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ララの冒険  作者: 憤怒ぅかぶ子
1/1

エイア村

左からミーニャ、ウィルグ、ララ、ジーニス


挿絵(By みてみん)

それはAクラスの魔物だった。

Aクラスの魔物とは武道や魔法の熟練した大人達が何人も集まってやっと倒せる魔物であると言われている。その魔物に、小さな子供二人が目を付けられてしまった。とある森の中の事である。小さな子供二人は遊びのゲームに負けて肝試しに行く事になり、森の中へと入った。森は魔物がいるため子供の立ち入りは禁止とされていたが、小さな子供二人にとっては、好奇心をそそられる森であった。そしてAクラスの魔物と出くわしてしまう。


「ら、ララお姉ちゃん、どうしよう。」

「ボクに任せて。ボクがあんな魔物やっつけてやるから」


ララと呼ばれた少女は魔物に向かって、自身の得意としている下位火炎魔法(ジェラ)を唱える。


「食らえ!! 下位火炎魔法(ジェラ)!!」


ボォ。

ララの魔法は通常の成人が扱う魔法よりも数倍大きいものだったが、それすらも霞んでしまうほどにAクラスの魔物は大きかった。魔物はララと少年を睨みつけると、垂涎(すいぜん)してドシン、ドシンと一歩ずつ小さな二人に歩み寄る。


「そんな! なんで効かないの! 下位火炎魔法(ジェラ)下位火炎魔法(ジェラ)下位火炎魔法(ジェラ)!」


何度も十八番である呪文を唱えるも、魔物はビクともしない。


「ぎゃああああおおおおお!!!」


魔物の鋭い爪がララの小さな体を貫く。


「うあがっ!?? ………が……が」


ララは項垂(うなだ)れ、少年はそのララを見て、その場から逃げ出してしまった。

魔物はララを食べようとした。しかしその瞬間、ララは爪から体を離し地面に着地し、そして両手を魔物にかざした。


下位火炎魔法(ジェラ)


すると大きな魔物を包む様に大きな火炎が発生する。


「ぎゃああああぉぉおおおおお!!!!!」


魔物の声は断末魔となって辺りへ(とどろ)く。


「ぎゃあああ………おお………」


炎に焼き尽くされ遂には魔物は動かなくなってしまった。ララはそれを見たのか、とぼとぼとその場から去っていく。


そして


「く、来るな! 化け物!! 来るなぁっっ!!」

「や、やめてくれ。頼む、もうやめてくれっ!」

「お姉ちゃん、どうしてこんな事するの!」


村は大火に包まれていた。それは全て、一人の少女によって行われていた。


「ララ、その魔力………その目………うすうす気がついておったが、おぬし……………魔物だったのじゃな」

「……………下位火炎魔法(ジェラ)

