陰陽庁怪異対策課京都支部 23
新しい議長に清治が就任して2日。京子は陰陽庁の幹部の間に呼び出されていた。2日の間にも、色々な事があった。禁書の力の確認と扱えるか否かの判断を陰陽庁の中で検証が行われたのだ。結果は、一応自分で扱える力である事を認められた。他の幹部達も大勢居る中で、京子は議長の前にある座布団に座らされ、対面している状況にある。
「呼び出した理由は、分かってるか?」
「何となくは」
京子自身、あれから変な感覚が身についている自覚があった。
特に、思いを増幅する作用が周囲に影響をもたらす事は疑いようもなく。
「京子、お前の中に眠る禁書の力を持ったまま、前線に出られるとどんな事が起こるか分からんのが現状でな。最悪・・・お前が終末の鐘を鳴らす可能性も否定は出来んのや」
「終末?」
「お前が力を使って全人類を呪い殺すような事が起きた場合、それは現実になる」
京子の頭が衝撃で真っ白になる。そんな考えは想像しなかった。言ってる清治本人も何一つ冗談で言ってはいない。
「いずれ再度封印をする事になるやろうが、それまでは裏方に回って貰う。京子には、新設される事になった陰陽庁の京都支部の支部局長に任命する」
京子は、拒否権はないと悟って受け入れた。
「その任、確かに承りました」
それから、京都の駅近くに支部が創設され京子は必要な机やソファー等を引っ越し業者に頼んで入れて貰い紅葉の姉の早苗が手伝いに来てくれたので早く済んだ。ようやく一息着くと、お昼ご飯に引っ越し蕎麦を出前で注文し出来たばかりの事務所で2人で食べる。
「本当に御免なさいね、紅葉ってば京子ちゃんが上司になったって納得いってないみたいで。仕事はきっと回せばきちんとすると思うけど」
「あー⋯やっぱりそうでしたか」
今まで一緒に背中を預ける戦友だと思っていたのにいきなり自分達を束ねる長の立場になったのだ。彼女にしてみれば喜ぶべき話でもない。多分今後どう接していいか分からなくなっているのは京子は付き合いの長さから分かっていた。友であり悪友でありそして死線を一緒に潜り抜けた戦友であるからこそもう共に立てない寂しさが京子の中にもある。今後は彼女達を最大限にサポートしていく立場にあるからこそ、京子の置かれた状況も鑑み彼女に今は触れない決意を固めた。それが彼女と関係をこじらせる原因の一つとなった。2か月後、陰陽庁京都支部も出来上がり看板には“Voo Doo Child”の文字が書かれてある。これは清治にカモフラージュの看板を何にすれば良いか相談に乗って貰った所、こんな名前を付けられてしまったのである。呪い(まじない)の申し子 そんな意味らしいが京子本人はもっと可愛い名前を付けたかったのは言うまでもなく。この2ヶ月の間に頼もしい仲間と事務員兼店頭販売員が1人増えいよいよ支部が本格的に始動する事になった。京都にある交差点を京子が歩くと目の前で転ぶ幼い子供を見た。すぐに駆け寄って、泣き始める幼児の前に膝を曲げる。
「大丈夫?⋯じゃないね」
ポケットからハンカチを取りだし、少年の怪我をした膝に当てた。
母親がすみません、と駆け寄る。
わんわんと泣く幼児に、困った顔をして京子は伝えた。
「今から、お呪い(まじない)唱えてあげる。痛みも引くよ」
少年は、未だ泣き止む兆候は見せない。
「痛いの痛いの飛んでいけ!!」
少し力を込めて、御呪いを唱える。
すると温かな光の粒子がその場を包み
光の奔流が周囲を流れる。
たちまち傷が癒えて、少年が笑顔を浮かべた。
人の言葉、人の思いは現実に作用する。
悲しい時に応援歌を聞いて癒された事はあるだろうか
自分に厳しく制約を課す事で、普段よりも実力を発揮して
何かを成し遂げた事はないだろうか。
人の言葉や思いの強さは無限の可能性を秘めている。
何せ、あれだけ泣いていた子供が
たったこれだけですぐに笑顔になるのだから。
陰陽庁怪異対策課京都支部 FIN




