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The killer of paranoid Ⅲ 10

神経を集中させて、迫り来る蜂を切り捨てる。左腕で刀を持って四方から襲いかかる敵の攻撃を防いでいた。近代において呪いを受けたという理由で逮捕された事実はない。表向きは、ではあるが。明治になった折に呪術師の扱いを通常の刑法に当てはめる事は出来ないと判断した。よって、陰陽庁から人員を出して対処する事もあるが、基本的には警察の特殊組織呪術捜査官活の担当になる。警官でもあり、陰陽師でもある存在が生まれた。呪術師に関わる案件に携わる仕事であり、刑罰はその人間の罪の多さで罪状は変わる。通常の刑罰として嵌め込んで処理をするという慣例が今でも続いているのである。陰陽庁の人員は呪術師に遭遇した際に臨機応変に対処する事が認められているものの、捜査や逮捕は彼等に任せる事で役割分担が生まれた。また、刃物や殴打による解りやすい要因で相手を死なせた場合、退魔師にも通常の刑罰が下るのも相手をし難い一因にもなっている。妖怪と相対する方が面倒がなくて良いと考える者も居るほどである。ただ、裏を返せばそれは『足がつかねば』良いという裏返しでもある。当然紅葉に殺意はなく、相手を何とか無力化出来ないか模索していた。しかしながら、数は圧倒的。加えて黒い蜂は斬っても復活して襲いかかる。徐々に攻撃が紅葉に当たり始める。女は嬉しそうになぶり始め、まるで人形のように痛みに反応した。血が地面を赤く染めていく。急所をわざと外しているせいで頭は冴えている。


それが、紅葉の死を色濃く悟らせた。


「アハハハハハハ!!!可愛いお人形さん!!そろそろ壊れちゃいな!!」


あの、黒い怨嗟の蜂が現れ、紅葉の額目掛けて突進する。


紅葉は、死を覚悟して目を瞑る。


何かの音が聞こえたと同時に、蜂の攻撃が一斉に止んだ。


「全く、素直じゃないんだから」


紅葉が目を開けるとそこには、早苗が結界で蜂を阻んでいる。加えて夏樹が銃を両手に構えて蜂を撃破している。


「お姉ちゃん!?」


「夏樹さん、紅葉を早く病院へ!!」


「いいけど、大丈夫なの?」


肩に紅葉を乗せて早苗に尋ねると、問題ないと返した。夏樹がその言葉を信じてその場を離れる。


「選手交代かい?いいよ、私は相手が誰だろうともね!!!」


怨嗟の黒い蜂が早苗に襲いかかる。しかし、それを阻んだのは早苗ではなく、いつの間にか早苗の前に出現した京子だった。本来触れる事の出来ない流砂の体を手で受け止めて、握り潰した。これに、女は動揺した。車の中で待機していた少年も思わず捕らえたはずの少女を確認する。しかしいつの間にか縄とガムテープを除いて音もなく忽然と女の子は消えてしまった。いや、移動したと言った方が正解か。早苗も目を丸くして、思わず自分にかけていた術を解いてしまった。札がひらひら舞い、その場に京子が二人立ち並ぶ。


「まさかー⋯本当に私の心が生んだなんて」


京子も驚いていた。攻撃を防ごうと思った瞬間に彼女が現れた。


状況を整理して冷静になって考える。


紅葉の妄想かとも思ったが、要は自分の抑えきれない感情が


紅葉に付きまとった挙げ句、拉致され


取り戻そうと必死になって紅葉大負傷


こんな事を紅葉に話す訳にはいかない。


言ったら一生絶交されるかもしれない。


絶対口も聞いてくれなくなる。


「⋯⋯⋯」


目を細めて、大量に汗をかいて、京子は決断した。


「証拠は隠滅。貴女を私の式神に変えます。名前は⋯そうですね、銀杏とでも名付けましょうか」


そう言って、目の前の瓜二つの存在に式札を貼り付け、制御に禁書の力で増幅させる。周囲に魔方陣と時計や歯車の紋様が浮かび上がり、呪術師の女も目の前で何が起こっているのか理解出来ずに混乱している。京子に距離を置いて後方へ下がった。印を組み合わせ、京子は自分の式神に力を注ぎ込む。禁書の力で無限に増幅した彼女の式神はその姿を変えて仮面を付けた和服の少女姿に落ち着いた。


「さて、私の親友を傷つけたお礼はさせてもらいましょうか」


京子は静かに怒りに満ちた表情を相手に向けてそう告げた。


京子は、幾つか禁書の扱いについて疑問に思う事があった。一つは、力を禁じている癖に幾度かの実験を行った事である。禁書の力を扱うようにするのは何故か、再度封印を行わない理由が何故なのか。支部局長という立場を経て、もう一人の禁書をその身に宿す少女の存在を知った。多少無茶苦茶な面はあるが今の所普通の中学生として生きている少女。上野綾乃。彼女が何かしらの理由で暴走あるいは人類の敵となった時にいつかの対抗措置として残しておく為か


または、いつかそれ以上の凶悪に備えたものであるのか


いずれにせよ、何らかの目論見が兄にあると京子は睨んでいる。故に今回の事も恐らく魔法省との件に絡んでくるだろう。とりわけ今は読みが外れた後の事は考えないように努めた。銀杏が周囲に飛ぶ何十匹もの蜂を面白そうに眺めている。


「自分の精神体を式神にするなんて、古い事するのね。攻撃を受けたら自分に返るって教わらなかったのかしら!!」


一斉に襲いかかる蜂の群れに囲まれ、仮面から覗かせる屈託のない無邪気な顔で手を掲げると、拳を握る。瞬時に全ての蜂を丸めて潰した。空間に入った蜂を瞬時に捻り潰すと、今度は大量の黒い蜂が生まれて今度は京子に向かい始める。京子もそれを迎え撃ち、同時に銀杏は瞬時に京子の前に現れ手に持つ刀で切り伏せる。二人の剣舞の前にあまりに一方的に終わった攻防に、女は先程までの余裕は消え失せた。捕まれば無事では済まない。引き時だと悟って視線を車の方角へ飛ばし、車が飛びだして、女を車に乗せて回収した。女を乗せた車は京子を通り過ぎ、京子も追走する事なく見送った。


「なんなんだ、あの化け物は!!!冗談じゃないよ!!」


「全く、作戦の練り直しだな」


地下の駐車場を出て、15分が経過し、高速道路を走っていると、海人は、目の前の存在に気づいて指を指した。 銀杏と呼ばれた式神が、目の前に立っているのが見える。


「何であれが居るんだよ!!!」


「引いちまいな!!!」


「どのみち、このスピードで止まる事は出来ん!!跳ねて進むぞ!!」


時速110キロのスピードで、車で跳ねる直前、車体は急に下から何かに吹き飛ばされたかのように、大きく宙に浮かび上がった。


「そんなバカな話があるか!!全員ショックに備えろ!!」


「これだから陰陽師って連中は!!!」


そのまま、横転して高速道路の下へと飛ばされ、車体は大破して炎上した。炎が揺らめく中で、京子が顔を覗かせる。


「私、言いましたよね。紅葉のお礼はさせてもらうって」


車の中から、3人が負傷したダメージを抱えてその場を離れていく。酷く怯えた様子でその場から退散していく様子を京子は眺めていた。



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