「ぬおおおお!!!」


ララは容赦なく命乞いをする者達にまで魔法を放っていく。


「ララ!! やめなさい!!」


ララから逃げ延びる人々がいる中で唯一ララに駆け寄ってくる人がいた。


「ララ! ララ! 目を覚ましなさい! ララ!」

「………ママ……?」


(うつ)ろになっていたララの瞳には明かりが戻る。


「ママ?」


ララの母親は泣きながらララを強く強く抱き締めていた。


「ごめん、ごめんね。ララ……私がママで、本当にごめんね」


その一件は、運良く死亡者ゼロだった。


「お前なんか出ていけ! 化け物!」

「まさか魔物が村にいただなんて。恐ろしや」

「ララのバカヤロー! なんて事してくれたんだよ!」


辺りから罵声(ばせい)が飛び交う。その罵声でララは気がついた。


「これ、ボクがやったの??」


ララは辺りを見回した。平和で素朴で綺麗な村だったのが、どこもかしこも焼け崩れていて悲惨な状態だった。

ララとその母親は村人達から石を浴びせられる。母親はララに石が当たらない様にララを抱えて村から走り去っていった。


「ララ……ごめんね」

「ママ……ボクの力って何なの??」


ララは自分には人とは違う力があるとずっと思っていた。人よりも、大人よりも大きな魔法を放てる自分が、時より自分でも怖かった。


「ララ、あなたは……魔物の血を引いてるの……私のせいで」


母親はぐっしょりと濡れた泣き顔でそうララに話した。





鏡には金色に輝く髪の毛をくしでとく可愛い女の子の姿が映っている。瞳は揺れるほむらの様にあかく染まっていて、その瞳と同じ色をしたひし形のピアスを両耳に付けている。


「よしっ、ひとまずはこれでおっけーかな?」

「ララ! 朝食出来たわよ〜、起きてらっしゃい!」

「はぁ〜い」


母親の呼ぶ声に鏡に映ったララは元気に返事をした。



ララの冒険~はじまり~



ボクの名前はララ、ボクって一人称だけど、性別は女の子。今日で十五歳になる。ボクはこのエイア村という所で保安官を目指して勉学に励んでた。可愛い見た目をしているけれど、こう見えてボクは魔王の娘なんだよね。

ボクのママ、リリィ=パンプキンは魔物と人間のハーフ。そして魔王の称号を持っている。そんなママの血をボクももちろん受け継いでいるので、魔力は普通の人とは桁違いにある。ただママが魔王という事と、私が魔王の娘という事は誰にも言っちゃいけない。もし言ってしまったりバレてしまえば、ボクが小さい頃の時みたいにこのエイア村を出ていかなくちゃいけなくなる。

エイア村にはボク達以外人間しか住んでいない。ママの夢は魔物と魔族と人間の共存だったのだけど、それはまだ果たされていないのだ。魔物は人間や魔族を食う。それが足枷(あしかせ)になっているのだろう。ちなみに魔族とはエルフなどの事を言う。魔族は人よりも魔力が強く、人からは魔物に近い存在と言われて忌み嫌われている。


「わぁ、美味しそう。今日の朝はフルーツパイね」

「そうよ〜。たんと食べなさい」

「うん! いっただっきまぁす」


ボクは大きな口でフルーツパイを口の中に押し込んでいく。勢い良すぎて喉が詰まり、胸をトントンと叩く。


「美味しーい!」

「そう? 良かった。ありがとう」


ボクはあっという間にフルーツパイを食べ切ってしまった。


「ねぇママ、今日ボクの誕生日って覚えてる??」

「もちろん。覚えてるに決まってるじゃない」

「ほんと!? じゃあねじゃあね、ボク夜にかぼちゃのタルト食べたい!」


ボクの大好物はかぼちゃだ。特にママの作ったかぼちゃのタルトは格別だと知っている。


「ええ、良いわよ。楽しみにしてて」

「わぁい! やったぁ!」

「それじゃあ塾へ行く準備して行きなさい」

「うん!」


ボクは部屋に戻って、塾に行くための支度をさっと済ませて、最後に鏡で自分の姿見を確認した。


「準備おっけー! よし、行こう!」


ボクは部屋を出て、ママに挨拶をした。


「ママ! 行ってきます!」

「行ってらっしゃい、ララ」


ボクは家を出て塾に向かった。


「あら、おはようララちゃん。これから塾ね?」

「はい! そうです!」


家を出て最初に挨拶をしたのが、隣の家のトルトンおばさんだった。


「あらあら、もっと砕けた話し方でも良いのよ。ララちゃんには家の娘と仲良くしてもらってるもの。今度ご飯食べにいらっしゃい」

「う、うん! ありがとうトルトンおば……お姉さん!」


トルトンおばさんはおばさんと言われるのを気にしている。だからお姉さんと言う様にボクは気をつけている。


「あ! ララおねえちゃん」

「おはよ、シルク」

「ララおねえちゃん、みてて。ぼく魔法がつかえるようになったんだ」


ボクに向かってきた小さな少年はシルクという可愛い子だ。いつもお姉ちゃんと(した)ってボクに話しかけてくる。


「いくよ、下位土魔法(ストーン)


