The killer of paranoid Ⅲ 13
ホテルの上空で音がして、下に居た者達はガラスが降ってくると察知すると声を荒げて皆慌てて逃げ始めた。子供が一人逃げ遅れて母親が駆け寄ろうとする前に、上から何者かが現れ落ちてきたガラスから子供を庇う。
「いかんいかん、子供を傷つける所であったわ」
「あの、ありがとう御座いまーーー」
母親の悲鳴が上がると、嫉妬の権化は次の獲物を探しにまた飛び立った。大勢のカップルが移動中の交差点が見え、指をならして小規模爆発を連続して引き起こす。その場に居た
者達の悲鳴が上がり、テロが発生したかのように全員が蜘蛛の子を散らした。
「リア充、爆発すべし!!!!フハハハハ!!!」
光輝く鎖が急に体に巻き付いて、空中から地上へと落とされる。
「そろそろ大人しくしてもらおうか」
「同士よ、何故邪魔をする!!お前からも聞こえてくるぞ!!何でクリスマスに仕事しなきゃいけないのかなーとか色々考えておろう!!」
「煩いよ、この後仲間とクリパがあるからとっとと片付けさせて貰うよ!!」
春坂が、しっかりと鎖で縛り上げて身動きを封じると、次いで札を散布に取りかかる。
「悪いね、おじさん。そいつ僕の獲物なんだ」
急に、少年の声が聞こえた。
聞き覚えがあり、空中に目を向けると、紳士服を着た仮面の少年が空中で静止している。マントを靡かせ、シルクハットを被った仮面の少年。ステッキを掲げると、春坂は巨大なドーナツに体の身動きを奪われ地面に転がる。
「少年、君の目的は一体何なんだい!?一人で抱える事はないんだぞ!!何があったのか話を聞かせてくれないか!!」
「ごめん、おじさん。言っても無駄って分かってるから」
「何か分からないが好都合!!助かったぞ少年、ケーキをあげよう!!」
「ケーキなんて要らないから、黙ってキューブになってくれ!!」
手を掲げてキューブにしようとしたものの、嫉妬の権化は抵抗して、海人の力をはね除ける。
「その力、どこで手に入れた!?」
「やっぱり、弱らせないと無理か」
ステッキを再度構え、海人は化け物と直接対決に臨んだ。
「子供は、傷つけない主義だが仕方ない、身に降り掛かる火の粉は払う他なさそうだ」
「ごちゃごちゃ煩いな、妄想の塊の癖して!!!」
「フハハハハ!!人の思いの塊であると訂正してもらおうか!!」
海人は、空中でナイフを幾つも作るとそれを化け物に向かって放った。避けるまでもなく、払われて間合いを詰め寄られる。次に紐を化け物に絡ませて身動きを封じてみたが、筋肉を膨張させて難なく破られる。
「少年!!無茶だ!!我々に任せなさい!!」
光の鎖が化け物の足に絡まって、空中で動きが止まる。
「おじさん、ナイスアシスト!!」
レイピアを手に持ち、突進して化け物の心臓を貫く。化け物も顔が一瞬苦痛の表情を見せた。
「やった!!これで⋯⋯⋯ぎっ!!」
「奇抜な力と格好をしているが、フェンシング等した事はない、と。ふむふむ。クリスマスを楽しめない理由は分からんが、大人しくしてもらおうか、少年!!」
刺されている事等、何事もなかったかのように海人を抱き締める。強靭な肉体で締め付けられ、海人は呼吸が出来ない。体が軋んで顔が苦痛に歪む。
「楽しいクリスマスにあんたら何やってんのよ。馬鹿じゃないの?」
海人は何者かの声を聞いて、銃声が響いて化け物の悲鳴が聞こえた。解放されると、麻痺して体が動かず、頭から地面に落下する。それを、春坂は体で受け止めた。空中には箒に跨がった夏樹が銃を連射してダメージを与えている。
「初めまして、かな。バクの妹さんの関係者よね。ちょっとあいつサクッと退治するからそこで待っててくれる?」
そう告げると、海人の表情が一変する。
恐怖と、怒りを混ぜた感情が発露した。
「冗談じゃない!!!あいつはキューブに変えるんだ」
癌で死んだ青年と、妹が重なり、脳裏に死神を思い出す。
そうじゃなきゃ妹が死ぬ!!
