陰陽庁怪異対策課京都支部 14
呪いのアプリは無料ではない。コンテンツ配信元の厳密な審査を通り、許可されたものだけがダウンロード販売可能となっている為、製作者の面は必ず割れる。陰陽庁東京本部の陰陽師真辺は東京の墨田区にある小さなゲーム会社を訪れていた。RPG,落ちものゲーム、レースゲーム、それらの経験を経て今回の呪いのアプリを制作して販売している事までは調べがついた。
(さて、どうしたもんかね)
特に犯罪を犯したわけでもないし、呪いで裁く法律は現行法にはない。捜査権限もないので、少し話を伺うくらいしか出来る事もない。出来るとすれば警察の呪術師専門の特殊部署だが今回は動くのが遅い。今日は事前にアポを取り、出版関係を装って来ている。会社の住所を調べると築年数も結構経過しているビルの中に事務所を構えているようで建物の空気も淀んでいた。2Fにある会社の扉の前に来ると黒いスーツ姿の男は溜息を吐いて、ドアをノックした。返事は無い。代わりにつんとくる臭いが鼻を刺した。口元を手で押さえて嫌な予感がしてゆっくりとドアノブを回すと、何者かに荒らされた形跡があった。目に見える範囲の物や置物が散乱し、壁紙が何かに引っかかれた爪痕のような物が目立つ。パソコンとLANケーブルも無残な姿で複数個転がっており、床は首と胴が別れた遺体が転がっている。明らかに異常な殺害現場だった。真辺はすぐさま警察に連絡をしてそれから陰陽庁にも連絡を入れた。ビルの監視カメラには赤いパーカーのフードを被った少年と民族衣装を着た黒人がビルの建物に入っていくのが映っており警察は二人の素性を急いで調べている。京都にも情報が伝わり、幹部会で話し合いが持たれた。水蓮が紅葉の父、寛治によって呪いの発動が行われる事が確認された事を告げると幹部の中には明らかに寛治を良く思わぬ者が眉を顰めた。
「今度は、実験と称して誰が狙われる事やら。本当に事故だったか疑わしいですな」
幹部の一人が明らかに嫌悪の感情を寛治に向ける。
「弁明も出来ませんが、流石に自分の身を投げ打ってまで殺したいとは思いませんよ」
人を呪わば穴二つ。自分も墓穴に入る事前提で呪いが発動するなら誰でも御免被りたい。
「ゲームの製作者が生きておればまだ原因究明に近づいたものじゃが」
「こうも、先手を打たれるとこちらの動きようがありませんね」
羽津流が返すと水漣も頷いた。
「似たようなゲームは腐る程ありますし、規制を掛けるにしても理由が必要です」
「映像を見る限り、監視カメラの映像に二人は気づいておる。にも関わらず放置したのは捕まえられない余程の自信があるらしいのう」
「それは、日本の警察機構の捜査力を甘く見すぎている。そのうち身元は明かされるだろう」
「だといいがの」
玄府の発言に水蓮が溜息を吐くと、清治が視線を横目に移した。
「皆、気ぃ付け。何か来よるぞ」
その場の全員が緊張を持って周囲に気を配ると、同時に襖を破って化け物が現れる。見たこともない2本の脚で立つ獅子。口から火を吐いて水蓮に放ったが結界を張ってそれを防いだ。その隙に、背後から少年が水蓮の首を掴む。
「陰陽庁のトップともあろうもんが、これしき防げないもんかね」
「お主は??」
赤いフードを被った少年がそう言うと、水蓮の体が石へと変わっていく。
「解除は出来るだろうが時間は掛かるだろう。せいぜいそこで全員死ぬ所を眺めてろ。来い、我が忠実なる僕 真義」
鬼へと変貌した五鬼真義が召喚に応じて姿を現した。幹部の一人、彼女の兄妹である五鬼義達が驚愕して思わず叫んだ。
「バカな??目を覚ませ!!真義!!」
義達も鬼へと変貌して襲い掛かる真義と組み合う。青い髪は赤へと変わり、額から角が出る。
「真義の相手は俺がする!!皆は他を頼む!!」
そう言って、義達は真義と組み合い始めた。鬼の怪力による取っ組み合いは凄まじく宙を飛び回り、建物を壊しながら行っている。獅子は咆哮してから幹部の一人を胴体から噛み千切る。鮮血が床を染めて羽津流と命が悲鳴を上げた。星蘭がすかさず、式神を呼び出して獅子を相手に立ち回った。千寿観音の姿をした少年が現れ、両の手を合わせると無数の手が獅子を弾き飛ばす。
「どうやら、坊やには躾が必要ね」
「ハハハ、君らの相手をしているのは僕だけじゃないよ」
少年がそういうと、襖の外から獅子の飼い主が姿を現した。
「我が命に答えよ、ヴァランジ・ミール」
民族衣装を着た黒人が悪魔を召喚すると、鳥と人の融合を果たしたかのような存在が命を浚う。寛治が慌てて助けを乞う手を掴もうとしたが間に合わなかった。命も瞬時に印を組んで、周囲に水を発生させ、塊はやがて氷になり鋭い鋭利な刃物になって悪魔の頭を貫いた。悲痛な叫びを上げて地面に落ちると、命は着地して周囲に備える。
「命ちゃん、大丈夫かい?」
「ありがとう御座います」
寛治が尋ねると命はこくりと頷いた。悪魔の中にも日々人間の感情によって生まれる存在もあるが太古の昔より生まれた悪魔は階級によって管理されており爵位や階級によってその強さも変わる。黒人が出したのは地位も無い雑魚。黒人は更に地面に魔術文字で描かれた光輝くサークルを出すと地面から怪しい光を秘めた骸骨が何体も現れた。
「小癪な、全て叩き割ってしんぜよう。雷神召喚!!」
玄府が背中に太鼓を持つ青鬼を召喚し、太鼓を叩くと雷を放出した。雷がグールに直撃して灰へと変わる。同時に建物にも引火して屋敷が燃え始めた。
「お前は何者や。世に恨みがあると言うよりは俺らにありそうやが」
「ああ、今の君には関係もないが記憶は受け継いでいるんだろう?晴明」
フードを取って、その少年の全貌が明らかになり晴明の記憶に面影を感じた。安倍晴明が存在した陰陽師の栄えた時代に存在したもう一人の天才陰陽師
「芦屋道満」
その名前を告げると、少年はその回答に満足した笑みを浮かべた。