すると少年の発言に呼応し、少年の掲げた両手からは頭程の石の塊が出現した。


「これをまものにぶつけるんだよね」

「わぁ! 凄いじゃないシルク!」

「えへへ」


シルクは両手を下ろすと、石の塊は土となって地面に崩れていった。


「ララおねえちゃん、こんど魔法おしえてね」

「良いわよ」

「うふふ! わーい」


シルクは家へと戻っていった。

しばらく歩くと、少年がこちらをちらちらと見ているのが見えた。ボクが来たのに気づくと、あからさまにこちらを見ていない振りをする。この少年はハル。ハルはボクの事を待っていたのだろう。


「ハール!おはよ!」


ボクはハルの背中を叩いた。


「お、おう! ララじゃんか! き、奇遇だな!」

「ん? 奇遇?」


ジト目でボクがハルを見つめると、ハルは照れた様に目を逸らしながら話す。


「な、なぁ、昨日の宿題やってきたか?」

「うん。したよ。したっていうか、元々ボクの十八番呪文だからねぇ」

「そ、そっかぁ」


何やら頭をくしゃくしゃと掻きむしるハル。


「実は俺、ずっと練習してるんだけどよ、全然炎が出なくってよ」

「ハルの系統って炎入ってたよね」


系統とは魔法の使える属性の事である。塾に入る前に、皆系統を調べるために分析魔法にかけられるが、その時に系統が判明する。


「そうなんだけどよ、何かコツとかあるのかなぁ」

「ははーん。それでボクにコツを教えて欲しくて待ってたのね?」

「う、うん」


魔法を使えるのは大体十代からだと言われている。もちろんそれよりも若くても使える場合があるが、それはもはや才能でしかない。でも安心していいのは、早く魔法が使えたからと言って魔力に差が出る訳ではない。


「なーにを言っとるのじゃ!!」


どこからともなくお(じい)ちゃんの声が聞こえてきた。そしてやって来たのはハルの祖父であり、このエイア村の村長だ。


「おぬしはふざけておったろうが!」

「ふざけるってなんだよじいちゃん! 俺だってまじめにやってたぜ」

「魔法を扱うに大事なのは、集中力とこれから出来上がる魔法の精密度じゃ。呪文を叫べば良い話では無い! おかげで夜も眠れんかったわい!」


ハルが呪文を叫びながら唱える、簡単に想像が出来そうだとボクは鼻で笑ってしまった。


「あれは俺なりにアレンジを加えてやってたんだよ!」

「ほぅ? ならばここで今、アレンジの成果を見せてみぃ?」

「……それは……」

「ほれみろ!」

「うるさい! じいちゃんもララも、目見開いてよく見てろ! これが俺の魔法だ!!……じぇぇぇぇぇぇぇええええええええええrrrrrrrrrrrrッらぁああっああああああああああああ!!!!!!」


威勢良く発した声に呼応し、魔法は、、、


……………


「不発じゃの………」

「あれ、おっかしいなぁーあはは」

「おぬしは魔法が何たるかを全く理解出来ておらんのじゃよ。どれ、今一度ララちゃんにお手本を見せてもらうが良い。ララちゃん、良いかな?」


ボクは自信満々にもちろんと答えて、両手を空に掲げる。魔力を両手に集中し、威力を抑えるイメージで。威力を抑えなければ、ボクが魔物の血を引いていると思われかねない。そうママから注意されている。



