The killer of paranoid VI 4
白衣を着た医師が写真を壁に貼って二人に見せる。他の遺体のX線写真もある。遺族が居る場合は解剖許可に承諾が必要だが許可が下りなかったらしい。解剖された写真やX線写真を見ると、心臓が歪に歪んでいるのが見える。人の手形の様に五指によるものだと素人でも理解出来る。
「明らかにおかしな痕跡です。手術痕はないのに、何者かによって心臓が握りつぶされている。これだけ手の形をしているのは不気味としか言いようがありません。他の遺体と比べても類似性が高いですし・・・ですがあくまでも心臓発作としか言いようもないのが実情です」
首に絞殺された様な痕跡がある遺体と表立って殺された痕跡は無いが遺体を開くと心臓に手に握られた様な痕跡がある遺体が写真に収められている。しかし呪い等とは口が裂けても言えない。
「指紋や手相なんかはついているのかい?」
「いえ、そこまでは検出出来ていません」
「何、手の痕跡があるってだけでいいんだよ。それで古谷君はこれらの死体から何を推測するかね」
「被害者遺族を当たります」
「まあ、無難だな。でも面白くない」
「事件に面白いも何もありませんよ。被害者遺族が復讐に駆られるケースは通常の殺人事件でもない話じゃない。呪術となれば尚更です」
少しお待ちを、と古谷が鳴っている携帯に出る。
「分かりました。一度そちらに戻ります」
「何か進展でも?」
「最近自分の手元を離れた呪術師が羽振りがいいそうで、潰したい思惑のある大物からの横槍だろうって話ですが。以前にも何度か犯人特定に貢献した人物だそうで信憑性がある話みたいです」
「仲介者は知らぬ存ぜぬを貫けばただ、“利する二人を会わせただけ”って立ち位置を貫けるからねえ。商売仇を潰したいって連中は今も昔もやる事は変わらないな」
「女性に年齢を聞くのは野暮ってもんじゃないかい?」
「すみません」
「いいさ。一度京都の呪術捜査本部も見ておきたかった所だ。案内を頼もう。春馬っちもこっちにくるかもしれんと言ってるしな」
「誰です、それ」
「おや、呪術捜査官の癖に知らないのかい。現代の安倍晴明を名乗る陰陽の長だよ」
テラメア神のサイトを運営する事務所に、青葉と共に一人の少女が現れる。その場に居た全員が目を丸くして開いた口が塞がらない。タレントになってもおかしくない可愛い少女が殺し屋のおっさんと一緒に居る時点でそこはすでに異次元なのだから。
「冗談はよして下さいよ旦那。レオンじゃあるまいし。こんな子供連れてくるって⋯⋯まさかそんな趣味が?」
「それこそ冗談でも笑えませんね。彼女はすでに一端の呪術師ですよ」
「はぁ!?え?⋯⋯呪術師!?」
テラメアを疑似神へと押し上げた少女を青葉は引き入れた。というのも、彼女の思いの強さで維持されている様なもので、彼女の気持ちが薄れるとまた以前と同じ状態になるだろうと青葉は推察した。青葉と萌は電話で幾度かやりとりをした。邪魔な祖母を排除して他界して貰い、生前お世話になったという名目で少女に近づいた。葬式にも立ち合い、何かの縁を思わせて彼女を諭して引き入れた。神による天罰を己が自身で裁く機会と術を教えると伝えると彼女は疑いもせずに闇の中へ飛び込んできたのだ。疑似神へと押し上げた彼女の呪術量は素晴らしく、呪術の素養もあった。何件か仕事を任せてすでに数名の命を奪っている。その為こちらへ連れてきても問題なかろうと青葉は判断した。ちなみに彼女は“正義の裁きを下した”と当然の様に思っている。
「まあ、師匠と弟子のようなものですかね」
「この業界、師弟関係が無意味ってよく言われてるじゃないすか」
弟子が育てばただの同業他社になる。師匠を殺す親食いの世界が呪術界隈。
「私はテラメア神の信徒です。テラメアの教えを導く教祖である青葉さんに背くなんて事はしません」
「信徒って⋯」
青葉はそっぽを向く。
その対応で青葉が彼女を基本的に騙している事に察しがついた。
「あんた、死んだら地獄行きっすねぇ」
「元々天国に行く為の身分証はないと思ってますよ」
やれやれ、と青葉は帽子とコートを脱いで席へと着いた。




