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陰陽庁怪異対策課京都支部 21

 

 紅葉と京子は階段を上って最後の扉を開いた。荘厳な神殿の様な建築物を思わせ、祭壇の周囲には結界が張り巡らされている。一足先に蝶々が向かうと祭壇にある結界が瞬時に解除された。二人は顔を見合わせ周囲の景観を眺めながらゆっくりと前に進んだ。2人はその祭壇に奉られた一冊の書物を手に取り、任務を達成した事に安堵する。


「これが禁書?何が書かれてあるのかな」


「禁書開けちゃ駄目だからね。紅葉」


「分かってるわよ。けど何が書かれているか興味あるでしょ」


京子は呆れながらも、これで任務は終わりだと実感した。祭壇から離れて一つ前の部屋に移動し清治の次の指示を待つ。しかし空中にひらひら舞っているだけで、何も喋らなくなっている。


「お兄さん、大丈夫かな」


「うん、こっちに余裕がないんだと思う」


「それは好都合というものだ」


声がした方に視線を向けると同時に、風の刃が蝶々を引き裂いた。二つに別れてからすぐに跡形も無く消滅する。声がした方には、黒人が既に何らかの召喚を始めており二人は攻撃体勢に入ったが、黒人が召喚した存在に驚愕の表情を浮かべた。黒衣を纏う死の象徴、死神が再び二人の前に姿を現した。


「禁書をこちらに渡せ。無益な殺生はしたくない」


周囲が急に温度が下がり、死神は冷たい息を吐きながら目を赤く輝かせる。大きな鎌を手に持ち、二人に襲いかかった。京子は死神の攻撃を下がりながら回避しつつ、札を空中に散布して死神に貼り付けた。印を組んで爆発させるものの全く効いている様子はない。今度は紅葉が前衛を代わり死神に小太刀を浴びせるが斬った感覚がない。大鎌の横凪ぎによる一閃を跳躍して回避し、身を翻して地面に着地する。加えて、黒人は呪術で呼び出した精霊に命令して風の刃を発生させる。精霊は精霊でも、悪い感情を糧とする悪霊のような存在である。実態はなく、霞の中に目があるゴースト。京子が紅葉を庇って結界を張ると身動きの取れない間に死神が間合いを詰めてくる。鎌による一撃で結界ごと壊され、死神が白い息を吐きだした。


「京子!!―――ったくこういう役回り私ばっかりやらせないでよ!!」


紅葉が、覚悟を決めて大声を張り上げる。


「生きてるって素晴らしい!!人間って最高!!」


由紀の様に輝いて見える程に生命に満ち溢宝塚のトップスターの様な華やかさこそ無かったものの、水着で写真撮影に臨む新人アイドルの夏のビーチの元気さくらいには精一杯輝いて見えた。死神の最も苦手とする人間の生きる感情を前にして一瞬の躊躇が発生した。その隙に二人は目を合わせ同時に死神に向かって駆け出した。目の前で左右に分かれて死神を通り過ぎて扉を目指す。


「逃がしはしない。ブネマン・ソール抑え込め!!」


悪霊が紅葉の体をがっちりと捕まえ地面に転がる。思わず、京子も足が止まった。


「ぐっ!!⋯⋯ッ何をやってるの!!早く行きなさいよ!!」


すぐ後ろには、死神と黒人。すぐ側には紅葉の悪霊が居て人質を取られたも同然の状況下。逃げる選択は正しい。この場に留まっている限りこの状況を覆す術を京子は持っていない。


(だからって紅葉を置いて逃げるなんて⋯⋯)


死神がゆっくりと二人の命を刈り取る為に近づいた。息を整えて、覚悟を決める。札を取り出し自分に変化させ後退する。それからすぐに煙玉を放って煙幕を張った。煙に紛れて札を取り出し、自分に変化させる。練度が低すぎる為、動かす事は無理だが囮としては十分に使える。死神がダミーに掛かっている間に駆け出して紅葉の下へと向かった。


「今度はその娘を捕らえよ」


カジナンの命令で紅葉から離れ、正面からゴーストが襲い掛かってくる。刀で悪霊を切り伏せ、紅葉の傍に寄って紅葉の状態を確認した。


「逃げて!!私⋯⋯ほんとに動けないからっ」


彼女の体が麻痺している。逃げないと首を横に振って紅葉に結界を張って京子は刀を構えて死神に向き直った。煙も晴れて、ダミーも全て消えている。札も尽きた以上、出来る事は限られている。一分一秒でも長く生きながらえる事、そうすればいずれ応援がやってくる。


