陰陽庁怪異対策課京都支部 16
京子と紅葉は放課後になって京都の街を散策していた。いつも観光客が多いので人の流れが絶えない。書店に行って欲しい書籍を購入した後、二人は喫茶店で休もうとすると、携帯から連絡が入った。
「京子ちゃん、陰陽庁本部が大変なの!!」
本部が奇襲を受けて怪我人と死傷者が居る事と人質として紅葉の父と清治が犯人と共に居る事を告げられる。
「私たちもすぐに向かいます!!」
目の色を変えて、二人は陰陽庁の本部へ向かおうとすると蝶々がひらひらと二人の周囲を飛び回る。
「お兄ちゃん⋯」
「清治さんなの!?」
「ついてこいって事?」
蝶々は何も語らず二人を人気の無い場所へと導いた。ビルとビルの狭い通路で蝶々は姿を清治へと変える。しかしその姿は薄く透けて見えている。
「今、大丈夫なの?」
「ああ、こっちは時間稼いどるさかい今は心配はないで。それより京子に頼みがある」
「⋯⋯私?」
「そうや。今回の首謀者はかつて安倍晴明と肩を並べた芦屋道満と黒人の霊媒師。その目的がこの京都に長らく封印されて来た禁書でな。こっちが辿り着く前にそれを持って逃げてくれ」
「禁書って何ですか?聞いた事もないんですけど」
紅葉の疑問に二人の前に映像を映し出し、晴明は答える。かつて、この世界で神の力を研究し到達した者が現れた。その者はこの世界を自分の物にするべく動いたが時の大魔導師と魔術師連盟、そして教会が連携を取ってその者の魂と、世界を変える力の根元と思いを無限に増幅させる力の3つに分けて封じた。世界に安寧が訪れた矢先教会は二度と神の真似事をする者が現れないようにする為に禁書の奪取と魔術師を虐殺し始めた。教会と魔術師は対立し、人々を唆して魔女狩りを始めて世界はより多くの血が流れた。その現状に悲観した大魔導師は魔術師達が命を奪われぬように異世界を作りそこへ避難させて長らく禁書もその地に封印された。教会の中でも特に力の強い者が度々その世界に現れた事もあり魔術師達は自分達の世界でさえ封印が解かれてしまうのではと恐れるようになった。何代か後の安倍晴明はその地を訪れ、魔術師達に禁書を日本で封印する様に依頼され今日まで禁書を封印してきた。そこまで説明して、清治は一息着く。
「じゃあそんな物が盗まれたら大変じゃない!!」
紅葉がそういうと清治も頷いた。二人の前に大きな扉を出現させて異空間への道を開く。
「道中の案内は保証する。道満よりも先に禁書を持って逃げてくれ」
清治はそういうと蝶々へと戻り、二人は顔を見合わせて頷いた。
京都の橋の道中で、赤い髪の女の子が歩みを止める。橋の手すりの上に、小さな小人が座っているのでそれに気づいた。人ではないが、その姿に誰にも気づかれる事なくそこに居る。姿を確認出来るのは赤い髪の少女以外に居なかった。
「最近、きな臭い話ばっか聞くけどよォ。どうなんだよお嬢」
知り合い同士なのか、その存在は気さくに声をかける。
「ねんどっち、久しぶりだね。私は何も知らないよ。たまちゃんから何も聞いてないけどひょっとしたらそろそろ連絡あるかも」
「最近西から来た奴がこの国でデカイ顔し始めたって噂あっから何かあったら教えてくれや。百鬼夜行でぶっ潰してやんよ」
ねんどっちと呼ばれたのは歴とした妖怪である。その昔、子供が粘土を作って遊んでいて放置され以来100年が経過しても崩れなかったそれは妖怪と化した。いつまでも壊れないでねという物に思いが宿った結果生まれた。
「お、嬢ちゃん久しぶりじゃな。元気にしとったか」
今度は、空から年老いた亀がふわふわ浮いている。
小さな小亀だが、その昔の辺一帯の守り神だったらしい。信仰が薄れて小さくなり、今は気ままな生活を送っている。
「綾乃っち久しぶり~」
と、河童が川の中からひょっこり顔を出したので綾乃は手を振った。
周囲の人間は綾乃の行動を不振に思いながら通りすぎていく。
「おっといけねえや。人間に気づかれちまうわ」
ねんどっちがよいしょと橋の手すりから降りて移動を始める。
「じゃあ、また何かあったら声掛けてくれよ」
「ふぉふぉ、ではの」
「うん、またね!!」
綾乃がそう言うと、妖怪と別れて歩き始めた。




