The killer of paranoid Ⅴ 1
京子は新幹線の車窓から、過ぎ行く景色を眺めていた。東京にある拘置所まで、ある理由から呪術捜査官2名と共に行く事となっていた為である。数日前、呪術師が拘置所を強襲し、脱獄囚と共に看守と囚人を多数殺害。これを受けて東京の呪術捜査官も数時間後にて現場へと急行している。外で見守る看守達の前に扉が開かれると誰かの囚人の足がドラム缶を蹴り転がした。赤い液体を撒き散らしながら、転がるドラム缶の中には、複数名の呪術捜査官が詰め込まれいる。
京都の呪術捜査官、霧島令二を連れてこい
さもなければ囚人を皆殺しにする
とドラム缶には血文字で描かれており、待機していた看守達は慌ててその場を逃げ出した。残ったのは、現場に行かせて部下を死なせた呪術捜査官の上司であるが、多数の呪術師を相手に一人で乗り込むのは愚作と考え上に報告を行い、呪術師との交渉を担った。彼が到着するまでの食事と飲料の提供を行い、今尚緊迫した状態が続いている。東京の陰陽師達は、呪術捜査官と共に国家主要人物の警護を強化、それに伴い指名された京都の捜査官、霧島令二の召集と事態の収束を図る事となった。重苦しい雰囲気の京子と違い、白崎千鶴という少女には観光気分の様に高揚して見える。対して霧島令二は缶コーヒーを口に付けながら、先の事を思案していた。古来より、呪術師を生業とする者達の中で徒党を組んだ例は数多く存在する。退魔師達の多くの犠牲によって世界の安寧があるという事も事実であり、今回の出来事もその中にある一つに過ぎない。明治から昭和に至るまでに日本でも数多くの組織が作られては消えている。中国を見れば聖道士と呼ばれる集団が存在し1980年代にブームになった魔物を従えて活躍しており、今も尚呪術師達との激しい闘争が続いていると聞く。光が生まれれば闇も同時に生まれる様に、相反する勢力は片方に重きを動く事なく水平を保っている。京子は呪術捜査官の2人と共に、拘置所へとタクシーを使って移動を始めていた。
「そういえば、今から拘置所へ行くんですよね?刑務所じゃないんですか」
京子が質問すると、令二が答えた。
「昔は刑務所に閉じ込めていたみたいだけどね。色々あったと聞いたけど、一番の理由は折角捕まえたのに、裁判で負け続けたせいじゃないかな」
京子の目が点になる。昭和初期の話である。ある者が大企業のご子息に嫌がらせの為、呪術を使って苦しめた。肌が荒れて、髪が抜け落ち、美貌が消えて痩せこけた。呪いだと特定され捕らえられた呪術師が、自分の身内に連絡を取って助けを乞うた。それが裁判に発展して無罪を勝ち取り、それを皮切りに逆転無罪が頻発したのである。元々こじつけで牢屋に入れたものだから、物証等皆無に等しい。 負けて当然。それ故に素早く嘘の起訴事実を作成して、拘置所に拘束したまま、外との連絡を取れないようにする為に秘密裏に拘置所に呪術師専門の監獄を作ったという。取り調べや裏を取る時間に長らくの拘束を要する為でもあるのだが。起訴され刑が確定した後はそのままそこで罪の大きさに関わらず解放される事なく引き続き収容されるのである。
「え?呪術師が刑務所で看守殺しまくったり徒党くんだりして脱走しまくったからって聞いたけど?」
千鶴も信憑性の定かではない話を引っ張り出してきた。
「色んな事情があるんですね」
京子が感心している間に、目的地の拘置所が近づいている。京子が東京に呼ばれた理由は脱獄囚や今人質を取っている囚人を捕縛、制圧する為ではない。自分が見逃した呪術師が関与している可能性を示唆され、兄の命を受けて確かめに来ているのである。




