や椅子で出れないようにバリケードがされている。仕方なく、ゆっくりと左にある扉を開くと、リビングが見える。バリケードに使った分、空間が広く見えるがぽつんと誰かが椅子に腰掛けヘッドフォンで音楽を聴いている姿が見えた。下には大きいCDラジカセが置いてあり、ラジオか音楽を聞いているのが伺える。全身裸のような恰好をしているが、とても人間とは思えぬ肌色。緑と黒を混在させた不気味な存在だった。気配に気づいたのかこちらに振り向く。ギリギリの所で、気づかれずに済んだ。手を口に宛がい、息を潜めるように少し移動する。見つかったら殺されるかもしれない。泣きそうになって目に涙を溜めて暗い別の部屋へと逃げ込むと、気配に気が付いたのか化け物が、部屋を出て階段を上がる音が聞こえた。心臓が跳ね上がり恐怖に怯えて足が震えた。そのうち姉の悲鳴が聞こえてきてやがて聞こえなくなる。恐怖で身が竦んだが恐る恐る階段を上って、様子を伺うと首の骨があらぬ方向へ曲がって動かなくなった姉の姿と全身皺だらけの悪魔が笑っていた。視線が合い、次はお前だと上機嫌な顔をこちらに向ける。一歩、化け物がこちらに近づくとふいにどこからか女の声が響き渡る。
「そこまでにしてくれる?ったく、探すのに大分手古摺ったわ」
いつの間にか、自分の目の前には和服の女の子が立っている。化け物も、驚いて彼女を殺すつもりで手を出した。しかし、彼女の放った 短刀が彼の手首を切り落とす。怒りの表情を向けて背中に羽を生やして天井を突き破ってこの場を逃走する。少女も逃がすまいと彼の後を追ってこの場を去った。取り残された姉の死体がゆらゆら揺れている。何もかも訳がわからない時間だった。ひょっとして怖い夢の中に居るのかもしれない。そう思ったものの掌の痛みは消えない。程なくして警察がここに来て一馬は保護された。事実を述べると、恐怖体験が酷すぎて混乱しているのだと全く聞く耳を持ってくれなかった。姉は死体で家路に着き一馬は生き残ったがあの時の恐怖は残り続ける。姉と一緒に、買い物に出かけたのが運が悪かったとでもいうのか。彼の正体は一体何なのか、女の子は何故助けてくれたのか全てが謎のまま時だけが過ぎ、一馬は10年後もし彼が姿を見せた時は彼の正体を暴くと決めた。ガチャ、と扉が開かれる。昔を思い出していつの間にか寝ていたらしい。
「佐竹さん、出来ましたよ報告書。今から行きますか?」
「そうしよう。依頼人には酷な話になっちまうな」
テレビの電源を消して、助手と共に部屋を出て二人は依頼人の元へと向かった。




