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The killer of paranoid Ⅶ 2

 海人は、目覚めぬ妹の傍に立っていた。1か月、2か月前はあんなに元気にしていたのに、辛そうに衰弱をしていく姿を見るだけになっていた。頬も痩せこけて、目は虚ろになっている。夢の住人という神の使徒が現れ、妹を助けたいなら人の思いを集めて妹の生きる意思を増幅すれば良いと言われて、無理やり人の思いを奪ってきた。沢山のキューブが集まり、手の平には巨大な四角形の塊が出現する。これは小さなキューブをかき集めて、合体させた物。善なる思いも悪なる思いも選別等せずかき集めた。更に力を込めて圧縮して丁度掌に収まる。先程の淡いグリーン色から水色へと変化する。生前のハクが言うにはこれでもまだ足りないらしい。妹に生きたい意思があるなら2月14日に出現する妖怪を弱らせてキューブ化するしかない。そしてこれを、妹の体に入れれば彼女の死期は死神の定めた日からは解放される。病気は生涯を通じて付き合っていくしかない。それでも目前の死を回避する事が出来る。


近道が無かった訳ではない。


一人の少女を誘拐し、怪しげな呪術師へ持っていけば


禁書という名の神へと通じる力が手に入る。


その力を持ってすれば、妹の生きる思いを無限に増幅できると聞いた。


「D」と呼ばれる存在に誘われ海人は一度はその悪魔の囁きに耳を傾けた。ハクに相談したが、関わらない方が身のためだと再三言われたが誘惑に勝てずに手を差し伸べてしまった。


「海人さん、私の力不足は認めますがそのやり方は間違っています」


「煩いな、だったら妹に取り付いてる死神を追い払ってくれよ」


「⋯⋯⋯」


一人の少女を誘拐する犯罪に加担した。


結果は、失敗に終わった。


逆に返り討ちにされる始末。


「何であれが居るんだよ!!!」


「引いちまいな!!!」


「どのみち、このスピードで止まる事は出来ん!!跳ねて進むぞ!!」


時速110キロのスピードで、車で跳ねる直前、車体は急に下から何かに吹き飛ばされたかのように、大きく宙に浮かび上がった。


「そんなバカな話があるか!!全員ショックに備えろ!!」


「これだから陰陽師って連中は!!!」


ーーーーーーゴン!!


という音と共に、車体が跳ね上がる。


そのまま、横転して高速道路の下へと飛ばされ、車体は大破して炎上した。炎が揺らめく中で、少女が顔を覗かせる。


「私、言いましたよね。紅葉のお礼はさせてもらうって」


男が女を肩で歩かせ、海人も命からがら逃げだした。追って来なかったのが幸いしたが、本気で来られていたら命は無かっただろうと言う事は理解出来ていた。彼等の拠点の一つらしい古いアパートメントの一室で、ベッドで女性が呻き声を上げて苦しんでいる。幸い海人は軽傷で済んだが、女性は重症の様に思える。男性は頑丈そうに見えるがそれでも肋骨に皹が入っているのか、折れているのか手で押さえている。扉が開くと、男性が二人入ってくる。


「派手にやられたね」


「『D』仕事は失敗に終わったが、仕事分の報酬は貰うぞ」


「当然だよ。振込はしておいた。闇医者を連れてきたから治療が終わったら作戦会議に移ろうじゃないか。始めてくれ」


「次?まだやるの?」


「当然だろう海人君。僕等の目的は禁書の奪取だ。違うかい?」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


「妹さんの為にに頑張るんだろう?偉いじゃないか。今度はあの少女を犠牲にすれば君の願いは叶うぞ少年」


「⋯⋯⋯」


「おや、その目と表情は引きつっているね」


「⋯⋯⋯」


「まさか、まさかとは思うが妹さんの命を諦めるのかい?」


「⋯⋯⋯」


妹の命を諦める訳にはいかない。


「いえ⋯」


「そうだろう!?迷う事はないさ!!」


妹の顔が思い浮かぶ。


嫌な汗が大量に流れる。


血の気が引いて顔が青ざめる。


視界が狭くなり回り始めた様にも感じる。


息が過呼吸気味になり


心音が早くなる。


先ほどの少女の顔が浮かび


妹の笑顔も思い浮かぶ。


少女を犠牲にしなければ妹の命はない。


先程の少女の顔がフラッシュバックする。


「⋯⋯⋯」


「顔は正直だな、少年」


「すみません」


海人と「D]の視線が合う。暫く無言の硬直が続く。


Dの表情が鋭くなり、声色も変わり、海人へ近づく。


海人は逆に一歩ずつ下がった。


「今更善人ぶるなよ。逃げる道はもうないぞ?君の進むべき道もだ」


『13歳の少年を捕まえてそれほど驚かせなくてもいいではありませんか』


「来たね、神の御使い。どこに居る」


『どこと申されましても貴方の夢、または心、貴方が感じている部位で言えば頭の中という事でしょうか。しかし、復讐の為にとんでもない事をお考えですね。私陰陽省という組織知りませんけれど、彼等に目的をお伝えして台無しにする事は容易に出来ますよ?』


「それは勘弁して欲しいな。用件は何だ」


『少年を無傷で解放してください。それと今後彼に近づかない事、あなた方の目的に関わらせない事です。これを違えば貴方の魂を砕きます』


「神の使いが地上で力を使えばどうなるのか分かっているのか」


『あら、直接創生の神と誓約し、幾年を生きた私が知らない訳ないでしょう。舐められているのかしら?』


禿げの男が警戒しているが、「D」は仕方ないと両手を挙げる。


「オーケー、分かったよ。だが情報が漏れたと感じたらこっちも容赦しない」


『分かってますとも』


「仲間に欲しいなと思ったんだけどね、残念だよ少年。神の御使いに敵対しようとは思ってないさ。何なら埋め合わせもしようじゃないか。この後妖怪と戦うんだろう?僕らは気が合うと思うがね」


『手伝って頂ける分には感謝しますが、私に距離は関係ありません。貴方の魂は覚えましたからいつでも行く事は出来ます。後ちょくちょく様子見に来ますのでそのおつもりで』


「行け少年」


海人は、身を震わせながらそのアパートメントを後にした。


「だから言いましたのに。あの連中とは関わるなと」


「⋯⋯⋯ごめん」


「ですが貴方が彼等と共に行くのであれば止めるつもりもありませんでしたよ。落ちていくのを眺める事もなろうとも」


「僕に出来るのは精々悪戯くらいだと心底理解したよ」


本物の悪になる覚悟は無かった。

急にハクが隣に現れる。


「貴方は唯、姫の命に真っすぐ向き合うだけでいいのです。道を外れてはいけません。姫が助かる可能性はあるのですから」


そうだな、と言って臨んだクリスマスの決戦前夜、そして当日になり可能性は一つ潰えた。ハッっとなり、海人は今はもう居ないハクの事を思い出していた。時間が経過していて、妹の顔を覗き見る。肌の色は白くせ細っている。可能性があるならばと海人は掌を握り、キューブを仕舞い妹を背にして彼は病室を後にした。



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