下位火炎魔法(ジェラ)!」


ボォ。


両手には人三人を包み込める程の大きな火炎が発生した。


「おぉ凄い……ハルよ、これが魔法というものじゃ」

「いや、ララはレベルが違うんだよ!」

「ほっほっほ。ララちゃんの将来が楽しみでたまらん」


村長は蓄えた白髭を擦りながらそう言った。


コーンコーンコーン。


塾の方から鐘の音が鳴った。


「あ、チャイムだ。ララ、先に行ってるぜ! じいちゃんも、行ってきます!」


ハルは走って塾の方へと向かっていった。


「あやつももっとララちゃんを見習ってほしいものじゃ」


村長の発言にボクは少しムっとしてしまう。


「彼も自分なりに一生懸命やってますよ?」

「なぁにまだまだじゃ。ほっほっほ。じゃがの………あの子はこれからが楽しみじゃて。ほっほっほ」


村長は孫息子を馬鹿にしてるのではなく、期待しているからこそ厳しくするのだと気付いて、ボクはほっとした。


「ララちゃん、あの子を良い道へ連れて行ってくれぬか?」

「もちろんです!」

「ありがとう。ララちゃんがいれば、あの子も心強い事じゃ」


ボク自身も、ハルがいると心強いと感じている。ハルみたいに明るい子がいるから、周りも明るくなるし、ボクも明るくなる。


「ところでララちゃん、ハルの事どう思っとる?」

「どう? とは……」

「これじゃよ、これ」


村長は小指を立てて暗喩(あんゆ)を示している。ボクはそれを見て、顔がカァッと熱くなった。


「や、やめてください! そんなんじゃないです!」

「ほっほっほ。ララちゃんは女の子としても可愛いのぉ」

「そ、村長……」


ボクの気持ちとしては、ハルの事が好きだった。だけど素直になれず、心の中にしまっておこうと考えている。


「すまんすまん。ララちゃん、引き止めてしまったな。さぁ、塾へお行き」


ボクは顔を熱くしながら塾に向かった。塾に到着する頃には顔が冷めていた気がする。塾に入るとクロルト先生が出迎えていた。髪の毛が一本も生えていないからか、皆から面白がられている。ボクはそれが失礼だと分かっているから気にはしない。でもクロルト先生本人はハゲ弄りを気に入っている様なのだ。


「ララ、遅刻かい? 君ほどの生徒だ。遅刻は行かんが、大目に見ても良いだろう。だが何度も繰り返さぬ様にな。塾とは、知識だけでなく、心も育むところなのだから」

「す、すみません」


プチ説教を受けてボクはそそくさと教室へと向かう。


「みんなおはよう」

「ララ〜! おはよう!」

「おはようララ!」

「ララギリギリセーフだね」


先生はまだ来ていない様でボクは遅刻にならなかったらしい。というより、先生が遅刻しているのだろう。


「ねぇねぇララ、私の魔力増強装置使ってよ〜。一緒に世界を掌握しましょう」


この子はマイン。魔法が使えないので機械学から魔法について触れていくという姿勢でこの塾にいる。


「ララ! ねぇねぇ宿題の事なんだけどさ、あなた火炎魔法得意だったでしょう? お願い! コツ教えて!」

「うん。良いわよ〜」


この子はボクの左隣の席にいるチークだ。ほっぺたがピンク色でとっても可愛い。そしてボクの右隣にいるのがハルだ。


「あ! ずるいぞチーク! 俺が最初にコツを教えてもらう約束だったんだからな!」

「えー。ハルは後だよ。私が今ララと話してるんだから」


ボクは塾に行くとモテモテである。何せボクは魔法の天才だから。炎、雷、水、土、風の五大属性の魔法を操れるのはこの塾でもボクだけ。こうなるとボクも鼻が高くなる。


「こらこら、騒がしいぞ! 授業始めるぞ!」

「げっ、先生来やがった。くそ〜、ぶっつけ本番かぁ」


ハルが悔しそうに下唇を噛む。


「ハル! あんたのせいで先生来ちゃったじゃない!」

「お、俺のせいかよ!」


ボクを挟んでハルとチークは仲が荒れている。いつか両側から引っ張られて腕がちぎれないと良いなとボクは思う。


「では授業を始める。まず昨日出した宿題だ。火炎魔法を扱う素質のある者、前に出ろ」


すると五人程度の生徒達が教卓の前に集まる。


「ではまずお前からだ」


左から順に当てられていく。ボクは最後の様だ。

しばらく経つと、チークの出番が来た。


「い、いきます! 下位火炎魔法(ジェラ)!」


ボォ。


どうやらチークは成功した様だ。


「ふむ、威力は弱いが合格だ」

「やった!」


次はハルの番だ。


「ふっふっふ。俺に秘められた潜在する膨大な魔力の一端を今ここで見せてあげよう! いでよ! 疾風怒濤の超絶最強魔法!! じぇぇゑぇぇぇぇぇえええええええぇええええぇぇぇぇぇぇえええrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrらぁぁぁぁぁああああああっっっ!!!!!!!!!!」


