The killer of paranoid Ⅲ 7
夜も更けて妖怪が現れるのを待ち、水晶が割れて現世へ顕現すると海人は妖怪に対峙する。手榴弾や爆弾のような造形の変な格好の妖怪だと感じた。サッカーボール程の体格に手足と顔が付いており、コスプレ感も感じる。似たような化け物が周囲に一斉に発生した。
「何だこいつ」
(気を付けて下さい、強力な妖怪の様に感じます)
「好都合じゃないか。それだけ、エネルギーが高いって事だろ?」
妖怪が海人をビシッと指を差し、こう告げる。
「お前に用はない。我々が用があるのは、カップルだけよ」
全力で海人を無視して何処かへ疾走する。対応に遅れた海人も後を追うが、周囲で大きな音が複数響く。夜の公園にデートに来ていた複数のカップルの悲鳴が上がった。ベンチでカップルが髪の毛が少し焦げてはだも煤けて黒くなっている。煙たそうにしているが命に別状は無さそうだ。妖怪は今ので炸裂して消滅したらしい。
「フハハハハ!!!!!!リア充、爆発せよ!!!!!」
そう言いながらカップルにダイビングして炸裂していく妖怪達。
「マジで何なんだよこいつら」
捕らえたいのに自爆して消滅してしまう。
(人々の感情が生んだ存在です)
「竜也!!一匹も逃すなよ!!」
「うるせえ!!無茶言うなよ!!」
聞き覚えのある子供の声が聴こえて、海人は街灯の上に移動して彼等が札を飛ばして動きを封じて滅していく様を眺める。見つからないように移動しようとすると、光輝く鎖が自分の足に絡み付く。
「やあ、初めまして。ちょっと話でもどうかな。君が何をしてるのか僕たちは知りたいんだけどね」
街灯の下を覗くと、眼鏡をかけた小太りの男性が光輝く鎖を握っている。
「悪いけど、こう見えて暇じゃないんで」
杖を剣に変化させて鎖を断ち切る。跳躍して地面に着地すると急いで自分も妖怪を捕らえて四角いキューブに変えさせる。それからこの場を急いで逃げた。陰陽庁も大量発生している妖怪達に海人を捕らえるどころの話ではなさそうだった。
「春坂さん!!何やってんすか、手伝って下さいよ!!」
少年達の声を聞いて、春坂は後を追うのを止めてこの場を納めるのを優先した。暫くして海人の携帯に姫の容態が悪化した報せが届く。慌てて病院に向かい、中に入るとハクが告げる。
(気を付けて下さい。この病院の何処かにーーー)
死神が居ます
急いで中に入り、姫の病室へと駆け込むとすでに手術室へと連れて行かれた後だった。慌てて手術室の前の扉に向かおうとすると目の前に赤く目を輝かせた死神が何かを追うように徘徊している。思わず息を飲んで喉を鳴らす。
(ハク、まだ時間があるんじゃなかったのか)
(そのはずですが、気まぐれで早める可能性も)
(ざっけんな、糞!!)
焦りながら、死神の後を追うと姫の居る手術室とは全く異なる病室へと入っていく。扉を開けた様子はなく、壁をすり抜けたらしい。海人が恐る恐る扉を開けて様子を伺うと、一人の青年の枕元へ立っている。姫とも会話をよくしてくれた癌を患っていた人だった。海人には空中に炎の0の数字が見えており、死神が彼の首を大鎌で斬るとその文字は消えた。急に苦しみ出して痙攣が起き、白目を向いて、口からも泡が出る。バイタル異常音が鳴り響く中計器の数値が0を示して動かなくなった。彼の体から彼の魂が現れ、死神の手の平に収まると鉄製の鳥籠のようなものに入れて消え失せた。死神が去った後、海人は青年の安否を確かめると息をせず、心臓も止まっていた。
(姫さんではなかったようですね)
「死んでる」
人の死んだ瞬間に立ち会って体が震えている。
海人が部屋を離れた後、慌てた看護師と医者が駆けつけているようだったが、回復はしなかった。携帯に父から姫の手術が始まった報せを受けて急行する。姫の容態が日に日に悪くなっていく。夜中に苦しみ出して、発作が起きて痙攣が起きる。先天性の弁膜症で、生まれつき心臓が弱くこれまでも何度か手術を繰り返してきた。手術室の前で家族が椅子に座り無事終える事をただ祈るしかない。手術中のランプが消え、医者が無事終わりましたと告げた時は安堵して気が抜けてしまう。気がつけば朝陽が窓から差し込んでいて、時間の経過を思わせる。
今日も妹は朝陽と共に生還を果たした。
海人の脳裏に青年と妹はすり替わってフラッシュバックする。
死神が運命を決めるというのなら
それに抗うしかないと、海人は覚悟を決めた。




