陰陽庁怪異対策課京都支部 10
関西空港に、黒人が降り立った。民族衣装の様な格好で難なく検閲を通過する。彼はそれから、ある人物を待った。海外のネットサイトで知り合った呪いの人形を送った相手でもある。誰に聞いたのか、彼は自分のメールアドレスにメールを送ってきた。
「相手を呪い殺せる道具が欲しい。これまでにも沢山作ってきたんだろ?
少しそれを分けてくれ」
名前は、「D」の一文字のみ。
どんな奴が送って来たのかと、水晶を手に持ち霊視を試みたが彼によって防がれた。手助け等必要のない程の呪術師が何故自分の呪術道具が欲しいのかとメールで尋ねると、こう返事が返ってきた。
「足が付きたくないから」だと
日本で大掛かりな計画を遂行する為に手始めに大量の呪術道具を日本に流す事も教えてくれた。興味を持ったのは、彼の地にかつて神を殺した魔術師の家系が作った禁書が眠っているという情報だった。魔術師がこの地で姿を現した事は何度かあった。教会の敵と定められた者同士、この世界では日陰者。教会の連中と仕事で共闘した経験もある。呪いは人の気から出る負の感情を使い教会は創造主を崇め奉る信仰心を糧としそして魔術は世界に溢れる自然の魔力を使用する。火、水、土、風、雷、それら自然から溢れる魔力とは結局の所生きる者の精気に他ならない。人間、動物、植物それらが生きて死んで土に変わり土壌が出来て緑が生まれ全ての生き物に森の恵みを与え取り込んだ二酸化炭素を酸素に変え、それが水を作り生命の営みを作る根幹と為す。雲はやがて雷を呼び起こし落雷によって火が生まれ生物に恩恵と、災害をもたらす。生と死のサイクルによって延々と生まれ出る“精気”。言い換えれば“魔力”になる。人から生まれた正と負の感情も言い換えれば魔力。結局は皆同じ物である。ならば、魔術師が作った禁書も使えるはず。男はそう考え、事実その解釈は正しい。20分程待った後、少年が姿を現した。赤いフードのパーカーにジーンズを着た怪しい風体をしていたが容姿は日本人にも珍しい色白の肌を持つ少年だった。
「君が『D』か。案内を頼めるかい」
「喜んで案内するよ。ルダレス・カジナン。目指す目的は同じだからね」
二人は握手を交わして、陰陽庁を潰す為の盟約となった。
いつの間にか騒がれていたお呪いブームは落ち着きを取り戻して日常へと戻る。未だ信じる者が居るが熱狂的なマニアを除けば、全国的にも沈静化したと言える。メディアもそれを感じ取ったのか、情報を流さなくなった。黒板に、英文字を書くチョークの音が聞こえる静かな教室で京子と紅葉は5時間目の気だるい午後を過ごしていた。放課後になり、二人は友人達と一緒に久しぶりの談笑に花が咲いた。TV番組の内容であったり最近流行っている曲で盛り上がったり帰りにカラオケかハンバーガーショップにでも寄ろうかとその場の全員で盛り上がっていると丁度、廊下を歩いている最中大きな笑い声が響いた。水が落下する音と流れる音も聞こえた。
「アハハハハハハハハハハ!!最高!!」
「もういっちょいっちゃう?}
慌てて、紅葉が女子トイレに駆け込んで確かめに入る。すると、バケツを持って個室のトイレの中に居る者に上から水を被せて遊んでいる。紅葉は激昂して声を張り上げた。
「何やってんの!?あんた達正気!?」
見られた事で焦ったのか、騒いでいた女子達はそそ草とその場を離れて、帰っていった。ゆっくりと個室の中から女子生徒が出てきて鞄も服もびしょ濡れになっている。
「一緒に、保健室行こう。多分まだ先生も居るよ」
こくりと少女は頷いて、その日のカラオケは中止になった。
「酷い事するわね、その子達。貴方大丈夫?」
保健室の先生が、心配そうにその女の子を気遣った。
「大丈夫です。慣れてますから。二人ともありがとう」
ここまで付き添ってくれた京子と紅葉に感謝する。
「顔は覚えたから、次何かあったら私に言って。二度とあんな事出来ないようにボッコボコにしてあげるから」
「停学食らう事になりかねないので、その前に私に一言お願いします」
そう言って、二人は保健室を去って、少女も服が乾くまで待ってから保健室を後にした。駅のホームで携帯で暇潰しのアプリを探していると奇妙なアプリを発見した。
「呪いのアプリ?」
相手の顔を携帯の写真で取って、アプリの中で画像を選んで選択するとその人の顔写真が画面の中で簀巻きにされたキャラクターとして出てくるので大量に出てきたそのキャラの首を指でスラッシュするとスパッっと首が胴体から切られて即死する。恨みの思いを込めてゲームクリアすると呪いが発動して相手を呪える。というゲーム内容。画像がなくても、最初からゲームキャラとして登場するてるてる坊主をやっつけていく事でクリアする事は可能らしい。
「なにこれ、ちょっと面白いかも」
携帯をタップしてそのゲームアプリをダウンロードする。大量に出てくる、てるてる坊主を指でスラッシュして少女はクリアを目指した。




