陰陽庁怪異対策課京都支部 3
夜は陰陽師として活動をしているが基本学生が本分である。京子は中等部一年の教室へと入って席に着く。朝礼の時間まで時間があるなとぼんやり考えていると同じクラスの男子が声を掛けてきた。
「朝倉さん、眠そうだけど大丈夫?」
「ちょっと夜更かししちゃって」
「ゲームでもやってるの?」
「勉強で分からない所があってそれで」
「朝倉さんらしいね」
結局家路に着いて、風呂に入って宿題を終え寝床に入ったのは深夜1時近く。眠いに決まっている。退魔師の夜の仕事があった翌日は大抵眠い。同じように、欠伸をしながら紅葉が教室に入って来た。
「おはよう紅葉、宿題はちゃんとやった?」
「そんなんやる暇ないっての。速攻で寝たわ」
紅葉は授業中に宿題を終わらせる事もしばしば。眠気覚ましのコーヒーのパックジュースを飲みながら紅葉は素っ気なくそう言うと、周囲の女子が何やら盛り上がっている。
「聞いた?こないだ近くの神社で女の幽霊が出たってさ!!」
「知ってる!!見たら包丁持って追いかけてくるんだって!!」
「うっそ、マジこわ~でもちょっと見てみたいかも」
「出没した所には藁人形が木に釘で打たれてたんだって!! 」
「何かニュースでやってたかも」
「私も見たよ最近ニュースでやってた!!」
(藁人形と釘って言えば・・・有名な)
(あれしか思い浮かばないけど)
紅葉と京子は同じ事を思い付いていた。
【牛の刻参り】
昔は深夜3時の事を丑三つ時と言い、魑魅魍魎の徘徊する魔の時間に相手の髪の毛を入れた藁人形を木に刺す。釘と金槌を使い、本人を恨みながら藁人形を打ち込んでいく。呪いが成就するまで何日も続ける。古くからの習わしであるが余程の恨み辛みがなければ呪いは生まれない。形式的な儀式ある呪術としては日本では一番有名な呪法である。陰陽庁としては、外法な呪術師を容認しておらず、遭遇すれば捕まえなければならない。その後警察のある組織に引き渡しとなる。とはいえ、現段階で陰陽庁からの要請もなければ手がかりもない。二人はその日、相談する為に数人の先達の退魔師と相談する事にした。指定の喫茶店に入ると、2人の見知らぬ男性と見知った少女が座っている。
「紅葉から用事があるなんて驚きよ」
紅葉の姉である橘 早苗紅葉の姉とは思えぬ黒髪長髪で落ち着いた性格。清楚で容姿端麗故に陰陽庁の中でも男子の人気が高い。京子が紅葉の親友という事もあって京子とも仲が良いのである。紅葉は早苗の向かいに座る男の子2人に目をやった。
「早苗さんから声を掛けて貰ってね。俺は高校2年の島田政道、こいつは一年の牧田」
「宜しく、それで相談って何だい」
「実は、最近牛の刻参りをする人が居るらしくて」
「情報として聞いたからには、何かする必要があるのかなって」
二人の真面目な相談に、牧田と島田は爆笑した。
「あははははははははははははは!!」
「笑っちゃダメですよ、朝倉清治さんの妹さんですよ?」
早苗がそれを言うと、ピタッと真顔に戻る。
「それを早く言いや。人が悪いな」
陰陽庁のトップを仕切る一族と聞いて二人は見る目を変えた。
「そういうんは、放っておいたらええ。陰陽庁は呪いで人を殺す呪術を使う呪術師を敵視してはおるが、一般人が呪いを成功させるなんか殆ど無理やさかいな。警察に呪術師専門の部署もあるから、俺らは妖怪、あっちは呪術師て役割別れとる。それでも遭遇したら対処したのち向こうに引き渡しになる」
「仮に一般人がもし呪って成功しても俺らが仇を討つ義理はないし」
「呪術師が、目立つ神社で形式通りの牛の刻参りをする事は希だわ」
早苗の意見に男二人も頷く。
「面倒やし、呪術師やったらもっと効率よく相手を殺すやろう。やり方はなんぼでもあるで。悪魔召喚して殺させたりな」
「つまり、わざわざ呪術師が牛の刻参りをするはずがないと?」
「せやから、何の心配もいらんで。せっかくやし今日は俺らの奢りやさかいカラオケ行こうや」
(そんで早苗さんとお近づきになるで!!分かっとるやろうな牧田ァ!!)
(分かってますわ!!今日は先輩の為に場を盛り上げまっせ!!)
二人の謎のアイコントが成立した後、店を後にしてカラオケへと足を運んだ。人気が多く騒がしいその店の隅の席で、沈黙して座る二人組の一人が口を開く。
「本当に、頂けるんですか?私の願いが成就する物を」
一人は、サラリーマンの格好をしており、スーツ姿に眼鏡を掛けている。華奢で骨が目立つ貧弱な出で立ちをしている。一方は、赤いパーカーのフードを被る少年。鋭い目をさせて、アイスコーヒーを一口飲んで答えた。
「これが、それさ。呪えば必ず殺せる呪殺儀式用の道具。牛の刻参りって知ってるだろう?あれをする為の道具だよ」
そういって、中くらいのスーツケースを机に置いて彼に渡す。
「値段は張るが成果は保証する。もう何人も成就させてる今話題沸騰の代物さ」
「ありがとう御座います!!これで・・・これであいつを!!」
「おっと、無料じゃないからな。30万円払ってくれ」
「分かりました。ここに」
サラリーマンの男は、懐から封筒を取り出して手渡すと
少年は封筒の中身を確かめた。
「確かに、毎度あり。また縁があったらご贔屓に」
「ええ、感謝致します。では・・・」
男は一礼して去っていく。
「縁があったら、ねぇ・・・人を呪わば穴二つって言葉知らないのかね」
小さい声でそう呟くと、少年は残りのコーヒーを飲み干し喫茶店を後にした。