The killer of paranoid Ⅶ 4
汽笛が鳴いている。
「なんだ、もう着いたか」
心地良い汐風と共に男は中国からの貨物船のコンテナの上で悠々と寝転がって寛いでいる。幸い嵐や雨もなかったので男にとっては快適な船旅と言えた。食料はコンテナの中の肉や魚を勝手に摘んでは、自ら焼いてかぶり付き腹を満たした。魚は内蔵を処理せねばならいが、手刀で手際よく掻っ捌き内蔵を処理した。さざ波の音を背景にして寝そべりながら、船が日本に着くのを待つ。間に持ってきた瓶に入ったウィスキーを飲み干しながら眺めた夜景も満更ではなかった。紅い特攻服を着た青年が体を起こして体を解し、それから一気に跳躍して地面へと降りた。
「何だ?」
作業員が一瞬男に視線が集中する。
「さて、陰陽庁に勘付かれる前に動くか。王禅が日本に来たのは間違いねえ。何やるかしらねえが必ず捕まえて吐かせた後でブッ殺してやる」
凄みを利かせた後で、男の周囲の温度が急上昇する。
「ちょっと、君どっから出てきたの?もしかして密航じゃないだろうねうえあ、あっちあっつ!?」
作業員が彼に気付いて数秒の間に視界から姿を消す。その後その貨物船のコンテナには幾つか熱で溶かされ穴の空いた物が幾つも散見された。
京都市役所、その中の一室で少年が役所の女性と面を向かい合っている。
「その後、学校ではどうですか?橘葵さん。転校して程なくして卒業になるかとは思うのですが」
「分かってるなら、無理に聞かないで下さいよ。
急に転校になりましたって自己紹介したら、ほぼ全員から『今』って突っ込み返ってきたんで」
家の問題で卒業近い1月に急に京都に転校になった。親の都合で可哀想と思われている空気は流れていて、葵はその空気のまま誰とも三年間の思い出を偲ぶ事もなく卒業しそうな現状。同じ高校に通う事になる者もまだ見つけられていない。
「高校に入られると同時に本格的に陰陽庁の仕事に入って貰うのですが、その前に試験的に任務に就いて貰います。どういった案件かまだ思案していますが、初任務にいきなり難しい案件が来る事はまずありませんので安心して下さいね」
「助かります」
「そういえば、東京では陰陽庁に入って無かったんですね」
「うちの親の方針があって、自主性に任せて貰ってたんです。爺ちゃんは小学校くらいから行け行け煩かったですけど。行かない代わりに剣の修行が苛烈で気付いたら自分もこうなってました」
剣術に加え、符術も覚えていてほぼ即戦力。
「東京はエリートの集まりですし、そっちでも通用したかもしれませんね。ところで制服ですがどうされます?」
東京では、全員スーツ着用で京都の様に白装束を見るのは稀である。警察の服装を着ている者も居るとか。神社仏閣の多い京都ならではとも言える。
「スーツでお願いします。白装束だと多分動き難いと思うんで」
それから葵の取り決めを幾つか行い、契約に署名してその日は終了となった。
市役所の待合スペースで早苗と紅葉が座って待ってくれていた。今日本部より招集が掛かって右往左往していたら、二人が案内を買って出てくれた。
「あ、来た来た。どうだった?」
「4月までに試験的に一回任務挟むって言われたよ。難易度低めの案件回して貰えるって話だから多分問題ないと思うけど」
「大丈夫ですよ。葵さん剣術の腕は私達より上行ってますし」
早苗の言葉に少し救われた気になる。
「だといいけど」
「ま、いきなり私の様に大事件に巻き込まれるなんて事そうそうないわよ」
「自慢かよ。もう何度も聞いたって」
去年の大事件の話を度々聞かせてくる。その次は白虎自慢。
「ところで、紅葉。白虎だろ?呼び名おかしくないか?」
「いいのよ。私が気に入ってるんだから白虎で」
「白虎ちゃんも気に入ってたし問題ないと思うわ」
「俺前それ聞いたけど雷落とされたんだが?」
「前の使役者に似てるから気に食わないって言ってるけど。災難よねあんたも」
紅葉が少し同情して、3人で市役所を後にした。




