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陰陽庁怪異対策課京都支部 15

 芦屋道満は晴明に並ぶ当時の天才陰陽師と言われ、比肩される程の腕の持ち主ではあったが、才能故か目上の存在に対する礼儀に軽薄であった。そんな彼が目を奪われたのは晴明の若妻で彼女目的で弟子入りした後、密会と会瀬と蜜月を繰り返した。結局見つかり破門にされたが弟子として師の陰陽術を間近に見て研究は怠ってはいなかったとされる。力を付け大臣のお抱え陰陽師に上り詰めると、藤原道長の一族を呪いを掛けて殺す様に命じられ、それを実行した。その呪いを晴明に暴かれ、京を追放にされたが、遠く離れた地で道満は呪術を晴明に差し向けた。それを知るや否や晴明は彼の居る地に乗り込んで決闘を行い討ち取った。目の前にいる芦屋道満を名乗る男の面影は確かにあるが清治は晴明の記憶の中で確かに彼に引導を渡す映像が残っている。小屋の中で壁に背を持たれ、もう動けなくなった彼に最後に槍で心臓を貫いて絶命した。


「殺したはずの道満が生き返るはずはないが?」


「単純に甦った訳じゃないさ。実はあれ丁度脇の隙間に刺さってね。幸運だと思ったよ。彼が去った後槍を抜いて逃げ延びたものの体がボロボロで仕方がないからその辺の子供をを乗っ取ったのさ」


「⋯⋯外道な真似を」


「君らだって似たようなもんだろう?代々に記憶を植え付けて」


体には才能の個人差があり、乗っとり行為を母体が気づいて阻止された事もあった。魂を入れ換えるには妊娠中が一番良い。道満は時折表舞台に姿を表し暗躍した事もあったが、陰陽庁と当時の晴明に気づかれる事を恐れていた。平成の世になり、陰陽の才能溢れる体に生まれ変わった時その血筋を調べて歓喜した。


「信じられるかい?あの有名な役小角の血統だったなんてさ」


「それで、長い年月を経て溜まった復讐心を晴らしに来たと?」


「まぁね。今なら君たち全員が相手でも赤子の手を捻るようなもんさ」


道満は目の前に美しい天女を出現させる。空高く舞い上がり彼女は光輝く綺麗な孔雀の羽が生やした。手を掲げて圧縮した重力の塊を出すと黒く輝く玉の結晶はみるみる膨らんでいく。


「不味い、孔雀明王か!!」


清治も札を取りだし、十二神将を呼び寄せる。


「おいでませ、勾陳こうちん皆を守護せよ!!」


金色の蛇が姿を表すととぐろを巻いて上空を睨む。威嚇すると広域に守護結界を張り巡らせる。重力の塊と結界がぶつかり、激しい音と爆風が吹き荒れた。結界は破られずに、攻撃を防いでいる。道満は舌打ちして遊んでいる真義に命じた。


「真義、あの結界を壊せ!!お前の力なら容易いはずだ!!」


「そうはさせん!!」


妹を止めようと義達が止めようとしたが、何者かに足を掴まれる。地面から沸いて出る骸骨に一瞬足止めを食らう。その隙に、真義は勾陳の結界へと跳躍した。瞬時に棍棒を出現させ、大きく振りかぶって結界に一撃を加えた。重い衝撃が響き渡り、結界に皹が入り、結界が壊れ始める。


「じゃあ、そろそろ死ぬといいよ」


孔雀明王の第二撃が放たれ、結界が壊されて全員重力に押し潰される。沸いて出た骸骨毎、陰陽庁の幹部を地面に這いつくばらせる。清治がかろうじて、勾陳の力で全員の周囲に小さな結界を張り被害を抑える事に成功したものの、その殆どが意識を失った。義達、晴明、寛治、星蘭がかろうじて起き上がり、戦う意思を見せる。


「いいのかな?こっちには大勢の人質が居る事を忘れないでくれよ」


道満が携帯を取り出して、4人に告げた。


「こちらの意思で今すぐ、“呪った奴”を殺せる」


カジナンがそう告げると4人が絶句する。


「道満⋯⋯⋯⋯!!」


「晴明、最高に良い顔してるよそれ!!アハハハハハハ!!」


「かつて神を殺した一族が作りし魔術を封じた禁書があると聞いている。今すぐそれを出して貰おうか」


「禁書を一体何に使うつもり?」


星蘭が訪ねると、カジナンは真面目に答えた。


「それがあれば、黒人の社会を中心とした世の中を作り出せる。1980年代の様な過激さこそ無くなったが今の政権でどうなるか分からないからな」


ダックジョーカーの提唱する米国第一主義の中に白人至上主義とも取れる政策が盛り込まれており、現在白人と黒人が再び対立しつつある。今後生まれる大統領を呪い殺せるようになれば白人至上主義者も黙るに違いない。


「こんな事しておいて、世界平和の為に役立てますって?信じらんない」


星蘭がそういうと、道満は苛ついた表情で告げる。


「君らの信用を得ようなんて思っちゃいないさ。こっちは命令してるんだ」


携帯を4人に見せると、晴明は深い息を吐いて、巨大な扉を出現させる。


「禁書はこの中や」


「成る程、異空間の中か。用心深い“あいつ”らしいな。晴明、お前は道案内としてそしてこの男も人質として来て貰う」


寛治が名指しされ、寛治は晴明に視線を向けると、アイコンタクトで頷く。


「元よりそのつもりや。この中に入ったら禁書を手にするまでは戻って来れん。あんた並みに陰険な先祖が作った迷宮やしな。星蘭は皆を頼むで」


「俺はこの場に残ろう。万が一連中がこの扉を破壊する可能性もあるからな」


「宜しく頼むよカジナン、それじゃお宝探しの始まりだ」


道満と寛治、晴明は扉の中へ入り、カジナンはその場に座って結界を張って座り込んだ。2匹の蝶々が、星蘭のすぐ側をひらひらと舞い、飛んでいく。そして、蝶々はふわりとどこからとも消えてしまう。瞬時に転移して蝶々はある女性の回りを旋回し続けた。どこかの宮殿の中で椅子に腰かける九つの尾を持つ狐の女帝。


「なんじゃ、晴明が訪ねてくるとは面白い事がありそうじゃのう」


女性は、妖艶な笑みを浮かべて蝶々を見つめた。



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