The killer of paranoid Ⅷ 14
水蓮は市役所の頂上から、下を見下ろして状況を確認する。1階の退魔師、事務員、解放された市民は2階から地下へと避難完了済み。隔壁の展開によって強固な壁に阻まれ、肉体を強化された訳でもない暴徒に関しては脅威とは言えない状況になりつつある。命令系統が複雑化出来ない以上彼等に戦力的価値は余り無い。それよりも別に命令を与えられ被害が周囲の建物に向く方が脅威的にも感じる。周囲を見渡せば市民で溢れており、空には沢山の式神が浮遊している。これらを同時に排除する事は極めて難しい。幹部達は結局、地下で各部署へと連絡しており、外に出られる状況では無くなっていた。唯一、魔法省へと依頼し、東京へと転移していった星蘭は別としてその他の全員がここへ集められている。
「それでお主らの目的は何か聞いておこうかの」
水蓮が振り向くと、一人の男性が水蓮の背後に立っている。
ハゲ坊主の頭をして濃い髭を生やしたサングラスの男性。
「陰陽庁という組織の再編、日本呪術連盟の復活それこそが我が悲願。DにはDなりの思惑はあるだろうが、この祭りに参画するだけの理由が俺にはある。そして俺の他にも燻っていた者がこの革命に参加してくれている」
「恐竜やシーラカンスみたいな連中が現代でまた羽振りを利かせたいとはのう。どっかええとこ就職先紹介しよか?」
「本来、実力主義こそ全ての世界で、後に生まれたからと正統になれない者達の怒りと怨嗟が生み出した“お前たち”の闇が俺達の始まりだ。自分で生み出しておいて放置してきたツケだろう」
「いやいや、ちゃんと清算はしたんじゃが?。儂の親父と儂の代できっちりとお前たちの組織を潰させて貰った」
「そう思っているだけだろう。現代にもこちらに落ちる者が居るのはその証拠だと思うがな」
日本は当時文明開化と軍国主義に走り、陰陽庁も次男次女以降の者達への栄転先として特別異能処理班として軍の任務に当たらせたりしていた。戦争の最中ではあったが妖怪の類は全国に出没するので正統後継者達は日本に確保して変わらず防衛任務に回って貰い、外敵による異能集団の相手を務める組織に宛がった。当時としてはまだ名誉ある役職だったと言える。戦果も上場ではあったが日本は敗北した。問題は戦後の彼等の扱いにあった。名誉ある組織は解体され一部を除き殆どの者が行き場を失った。正統以外は全てその者の補佐に回る事が常になり、不満は噴出した。当時そういった者達が集まり日本呪術連合を結成して陰陽省庁とは別に巨大な組織へと変貌した。その影響を受けて同じように呪術組織を作る者が後を絶たず。経済成長を遂げる日本の裏では呪術師と呪術師による政治家や政治屋、巨大企業のトップ同士の潰し合い。ヤクザとヤクザの血で血を洗う抗争に絡んでは利益を貪り組織を拡大していった。誰が見ても奇妙な遺体。密室での一家殺人事件、見たことも無い奇病(呪いによる物)が発生し拡大していった。余波は市民にも及び、安い金で呪術を行使する呪術師が急増し。足が動かなくなった者、急に肺が動かなくなった者、目が見えなくなった者。体の不調を訴える者の中に呪術と思しき霊症を持つ者が数多く見られた。またそれだけでは飽き足らず、呪術召喚で呼び出した悪魔や邪霊が蔓延る様になり戦後の世は混沌となりつつあった。これを重く見た当時の政府官僚と陰陽庁は文明開化から続くものの、規模が小さかった呪術捜査機関に人材と金を投入して規模の拡大を図り、大量検挙を行った。抗争の最中に殉職する呪術捜査官、呪術師も数多く、当時の水蓮の父と水蓮自身も協力を惜しまず血で血を洗う抗争に参加した。騒乱も収まり1980年代後半には日本呪術連合は壊滅。現代においてはネットから受注を受けたり、独自の紹介方法を裏の組織に渡して接触と仕事を細々と受けている事が殆どとされ、政府、陰陽庁がマークしているフィクサーからの依頼を受ける事も。その為当時の規模からすれば呪術捜査官の人数も相当数減少したとも言える。日本在住の呪術師達は組織的な動きから個人営業に戻ったと言え、無論裏社会には呪術師が複数名在籍している組織も散見されるが、数と組織力においては当時の日本呪術連盟の非ではなく、現代の呪術捜査官でも十分対応可能な範囲と言える。今は専らグローバル化して呪術師の生業の拠点を海外に移したり、海外の呪術師と共闘組織を作って活動しているとされる。
「差し当たり、お前の命と集まった市民の交換といこうか」
「舐めるでない、小僧」
周囲を取り囲む巨大な結界が発生して、式神が全てその結界の外へと弾き飛ばされる。その衝撃で消滅する物が殆どで、壊れていく音が響き渡る。建物の中に居る人々も、外に居る人々も同時に倒れ込んでいく。
「玄武、このまま範囲を広げつつ結界を維持してくれ。僕は暴れさせて貰う」
「言うと思ったよ令二。君、ほんとに戦闘狂だよね。ちょっとは僕と共闘して欲しいんだけど」
「お前が居ると自分で勝った気がしないんだ悪いな。猫の手も借りたい時は頼りにしてるだろ?」
「状況が最悪になった時にしか呼んでくんないのもどうかと思うよ?もうちょっと楽にスムーズに事件の解決を目指すべきだと僕は思うなぁ」
「東京に転移して貰いに来たら、呪術師が居るなんてツイてるな。電話貰って良かったよ」
陰陽庁のオペレーターから結界を張って欲しいとの依頼があり、令二は二条城を二人の守護者に任せて市役所へ直行してきた。現場に呪術師が居るとは聞いてないので棚から牡丹餅状態。
「ああ、もう聞いてないよこの子は」
「たまに、何で玄武が令二の契約したのかわかんない時あるんだけど」
「いやぁ、令二は間違いなく晴明ともう一人を除けば現代最強の一角の実力だからこそさ」
性格はちょっと問題有るけどね、と一言付け加えると礼二は周囲に目を向ける。
今ここに“立っていられている者”全員が呪術師という事。
好機と状況を判断して侵入者を防ぐ隔壁を解除して倒れた市民を運ぶ者。
残った呪術師を相手に外に出る退魔師。市役所の外でも戦闘が開始された。




