表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/209

The black cat rage about 3

 その日の夜は、和香は元気なく仕事を終えて夫が帰宅するなり、昼の一件を彼に報告した。子供は先に食べてすでに寝ており、夫婦二人で今後の相談をしている。私は、近くで座って丸くなっている。


「そうか、もうここを見つけられたか。やはり逃げるのは無理そうだ。明日にでも僕が行って話を付けてくるよ。あの方だって亜子が可愛いはずさ。きっと話せば分かってくれる」


「その話合いに折り合いが付かないから逃げてきましたのに。実の父ながら出世欲が人一倍強いから。それで人生ケチがついたもんだから死に際に躍起になってるんだわ」


和香と夫が熱燗の酒を飲み交わしながらそう呟いた。


「僕は陰陽の世界の事は何も知らない。いや、知りたくもないんだ。けどね、君や亜子が陰陽の世界に無理やり引き摺り込まれるのは嫌だ。明日、キッパリと絶縁状叩き付けてくるよ。それで終わりにしよう」


襖の二人の影が重なる。気を利かせて私は廊下へ出て階段を上って二階へと上った。窓の隙間から外へ出て屋根へと移る。ふと正面を見下ろすと、昼間来た黒い車が停車している。また、何か言いに来たのかと思ったが、窓の隙間からひらりひらりと人型を模した紙きれが宙に舞った。紙切れは、煙と共に大鎧を着た武者に変化し手に持つ刀で縁側の扉を切り伏せた。 大きな音がして、扉が切り伏せられ二人が吃驚して鎧武者に顔を向けた。すでに上半身裸であり、慌てて二人共はだけた服を着直して鎧武者に対峙する。動くと同時に、私は分身して尻尾を伸ばして武者に絡ませた。身動きを封じつつ、じりじりと外へと追い出す。


「あなたは亜子をお願いします!!私は武者を滅します」


「大丈夫かい?」


「ええ、これでも陰陽師の端くれですから」


和香はそう言って、札を取り出して、大き目の猿を呼び出した。猿が武者にジャンプキックを繰り出して、武者は裏庭に大きく吹き飛ばされた。壁にぶつかって、動きが鈍る。分身体と一緒になって尻尾の先を刀に変化させ武者を切り刻んでいく。猿もヒットアンドアウェイを繰り返し、隙あらば殴る蹴る、おしりぺんぺん等の挑発行為も混ぜつつチクチクと痛めつける。見た目は随分とボロボロになっているにも関わらず、鎧武者が抜刀の構えを見せた。私は警戒して後ろへ下がったが、猿が飛び出した所で鎧武者が居合い抜きを仕掛けた。その一閃の威力は凄まじく、周囲に衝撃波が奔る程。家の瓦が何枚か飛ばされる。刀を仕舞う動作を見せると、猿が胴体を真っ二つにされて崩れ落ちる。下半身も血飛沫が周囲に飛び散って地面に倒れた。慌てて和香が札で槍を作り出し、武者に構える。私は仕方なく、和香の前に立ち憚り煙と共に人の姿へと形を変えた。人間にして10歳程の幼児の姿をしており、着物を着ている。目は黄色く、猫の目をしており人ではない事は一目瞭然としている。


「にゃあ」


とだけ言って、和香に目を配った後、私も腰の刀を構える。人語を聞き取り、理解する事は出来ても声は出せない。練習した時期もあったが結局喋れなかったので諦めた。


「すみません、頼みます」


私はこくりと頷いて敵に向き直る。武者も再度構え、大振りの構えを見せるとお互いに一歩ずつ円移動して攻撃のタイミングを計る。最初に攻撃をしたのは、武者の方だった。切っ先で弾き合い、お互い様子を見る。さらに連続して攻撃を繰り出して来たので、防戦一方になる。一撃一撃が重いし、思わず苦痛に顔が歪む。仕方なしに思い切り下がった。それから屋根、壁、地面を蹴って縦横無尽に飛び回り、走り回り相手の視角に入り込んで切り刻んでいく。別に、剣術を習った訳ではない為、刀の切れ味に任せてたたっ斬るのが持ち味である。まぁそれ故、相手の土俵で相手をしようとは全く思っていない。逃げるが勝ちなのだ。こちらの素早さについていけない事を悟ったのか、諦めてまたあの構えを取った。させる訳がない。私はもう一人待機させていた猫の分身も人型に化けて後ろからザックリと一撃を入れた。急に現れたもので警戒をして居なかったと見える。言葉を発せるのであれば、おのれ卑怯なりとでも言いたげなボディランゲージ。奇襲してきた分際で随分と勝手な物言いである。猫に人の道を説くとは愚かなりと私はにやとする。刀も手から零れ落ち、最大の好機が生まれる。屋根の上で、こちらも大振りの構えを取る。上段の構え。私は力を込めて思い切り跳躍して兜から鎧武者を一刀両断した。中身は存在しない。鎧だけが動き回っていた。和香が唖然として立っているので、にゃあと鳴いて脅威が去った事を伝えた。黒い車が、慌てて去っていく。家に静寂が戻ったものの和香の表情は暗く沈んでいるように思えた。


 物凄い音がしたと、近隣住民から通報があり、警察が聞き取りにやってきた。夫婦喧嘩ではないかとあらぬ嫌疑を掛けられてしまったようで現場を見て貰い、竜巻が発生してこうなったと説明したが真っ二つに斬られている戸を見て首を傾げている様子だった。鎧は、式神だったのかあの後すぐに紙に戻った。周辺には散らばった紙も落ちている。警察がまたあるかもしれないので気を付けるように言って去ってから、私は猫の姿に戻って縁側で再襲撃に備えた。内側の扉は無事だったが肌寒く厚着を着て夫婦は一晩過ごす覚悟を決めた。縁側で、時間が過ぎるのを待っていると急に、和香が現れ、電灯を手に持って私の隣に座り込んだ。


「先ほどは、救って頂きありがとう御座いました」


そう言って、湯飲みに入ったお湯を私に差し出す。


これはどうもと恐る恐る舌を入れると、熱湯に水を足した白湯。


「私が引っ越して来て、貴方に出会ったのも何かのご縁。これからも、亜子とあの人をどうか、見守って下さいますか」


涙を浮かべながら、掠れた声で懇願をする彼女。私は、彼女の願いにこくりと頷いた。すると、笑顔で私の背中をさすってくれた。翌日になり、彼女は高い着物の服に身を包み、おめかしをして勝負に臨むような覚悟で家を出る。それから夜になり一晩が過ぎ3日が経過しても彼女が家に戻る事は無かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