ボッ。


少し出た。


「呪文が乱雑過ぎ。お前は何か勘違いしてるな。気合いで魔法を出そうとしてるのがそもそも間違いだ」

「えー! だ、だってぇ」

「では次はララだ。皆も良く見ておく様に。魔法というのはどんなものなのか。さぁ、ララ。やってくれ」


ボクは言われて魔力を集中する。威力はもちろん抑えるイメージで。


「いきます………下位火炎魔法(ジェラ)!」


ボォ。


ハルに見せた時よりも大きめの火炎が出てしまった。ボクは少しひやりとしたが、その火炎を見て、先生を含め皆が感心の目を向けてきた。


「よくやってくれた。ララ。さあ皆、これが魔法というものだ。皆も見習って魔法習得に励む様にな」

「「「はーい」」」


課題発表はこれにて終わる。ボク達は席に戻って、先生の授業が始まった。ボクは保安官になりたくてこの塾に通っているから、ちゃんと真面目に授業に取り組んでいるけれど、ハルといえば授業中退屈そうにしていた。


「こらハル、真面目にやらないと」

「だってよ、言ってる事全然分かんねぇんだもん」


ボクは小声でハルに(ささや)くがハルは変わらずだった。

こうして一限目の授業が終わる。


「ララって真面目だし実力あるし、ほんと羨ましいわ」

「え、そうかな? あはは」


チークに言われてボクは少々天狗(てんぐ)気味になる。けれど優等生というものは疲れるものだ。なんといっても気が抜けない。だからボクはよく授業の後は教室を離れるのが常だ。


「ララって授業の後いつもどこか行くわよね」

「あれだろ。うんことかじゃねぇの?」

「ハル………あんたってほんと…ないわ」


そんなチークとハルのやり取りを尻目にボクは教室を後にする。

ボクは塾の出口のところまで歩いてきた。外の空気を吸おうと思ってだ。


「なぁ、やっぱりやめようぜ。オイラたちだけでたすけにいこーぜ」

「やだよ。ぼくたちだけだとぜったいあぶないよ」

「そんなこといったってよ」


塾の出口には何やら二人の小さな少年がこそこそとしていた。


「どうしたの? もしかして塾の見学? 偉いね二人とも」

「いや……その………オイラたちは……」

「…?」


この二人はいつもシルクと遊んでいるミルキーとペコだ。


「あの! ララおねえさん! じつは……」


ミルキーが言うには、シルクと三人で兵隊ごっこをしていたところ、シルクが魔法を使える事を自慢し出したらしい。それでミルキーがシルクに"魔法だけ使えたって意味が無い"と挑発したところ、シルクが一人で魔物を倒しに森へと入っていったのだそうだ。


「急いで村の皆に知らせなくちゃ!」

「ま、まってよ! そのことなんだけどさ、オイラたちのあいだでひみつにできないかなって」

「は? 何言ってるの?」

「ララねえちゃんもしってるだろ? オイラたちのとうちゃん、おこったらすごくこわいんだよ」


ボクはミルキーの自分勝手さに頭に血が上った。


「今まさに、あなたの友達が危険に(さら)されているのよ? シルクの事が心配じゃないの?」

「しんぱいだよ……しんぱいだけど……」


ミルキーは黙りこくる。


「にいさん、やっぱりちゃんとおこられようよ」

「すまき」

「え?」


ミルキーの発言に、ペコは聞き返す。


「とうちゃんのことだ。オイラたちをすまきにして、ひゃくたたきだよ!」

「たしかに………でも……」

「ララねえちゃん! いーやララおねえさまっ! いっしょうのおねがい! ララおねえさまのまほうのうでとふところのふかさをみこんでのおねがいっ! くつのうらでもなんでもなめますので! どうかっ! どうかっ!」


ボクの魔法なら大抵の魔物を倒せるだろう。それを知ってるからこそミルキーはこう言ってきている。それでも多勢で助けにいった方が良いとは思う。だけどボクは少し、頼られた事に嬉しさを感じてしまっていた。だから


