The killer of paranoid Ⅴ 2
お前が逃がした物の大きさを自分で確かめろという、メッセージを京子も肌で感じていた。大きな建物が見え、網が張られているような監獄ではなく、この建物の中に幾つもの小さな個室が連なっている。令二は周囲を伺い、警戒したがそのまま駐車場へと踏み入れた。
(こっちの顔までは覚えてないか)
逮捕する際、手帳を見せるので名前を覚えていても不思議ではないが呪術を扱うならば、本来呼び出す必要はない。遠距離から一方的に呪殺出来るのが強みであるのに、それをして来ないという事は令二の情報が名前しか知られていない事を意味する。呪い殺すのに物理的距離は必要ない。遺伝情報、指紋、顔等の解り易い特徴。普段身に付けている物、思い入れ、思いが残っているもの等が呪殺には必須である。車から降りて3人は駐車場から玄関へと向かう。その先に、銀髪の女性が見えた。20代後半の白い肌が特徴的で耳が少し長くエルフの様にも見える。こちらを見るなり、挨拶を交わしてくる。
「ハイ、令二も千鶴も元気そうね」
「アリ!!こっちに来ていたの!?」
「ええ、咲から連絡が来てね。念思痕の解析を依頼されたの」
魔法省から来ている魔法の国からやってきてきた異世界人。彼女達が感知者の感じ取った物を可視化する技術を発明した。それによって近年呪術捜査の理解が飛躍的に伸びた功績は大きいと言える。昔は感知者の感覚のみを頼りに捜査を行っていたが、陰陽庁関係者以外には信用されていなかった。それ故に裁判が起これば相手の勝訴が確定していた。念思痕の概念が生まれて以降、目に見える形での情報として確立されても尚暫くは警察の重鎮達に信用されなかったという。結局、感知者の能力精度の試験を繰り返し、それに伴う情報の開示を行い、相手がいかに凶悪な犯罪者であるか理解してもらうのに時間が必要になった。現在は、事情通の弁護士、検察、裁判官が揃って動く事になっている為、裁判は茶番劇となっている。
「アリ、呪術師ってなんで拘置所に放り込まれるようになったか知ってる?」
「基本的に、殆ど死刑囚だからじゃないかしら?日本は死刑が確定された後、刑が執行されるまではここに放り込まれるんじゃなかった?」
そんなやり取りがあった後、4人は入っていった。3人は、建物内部にある会議室の円卓に座って東京の呪術捜査官と刑務官数名、矯正監、そして陰陽庁から京子、京都の呪術捜査官2名と、魔法省から一名が出席している。挨拶を済ませてスクリーンには、脱獄囚人3名の顔写真と、今回の呪術犯罪を行い、令二を連れてこいという要求をして来た3名の顔写真が映っている。会議が始まり、東京の呪術捜査官が状況の説明を始めた。京子の姿を見ても驚いていないのは拘置所の面々では矯正監くらいのもので、看守達は子供がこの場にいる事に驚いている様子も見られた。
青葉直彦 42歳
12年前、呪術を用いて104名の大量殺人を行った主犯格。宗教じみた組織を創設し、信者からの信仰を集めて疑似神を生み出し操った。信者の願い、尊敬、畏れを生むため疑似神を操って信者の呪殺の願いを叶えていった結果大量殺人へと至った。逮捕に至るまでに当時の呪術捜査官、警察官にも甚大な被害をもたらし、104名の中には彼等も含んだ数となっている。
明野鞍馬 37歳
青葉の作った組織の幹部。元陰陽庁関係者であり、退魔師の家系に属しながらも、力に溺れて道を踏み外した外道の者。彼に会う前にすでに数名その手にかけている。青葉と出会ってからは枷が外れたように金で呪殺を行うようになった。
斎藤萌 26歳
青葉に殺して欲しい程憎い犯人の呪殺を依頼してから彼女の人生は一変した。両親が襲われ、殺されて犯人が逮捕されたが、死刑が確定してもすぐに死ぬ訳ではないと知ると、彼女の絶望が狂気へと導いた。青葉と出会って檻の中にいる犯人の呪殺を依頼すると翌日にはその願いは果たされた。青葉に傾倒し、組織を支え、遂には呪術の才能を開花させ、組織の駒として数多の人間を呪殺した。困っている人の願いを叶えているだけという当時の少女の扱いには困惑したものの、手に余る程の危険性を鑑み少年院ではなく青葉と同じ境遇へと置いた。