少年の黒く純粋な心が、姿を一変させる。紳士の服装から、黒と赤の混じった悪魔へと姿を変えた。生えた尻尾で春坂を振り払い、背中の羽を広げて、夏樹の前まで一直線に向かっていく。嫉妬の権化に立ち向かう途中でそれに気づいた夏樹も、急ブレーキをかけて、少年に反転した。海人が空中に幾つもの黒い球体を作りだし、夏樹に放つ。それを銃で応戦すると、巨大な爆発が巻きおこった。視界が遮られ、煙で一瞬悪魔を見失う。
「後ろっす!!」
バクがそう叫ぶ前に、夏樹は蹴りを食らってバクから引き離される。慌ててバクは先回りして落下ポイントに巨大な足場を形成した。
着地した夏樹は上を見上げて尋ねた。
「何の理由があってこんな事してんのよ!!盗んだ人の思いをどうするつもり!?」
「思いを奪った所で死人が出る訳じゃないだろ!!何が悪いんだ!!」
「思いを奪われて、目標や生き甲斐を見失った人が沢山居てもそんな事言える訳!?大体ーーー!!!」
「お姉さん、ごめんね。こっちにも事情があるから」
急に、夏樹の後ろでカボチャの妖精が出現して夏樹の周囲に鳥籠が形成される。カボチャの妖精が上を見上げて、少年も何も言わずに嫉妬の権化に向かって行った。巨大な鳥籠の中で少年の背中を見つめる。バクも足場を形成している以上身動きも取れない。上を見上げれば、妖怪と悪魔に化けた少年が戦っているのが見える。光と爆発音が響き、衝撃が伝わる。
「理由があるんだね。多分大事な」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
少女は無言で肯定する。夏樹は二人を前にして迷い始めている。彼らにも引けない理由があるなら、それをまず聞くべきかもしれない。それでも、脳裏に霞の姿が浮かんだ。彼女の人生が変わってしまった経緯もある。彼女の件はたまたま話が上手く転んだに過ぎない。答えが出ないまま時間が流れると、誰かの声が響く。
「何、悩んでるんだか」
カボチャの少女が、ぎょっとして後ろを振り向くと、眼鏡を掛けた少女が呆れた様子で立っている。霞にも鳥籠を形成すると霞は自身の分身を背後に出現させる。それは以前のような悪魔の化身ではない。羽を背に持つ聖なる騎士が出現している。鳥籠を叩き壊して外に出る。夏樹の前まで来ると聖騎士は夏樹の鳥籠に穴を開けた。
「霞!?一体どうやってここに?」
「この子に飛んで貰ったの。ちょっと成長したみたい」
「成長って」
「それより、何で鳥籠から出なかったの?」
「いや、何か思ったより複雑な事情があるのかもって」
「やり方が間違ってる事も理解した上でやってるなら、誰かが止めないと。その為に来たのに丸め込まれてどうすんのよ」
夏樹の首に、マフラーを巻く。
「メリークリスマス。間に合うかどうか微妙だったけど、渡せて良かった」
雪が、ちらほら舞い降りる。
「あのカボチャは私が話をしとくから、夏樹は上の子をお願い。後、交差点に人だかり出来てて急がないと騒ぎになるよ。動画サイトに上がってるの見てびっくりして私も来たんだから」
「え⋯⋯⋯」
「クリスマスイベントか何かだと思わせた方がいいかもね」
気づけば散っていた人たちが何かのイベントかと騒いでいるようにも見える。肌も冷たくて、吐く息も白くなるが、霞に貰ったマフラーは暖かく感じられた。夏樹の迷っていた心が晴れていく。上を見上げて夏樹は手に箒を作り出して浮かび上がる。サンタクロースの格好になり夏樹はスカートを風に靡かせる。
「もう、おいら無しでも飛べるっすね。ちょっと寂しいっす」
「霞のアシストは任せるわ。何かあったらタダじゃおかないから、宜しく」
「かしこまり」
夏樹は煌めく夜空を飛んで、少年の元へ駆け出した。




