Revenge tragedy of agent Ⅰ 2
息を整えて、京子は目を閉じる。自分の周囲に淡い光が発せられるとすぐに消えた。ぐっと、決意を固めて意を決して走り出す。京都の地下深くにある訓練場の中の一つ、主に市街地での戦闘を想定して作られた区画で、地下の中にビル群が立ち並ぶ。人命救助、凶悪な妖怪の討伐等を想定して作られた疑似都市。その2階建てのビルとビルの屋上を跳躍して向こう側に行こうとしている。間隔はゆうに20メートル。普通の人間が飛び越えられる距離では到底無い。飛び超えるまで、数歩になって京子は力強く足を踏んだ。
(飛べる!!私は飛べる!!絶対飛べる!!)
そして京子は空を飛んだ。通常よりも遥かに長い滞空時間を感じた後浮遊感に包まれた。大声を叫びながら、向こう側へと手を伸ばしたものの半分を越えた辺りで急に落下の感覚を味わう。
「やっぱ無理いいいいいいいいいい!!」
そして普通に落下した。下に設置されたマットに埋まり暫く身動きが取れなくなる。巫女服を着た女性がその京子を見て溜息を吐いた。
「そんな事では、力の持ち腐れですよ。恐怖心に打ち勝たなくては」
「解ってるけど、自分で出来ない事を急に出来ると“思い込む”って結構勇気要るんですけど」
「記録は10メートル超えましたね。先ほどよりは良い飛距離かと」
「いつまで続けるんですこれ」
「それは私の口からは何とも」
定期的に、京子に課せられたのは力の制御をする為の訓練の継続で“思い込み”で自分の身体機能の限界を超えた力を得るための術を得る事だった。今現在京子には封印されていた思いを無限に増幅させる魔術の術式の依代となっている。あの死神を退ける程の力を上手く使いこなせばいいが思い込みによる力は、所謂自己暗示に近いもの。心に少しでも出来ないという思いがあれば途端に力は萎んでいく。結局、普通に飛ぶよりは良い飛距離は出るもののその日はビルに到達出来なかった。足取り重く京都支部に辿りつき、ソファーで寝そべると心配そうに一匹の黒猫が姿を現す。
「社長、私に癒しを下さい」
「にゃ?ギニャ!!!!!」
思い切り、嫌がる黒猫を抱きしめると、逃げようと必死に抵抗している。
「無茶苦茶嫌がってるわよ、社長」
「すみません、和香さん」
「ここのシャワーは使っていいのよね?」
「ええ、奥にある冷蔵庫もキッチンも使って頂いて結構です。皆さんで夜食でも作って召し上がって下さい」
京子は京都支部の局長という立場になってはいるが夜勤出来る範囲も限られているし、なによりまだ義務教育を受ける学生である。その時間帯の受付スタッフに和香を採用したら、本人も乗り気でやってくれた。夫婦揃っての採用となるが、見知らぬ人間よりかは信頼の置け人間に任せた方が良い。最近になって本格始動した京都支部ではあるがすでに陰陽庁として稼働している。
「今日はもう家に帰るの?京子ちゃん」
「いえ、もう少しだけ。ここで受け持つ夜勤スタッフのデーターベースに目を通してたんですけど、ちょっと良くわかんない方が居まして」
「見ても大丈夫?」
「ええ、問題ありません」
二人はその登録されたデータを見ると可愛らしいお人形の様な美少女が映し出されている。
晴野浦美
生年月日 年齢不詳 女
出身地 日本
陰陽庁会員登録 明治元年
備考 妖怪 危険人物の為関わりはなるべく避けるべし




