The black cat rage about 1
私は猫である。
いや、否。化け猫である。
まぁ、なんせ猫又であるからして。
猫又というのは、長い年月を経て死なずに妖怪へと転じた猫の事。古来より古い物には魂が宿るとされ、物にも妖怪へと転じる物も少なくなく、それらを総称として付喪神と呼ばれるのである。でもまぁ私、少々特殊な事情で妖怪へと転じたもので生粋の猫又とは言い難いが。とはいえ艶やかな黒い毛並みの特徴の二股の黒猫に違いはない。欠伸をして、机の上で丸くなっていると、急に時計の音が鳴り響いて大人の男とその娘が慌てて起き始める。男は30代後半、娘は今年小学一年生になったばかりという。長髪の元気な女の子で、良く構ってくれている。
「亜子、すまん。朝御飯今から作るからな。ちょっと待っててくれ」
「はーい、猫さんもおはよう!!」
にゃあ、と鳴いて私は挨拶を交わした。
TVの天気予報は晴れのち曇り、所によってにわか雨。降水確率は30%。窓を見て、空の具合をまじまじと見る。鼻と湿気と肌で感じた感覚で今日は降るだろう、と確信したので彼女がランドセルと一緒に持っていく手提げかばんの中に、小さい折り畳みの傘を入れておいた。男が朝食を作って、子供に皿を持っていく。ベーコンと目玉焼き、パンと牛乳である。美味しそうに平らげて、子供はせっせと支度を始める。男は私にもキャットフードを皿に盛って渡してきた。出された物は食うのが基本。腹を減っては戦にならぬので。
「猫さん、お父さん行ってきます!!」
「いってらっしゃい。と、僕も行かなきゃ。あの子時間には煩いし」
元気よく亜子が小学校に行くのを見送ってから、分身を作って彼女を追いかける。実体の私も外へと出て周辺を散策していると、猫が餌に釣られて人間の傍に集まっている。人間にも社会があるように、猫にも社会が存在する。人間が可愛いと気軽に子猫に触れてくるがそれによって子猫の生命が危ぶまれているとは分からないのだろう。人間の臭いが付くとまず親が子猫に近寄らなくなる。見放されて、他の猫に傷つけられる場合もあるのだ。餌を与えて、近くで眺める。それが正しい餌付けの仕方というもの。故に私は近づいて、爪で容赦なく御触り厳禁の引っ掻きを見舞う。
「超可愛い~!!っていたたたたたた!!何この黒猫!!」
「もう行こう、学校間に合わなくなるよ」
「くっそ覚えてろ黒猫!!いつかモフり殺すかんね!!」
それは、御免被りたい。私は追い払った報酬に餌を一つまみ貰い、ゆっくりと京都の街中を歩き始めた。やがて京都駅前の“Voo Doo Child”と書かれた看板の建物の前で足を止め、その建物の中へ1階の窓から侵入する。階段を上って扉の前でにゃあと鳴くと部屋の中から栗毛の少女が姿を現した。
「いらっしゃい、社長!!」
少女が私を招き入れ、私の体を持ち上げて嬉しそうに奥の事務所へと入っていく。社長と呼ばれている理由ではあるが、何でもどこかに駅長になった猫や区長と呼ばれている猫が実際に存在するらしい。だからって社長って呼ぶ理由も私には良く分からない。仕事と言ってもゴロゴロする事とたまにある仕事を手伝うくらいなもので。
―――――――このような状況になった経緯であるが、1月程前の出来事に遡る。