陰陽庁怪異対策課京都支部 19
綾乃達が空間を通り抜けると、白い世界にデジタルの記号が浮かび上がっている。不思議な空間に躍り出た。無数の一つ目の毛むくじゃらが魂を携え中心に存在する巨大な悪魔に集まっていく。人の形を模してはいるが全身に目玉が浮かび上がっており、この場に現れた百鬼夜行の妖怪達を睨みつけている。人間の魂がその妖怪に取り込まれており炎がゆらゆらと揺れている。
「何だ、貴様らは。人間の魂を奪いにでも来たか??」
「お前と一緒にすんじゃねぇや!!俺達ゃ日本で粋がる外の妖怪に焼き入れに来ただけだぜ!!」
小さい小人の精霊がそういうと腹の底から百の目を持つ悪魔は笑った。
「⋯⋯⋯ククククアハハハハハハハハ!!引きこもりが外に出たかと思えば、寝言をほざく為にわざわざ来るとはな!!よかろう、お前たちを食うてみるのも一興か!!」
自身の体から無数の小さい毛むくじゃらを生み出し日本の妖怪に襲い掛かった。雪女が吹雪で動きを止め火車が暴れまわって先陣を切る。烏天狗がうちわで竜巻を発生させ鎌鼬がその竜巻を大きくする。琵琶の妖怪とギターの妖怪が音を出して動きを鈍くし、大きな3つ目の坊主がこん棒を振り回して蹴散らした。刀の妖怪と銃の妖怪が交互に人型になるのを交代して斬って撃ちまくる。攻撃を受けた毛むくじゃらが消滅してくが、悪魔によって無限に生み出される。
「これじゃ、拉致があかねえ!!お嬢、出番でさぁ!!」
全員奮戦する中、一人少女は空気を読まずに質問とばかりに手を上げた。
「ねえ、ちょっと聞きたい事があるんだけど!!呪いのアプリを操ってるの貴方?」
「いかにも、人間の欲望を叶えてやっているのだ。魂を奪っても文句はなかろう!?」
見せつけるように、自分の体の中の捕らわれた魂をひけらかした。阿鼻叫喚が木霊して、助けを呼ぶ声が響き渡った。
「お前も、こやつらと一緒に捕らえてやろう!!」
体から無数の髪の毛を生み出し、綾乃へ伸ばしたが、ひょいと躱される。ならばと髪の毛を束ねて幾重にも捻じり太くしそれらを綾乃に向けて放つと、回避した髪を足場にして滑り髪を軽やかに足で蹴って跳躍した。着地すると、すでに逃げ場は無く真正面から無数の髪の毛の束の餌食となった。はずだったが、全ての髪が彼女の目の前で止まっている。まるで見えない壁でもあるかのように、そこから進む事を許されてはいなかった。狸の妖怪が火打石を打って絡まった髪に火を着けると鎌鼬の一匹が風を吹いて炎が燃え盛り広がっていく。
「そんなバカな??」
綾乃は無限に増幅する小さい毛むくじゃらを緑にの光に包んで半分消滅させる。
何時の間にか、少女の髪は赤から淡い緑色へと変化している。
「同意もなしに魂持ってっちゃうのは良くないよ?」
諭すように言うと、悪魔は驚愕の声を漏らした。
「貴様、一体何者だ!!何故こんな事が出来る!!」
「うーん⋯⋯⋯何でだろうね?」
自分でも良く分からないと首を傾げて、そう答える。時を同じくして、異世界にて芦屋道満は怒り狂っていた。昔の如月の君との逢瀬を無かった事にされたばかりか見透かしていたように当時自分を欺いていた等と信じられるはずもない。如月の君が生み出した植物の蔓に体を絡めとられ、目の前の禁書を睨みつけた。
「よくも、そのような戯言を言える!!」
「事実なんやけどなぁ。こうやって式が未だに存在しとる以上は」
晴明がそういうと、印を組んで今度は当時の姿のまま顕現させる。彼が愛した如月の君がそこに居た。
「道満様、受け入れ難い事実ではありましょうが、これが真実」
「煩い!!結局禁書等無かった訳か!!人質は全て呪い殺してくれる!!」
「いやいや、嘘は言っとらんで。正真正銘ここには“2つの禁書”が保管されとった。ただ、まー昔色々あったみたいでな。そのうちの一つはすでにここにはないだけや」
しれっとそう言い放つと、道満は驚愕の表情を浮かべた。白い世界の中で、綾乃はその力を開放すると緑の光に包まれる。同時に、悪魔にもその光に包んで宙に浮かせた。もがいてはいるが、指一本動かせない。
「皆を解放して貰うね」
そう言って、綾乃は悪魔の持つ魂を全て解放した。綺麗な炎の魂が、感謝の言葉と共に天に昇って全て元の場所へと帰って行く。
「た~まや~ってか」
「ほほほ、確かに綺麗な打ち上げ花火だこと」
その光景を屋敷の妖怪達も笑って見ていた。
魂が抜ける度に、小さく萎んでいく悪魔を消滅させる寸前で解放し手の平サイズにまで小さくなった悪魔が震えて周囲を見渡している。百以上あった自慢の目も顔に一つついているだけの状態になり顔を上げると屋敷の妖怪達が怒り心頭の表情で見下ろしている。
「言ったよなぁ、俺達焼き入れにきたってよぉ」
悪魔は大量に汗を流して、口を開いた
「あの、その⋯⋯⋯へへへ。ほんと、すんませんでした☆」
ごめりんこ、とばかりに可愛く詫びを入れ悪魔の悲鳴と共にその世界も消滅する。妖怪屋敷に居る玉藻はアプリが携帯から消え再ダウンロードも出来なくなった事を確認すると自分の周囲を飛び回る蝶々に告げた。
「これで“人質”は居らんようになったの。ようやっと反撃の機が満ちた訳じゃ。
とっとと下らぬ因縁を終わらせる事じゃな」
それを聞いて、蝶々はその場を暫く旋回し、そして彼女の下から消え去った。