「あーもう! わかったわよっ! ボクがシルクを探してくるわ!」

「ララさまぁー! いっしょううやまいますぅ!」

「その代わり、次からはちゃんとシルクの面倒を見る事! 年だけで言ったら、あなたたちお兄ちゃんなんだからね?!」

「ははー! おおせの通りに」

「それじゃまず、塾長に早退の挨拶だけして来るから!」


ボクは急いで塾長の所に向かった。


「塾長、どうも今日は体調が優れないので、早退させてください」

「え、ええ構わないですよ。お家でゆっくり休んでくださいね」

「ありがとうございます!」


ボクは急いで塾の出口に戻る。ボクが元気に走って塾長室を出ていった事を後になって気がついて後悔したが、今はそれどころではない。


「じゅくのひだりにぬけみちがあるんだ。シルクはそこからでてったよ」

「分かったわ」


ボクは急いで塾を後にする。ミルキーが言った通り、塾の左側に細い抜け道があった。きっと今回だけでなく今までもこっそりここから村を抜け出していたのだろうと頭を痛める。


「まったく! シルクを助けたら、この細道(ふさ)いどいて(もら)わないと」


ボクは細道を抜けて、森の中へと入っていった。

森の中は小動物達に溢れ、まるで魔物などいないかと思う程に()んだ所であった。


「シルクー! シルクー! どこー! シルクー!」


ボクは走りながら叫び回った。帰り道も確保しておかないといけないので、所々の木々に雷魔法で傷をつけていった。

しばらく進むと、人影の様なものが見えた。近づいて行くと、その人影はシルクであると判明した。


「シルク!」

「まものめ! ぼくが……ぼくがやっつけてやる!」


ボクは目を()らしてよく見た。すると周りの木とは明らかに浮いて見える木が一つあった。それは本で見た事のある魔物。トレントだ。トレントはSクラスの魔物。通常人では倒せない魔物だ。


「シルク!」

「ん? ララおねえちゃん! おねえちゃんみてて、ぼくがあのまものをやっつけてみせるから」

「だめよシルク!」

「くらえ! まもの! 下位土魔法(ストーン)!」


シルクの掲げた両手には石の塊が精製される。そしてそれはトレントに向かって発射された。


「きしゃああああああああっ!!!!!」

「うわぁ!」

「シルク!」


シルクに向かって、トレントの(つる)が物凄い勢いで伸びていく。ボクはシルクを横に突き飛ばし、代わりにそれを身に受けた。


「ぐっ!!!」

「わぁっ………ら、ララおねえちゃん!」


蔓はララの脇腹を(えぐ)っていた。


「シルク! ここはボクに任せて!」

「でも、ララおねえちゃんが……」

「良いから早く逃げて!!」

「わ、わかった!」


シルクは慌ててその場から逃げていった。


「Sクラス………大人が束になっても勝てない魔物。下手に大人数を呼んでも皆大怪我するだけ。何とか隙を作って逃げなきゃ……下位火炎魔法(ジェラ)!」


ボクは両手を掲げて魔法を唱えた。皆の前で出す様な魔法ではなく、本気で魔法を放った。それはボクの体躯(たいく)の三倍はある火炎だった。しかしトレントには全く効いていない様だった。


「それならこれでどう? 下位火炎魔法(ジェラ)下位火炎魔法(ジェラ)下位火炎魔法(ジェラ)! 」


ボクは地面に両手をついた。


下位土魔法(ストーン)


こうする事で、トレントの後ろに石の塊を出現させる手法だ。遠隔魔法は魔法騎士団に入れる程の高等技術だ。これで牽制(けんせい)して隙を作る作戦だった。だが


「きしゃああああああああっ!!!」


トレントの蔓が幾本も物凄い勢いで伸びてきた。ボクは何とか一本一本を(かわ)していくが全て()けきれず、胸を、腕を、太ももを貫かれてしまった。


「がぁっ!!」


とても痛い。小さい頃に走って転んで、擦り傷を作るなんて比にならない痛み。これが魔物との戦い。


「しね、こむすめ」


トレントは蔓を重ねて一本の太い蔓にし、それをボクに向けて伸ばしてきた。ボクは避けようとしたが、痛みで体を動かせなかった。

ああ、ここで死ぬのか……ボクはそう思った。


それからの記憶はない。貫かれたのかも分からない。ボクはそのまま気を失った。


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