Revenge tragedy of agent Ⅰ 5
テレビには、録画された特番が映し出されている。佐竹は助手が報告書を纏め終わるまで、酒も交えながら特番を繰り返し見ていた。
「1980年代に最初に起こった事件です。何人もの人が殺害され、誘拐され、当時はその犯行に恐怖した人も多いのではないでしょうか。これは彼の住む2階建てのアパートに警察が囲んで取り押さえる瞬間の映像です」
彼はアパートに立て籠り、包丁を女性に突き立てて脅していた。窓から警察の動きを伺い、興奮している様子が分かる。彼の名前は浜田和則19歳。無言で大人しく、品行方正で通っていた。警察は犯人の犯行が連続して起こっている事からおとり捜査を実施。危険な賭けに勝った末の逮捕劇とされた。決着は一発の銃声が鳴り響いて終わりを告げた。膠着して2時間弱、現場を報道するリポーターが発砲音とガラスの割れる音、更に女性の悲鳴が響き渡りそれを報道する。
「ご覧下さい!!今、銃声が聞こえました!!ガラスも割れてます!!中からは女性の声が聞こえてきました。ああ!!一斉に警察が、警察が動き始めました!!」
武装した警察が部屋へと乗り込んでいく。狙撃手の撃った銃弾は彼の額を貫き、即死させていた。まずは女性が救出され、そして死体となってだらんと脱力した犯人がタンカで外へと運ばれる。カメラのフラッシュが巻き起こり大量殺人鬼による悪夢は幕を閉じると思われた。延べ、彼の餌食となった人数は14名。彼に狙われるも生存した者が5名となっている。しかし、彼の遺体が運ばれた病院の死体安置所にて彼の遺体は忽然と姿を消し、その日のうちに病院は医者2名が殺害され病院が炎上し、消防と警察が混乱に乱れる現場と化して、彼はその病院から姿を消したとされる。検死の結果は即死ながらも、遺体が消える不気味さからまだ犯人はどこかに居るのではないかと暫く恐怖が続いた。
この一件を締めくくり、あるニュース番組のキャスターが
『10年に一度あるかないかの凄惨な事件だった』
と供述し、人々はその言葉に共感し、悪魔を過去の産物として忘れようと努めた。
しかしその後、1990年代にも同様の事件が発生。14人が被害に遭いながらも警察は犯人を特定出来ず犯人と思しき住処、倒産して誰も居なくなった工場跡地には14名の遺体が無残にも犯人によって切り刻まれていた。そして2000年代に入り、2名と被害者は少ないものの犯行を積み重ねて存在を示し、霧に紛れるようにして犯人は逃走。浜田和則容疑者本人なのか、それとも模倣犯なのかも議論されて来た。当時の死亡診断書によれば、浜田和則容疑者の額から後頭部にかけて間違いなく打ち抜かれており即死状態にあったとされた。ならば何故遺体は忽然と消えたのか、等番組の中でもオカルトさながらに様々な意見が交わされたが結局答えは出なかった。
「佐竹さん、まーたこんな番組見てんですか」
「おう、みゆきち終わったか」
「いえ、半分くらいです」
「じゃあ何しに来たんだよ」
「いえ、お腹が減っちゃって。そういえば佐竹さんもこの事件の被害者なんですよね。見ていてお辛くないですか」
心配そうに、深雪は佐竹を覗き込む。
「今でも思い出す度にゾッとするよ。ガキだった頃にあいつの住処にまで連れ去られて目の前で姉貴を殺され、助けが来なきゃ俺もこいつに殺されてたんだからな」
そして今でもたまに悪夢に魘される。
「警察に感謝ですねえ」
「いや、ありゃ警察じゃねえよ」
「え?」
「いや、なんでもない。忘れてくれ」
深雪が彼の掌に刻まれた△のマークを指さした。随分古い傷跡だがうっすら残ってしまっている。
「それ、ひょっとしてその時に?」
こくりと頷き、掌を眺めて佐竹は当時を思い出して寒気が全身に巡ったのだった。




