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The killer of paranoid Ⅲ 9

 街の中を暴走車が駆け抜ける。時に逆走しながら進み、ギリギリの所で車線を変更、信号に捕まりそうになったら迷うことなく歩道を越えて細道に入り、人を跳ねそうになりながら進んでいく。紅葉も追走しているが、もう一度あの蜂を放たれたら、恐らく二度と追走出来そうにない。加えて一流の呪術師相手に紅葉一人では荷が重い。呪術戦は厄介なもので、相手の定めた規則や環境、ルールの中での戦闘になる。漫画等では、自分の精神を具現化して相手のルールに引きずりこまれたりするが、精神の具現化を行う呪術も存在はするが今は廃れている。人体と離れる事が出来る距離に制限がある不利、精神の攻撃は精神に弱い等弱点が顕著で、自分の体を守る為に精神でガードするのは具の極みになる。よって、式神を召喚するか精霊を退魔師が召喚するように、式や悪魔、妖怪の召喚が呪術の基本。加えて固有の呪術を持つ者が一流と言われる。あの蜂が呪術の一部なら、すでに呪いが発動してもおかしくはないが、今のところ体に影響はない。車は大きな地下駐車場に逃げ込むのが見えて、紅葉も着地して地下へと入り込んだ。かなり広い敷地面積があり、オレンジのライトの灯りが広がっている。白いワゴンを探していると、虫の羽の音が聞こえてくる。上を見上げると、十数匹の先程の蜂が周囲を飛んでいる。小太刀を出して構えると、肩で休んでいる鷹に命じる。


「あいつらを追い払って!!」


一斉に襲いかかる蜂の前に鷹が立ちはばかり、羽を広げる。風を操り、蜂の進む流れを邪魔するように羽を羽ばたかせる。先程と同じく身動きの取れない間に紅葉が切り伏せていく。粗方倒したと思った矢先、奥の方から女性が現れる。銀髪のパンクな格好をした女性。耳にピアスをして、目の下に隈が出来ており、白く痩せ華奢に見える。


「一体何の目的であいつを浚ったの?」


「それを教える誘拐犯他に居るかしら」


「まあ、見当はついてるからいいわ」


「フフ、威勢が良いのね。数分後には地面に寝てるでしょうけど」


そう言って、手を掲げて黒い粒子を集め始める。


「貴方が斬った蜂の怨嗟を集めたわ。可愛そうに、あんなにバッサリ切り捨てるなんて怖い子ねぇ」


「あんたがけしかけたんでしょーが!!」


やがて、黒い砂が集まり始めて一匹の蜂へと姿を変える。先程と同じく紅葉は斬って捨てた。しかし、斬った感覚がない。投げられた砂に当たったかのような感触、そしてその体は流動的に流れて復活して再度襲い掛かり、腕に針が当たって紅葉の表情が苦痛に歪んだ。服と皮膚が破れて血が地面に流れる。


「貴方だけのヒットマンよ。堪能して頂戴」


追いかけてきた少女が負傷したのを海人は車の中から覗いていた。殺し合いを望んでいた訳ではない。「D」は少女を誘拐すれば力を簒奪出来ると言っていた。焦りを見せながら運転席に座る男に尋ねる。


「今すぐこの子の力を奪えないの?やるなら早く済ませよう。なにも」


女の子を殺す必要はないと口にはだせなかった。


「無理だな。Dの協力なしに奪う事は出来ん。君は妹を助ける為に他人の犠牲を無視出来る人間だろう?今更一人増えた所で気にするな。それとも、諦めるのか?妹より他人を優先するのかね。私も彼女も暇じゃないんだ。世話になったDの頼みだから聞いている」


男は海人の一件には興味がないと切り捨てた。少女は相変わらず、生気の無い表情で指一つ動かさない。それが、ピクリと動いて窓の方角を向く。海人も少女がどうなったのか気になり窓から戦いを覗き込む。あれから少女の防戦一方。回避する過程で周囲の車の窓や車体が破損していく。紅葉も、痛みで札で形作った小太刀を札に戻してしまい、攻撃も防ぐ手立ても無いに等しい。幾度か攻撃を回避して、気づかされる相手の余裕。遊ばれている事は紅葉にも理解していた。血の出血が酷いこの状況を建て直す事は難しい事も。


「フフフ、人形遊びなんて随分久しぶりね。いつ以来かしら。いい加減、諦めなさいな」


女が指を鳴らすとまた大量の蜂が出現する。紅葉も傷を負った手をだらんとさせ、残った手で痛みを一時忘れて無理やり小太刀を出現させた。あの時、黒人との戦いで紅葉は死を悟っていた。京子に逃げろとも言った。


それでも彼女が何故逃げずに立ち向かったのか


「今度は私の番、だから諦めるって選択はないわ。あいつは絶対取り戻す!!」


彼女の背中を見てそれを尋ねるのは野暮なのだと


紅葉はそう感じていた。

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