(兄さんが勝つのが早いか、こっちが死ぬのが早いか⋯⋯⋯)


勝つ為の戦いではなく、時間稼ぎ。


それが今出来る最善手だと京子は腹を括り、刀を強く握りしめた。



 孔雀明王と貴人の戦い、鬼と鬼の戦いは苛烈さを増していた。特に真義と義達は激しく建物を破壊しながら暴れまわっておりどちらも一歩も引く気の無い殴り合いに発展している。拳と拳がぶつかり合う度に轟音と衝撃が発生している。すでにどちらも頭から流血しており、決着も近い。一方で貴人と孔雀明王の戦いも空中からの中距離攻撃から近距離戦へと移っている。光の剣と黒い剣がぶりかり合う。清治と道満も式神を維持しつつ対峙する。道満は槍を手に持ち、清治は刀を構える。


「焦ってるんじゃないか晴明?」


清治の心境を見透かしたように道満が嘲笑する。


「カジナンをこの空間へ呼び寄せた。

本物の禁書を今頃手にしているはず。ハハハ、当てが外れたなぁ?」



「――――――――ッ」



(京子⋯⋯)




 呪術師の中距離攻撃と、死神の鎌による

攻撃を躱し続けて10数分が経過した。

勝つためではなく、回避優先で動き回ったお陰で何とか切り抜けられている。そして相手がこの状況を楽しんで弄んでいる事も分かっていた。それすら縋り、時間稼ぎに没頭して攻撃を回避していたが、全てを躱せるはずもなく服も破れ血が出ている箇所もあり、死神の鎌が少し触れて血が滲んでいる。大量の汗と、過呼吸気味の息を吐いていた。


「くっ」


連続で動いた代償に膝の感覚も麻痺し震えている。紅葉が麻痺した体に鞭打ち刀を地面に突き刺して悔しそうにしているのが見える。


「よくぞ、ここまで持ちこたえたものだ。だがそろそろ休んでも良い頃合いだろう。死神よ契約の履行を果たす時だ」


死神が、鎌に力を込めて突進する。


(最後の一分一秒まで⋯⋯諦めない!!)


絶望に立たされても尚京子は希望を捨てずに死神を待ち構えた。


半ば死ぬ事が分かっていても、それでも気持ちは揺るが無い。


“生きる意思”それは死神の最も嫌う感情。


京子の体から急に光の奔流が溢れ、京子の周囲に魔法陣が幾つも現れる。紅葉、京子は戸惑い、カジナンはその魔法陣に狂乱した。


「これは⋯⋯」


京子はハッとなり、服に仕舞った禁書が光っている事に気が付いた。生きる感情を発していたとしてもこの現象はあり得ない。


【時の大魔導師と魔術師連盟、そして教会が連携を取ってその者の魂と、世界を変える力の根元と思いを“無限に増幅させる力”の3つに分けて封じた】


兄の言っていた事を思い出し


手に持つ禁書の力がどんなものであるかを京子は思い出した。


「おお!!それがかつて天才魔術師が作りし術式か!!死神よ!!早くその小娘を殺してわが手に禁書を!!」


光の奔流に触れると、死神の黒衣の端が消失する。その光の前に進む事は出来ないと死神は判断した。術者であるカジナンに向き直り、死神はカジナンへと歩を進める。


「何をしている!?さっさとその娘を殺せ!!」


死神はカジナンに怒りを露わにして言葉を発した。


『契約ハ“先行投資”。術者ノ代ワリニ生贄ヲ用意スル事デオ前ハ自分ニ不利ヲ被ル事無ク召喚ヲ可能ニシテイル。当然目ノ前ノ生贄ニ手ガ出セナイ以上ハ呼ビ出シタオ前ノ魂ヲ貰ッテイク。死神トノ契約ヲ破棄ニデキルトハ思ワヌ事ダ人間!!」


「そんな馬鹿な!!違う、私じゃない!!生贄はあっちだ!!」


「煩イ贄ホドヨク吠エル。刈リトラセテモラオウカ」





―――――――――お前の命と魂を





全人類共通の死の象徴、死神が赤い目を光らせ


カジナンに向けて鎌を振り下ろした。



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