ただ神に祈りをささげていたら、突然追放された。
「お前を追放する!!」
「はい……?」
私の名は、オドラ。
元々孤児出身の聖女である。孤児という立場はいつ死ぬか分からない、そういうものだった。
昔の私は知り合いが餓死する様子などもよく見かけていた。
だからこそ、自分に聖なる力があるからと聖女として引き取られた時、本当にうれしかった。
その時まで神様なんて信じていなかったけれど、私が生きていられるのはその力があったからだと思うと神へ感謝した。
自分にそういう力がある実感はあまりない。でも祈ればなんとなく自分から力が抜けているのは分かるし、多分聖女として役割は果たしていけているのだろうと思った。
聖女としての力の仕組みも分からなくても、なんとなく、そういうことは理解出来た。
衣食住を与えられ、のびのびと生きられることへの感謝を毎日毎日捧げていたわけだけど、急によく分からないことを言われた。
きらきらした男性が追放などと言っているけれど、この人は誰だろうか?
お貴族様?
貴族出身の聖女に関しては、貴族と関りがあったりするのも当然だったけれど私は孤児院出身なのでそういう人たちと関わったことはなかった。
ただその男性の横にいるのは、私と同じように平民出身の聖女だったのでよく分からなかった。
平民なのに、貴族の男性と関りでも持ったのだろうか? よく分からないなぁ、そして追放とはなんだろう? そんなことを思いながら私は返事をする。
「追放とは、どういうことでしょうか……?」
「しらばっくれるな!! ジチアンのことをいじめていたのだろう!」
「え?」
ジチアンとは、男性の隣にいる聖女の名である。
正直、私はこの神殿にやってきて長いけれどあんまり周りと交流せずに黙々と祈りをささげて生きてきた。
というか、孤児育ちの私は周りから仲良くするに値しないと思われていたからというのもある。
私はぬくぬくと平和に暮らせるこの神殿生活が気に入っていたので、一人であっても問題がないとのんびりと一人で過ごしていた。
本当にそれだけで、そもそも目の前のジチアンともまともに話した記憶はない。
「何かの勘違いだと思います。そんなことはしていません」
「うぅ。ひどいです。オドラさん。そんな嘘を吐くなんて」
「……嘘はついていないのですが」
なんだか涙を浮かべて男性に寄り添う、ジチアン。
……うん、これはあれだ。私をはめようとしている感じだと思う。なんというか、孤児だったころの知り合いの娼婦のお姉さんがこういう男性を落とすためのか弱く見せるテクニックがあるとかどうのこうの言っていた気がする。
男は女の涙に弱く、特にか弱い見た目をしている女性だとより一層効果があるだとかそういう感じだったと思う。
その後、私は自分の無実を伝えたけれど、でっちあげられた証拠によりもれなく追放された。
なんだかよく分からないけれど、ジチアンはとても力が強い聖女らしい。ジチアンが聖女になった八年前から結界などが強化され、そんな神殿の顔であるジチアンをいじめた罪は重いんだとか。
「まぁ、いいか。どこでも祈りはささげられるし」
私はぽいっと、神殿のある街から追い出され、もう二度と足を踏み入れないように言われたが、特に悲観はしていなかった。
そもそも元々孤児だった私が、十六歳になる年まで八年近く神殿という平和な環境で過ごすことが出来たのが奇跡的なことだったのだ。
感謝こそすれど、それ以上の感情はない。
その後、私はとぼとぼ歩いていたところを商人の馬車に拾われ、いくつもの街や村を経由した後……私が心地よいと思える村に辿り着いたのでそこに定住することにした。
「オドラちゃん、これ持っていきなよ」
「ありがとうございます!」
それからの日々は、平穏の一言に尽きた。
辺境の、その小さな村はとても心地よい雰囲気に包まれている。
この村の人たちはよそ者の私にも優しい。
お世辞なのだろうけれど、私が来てからこの村は良い空気が流れるようになっただとか、魔物に襲われることがなくなっただとかいってくれる。
私はこの地の小さな、朽ちていた教会を整備してそこで暮らし、そこで祈りをささげるようになった。
神様への祈りをささげるのは、楽しい。
空いている時間は、自分が食べるようの野菜を育てたり、のんびり散歩をしたりする。
この村の周辺には、神にまつわる石碑などがのこっていたりする。そういうものを見つけて掃除し、綺麗にするととても気持ちが良い。
昔は栄えていたけど、今は小さくなった村。
だけど歴史があって、この村で過ごしていると楽しい気持ちでいっぱいだ。
聖女は神殿で大切に保護されるものなので、ただ私は自分のことを神官と名乗っている。
正直肩書なんてどうでもいいと思うから。
狩った魔物をくれたり、育てた野菜をくれたり、この村の人たちは私によくしてくれるのでいつも教会で皆が平和に過ごせますようにって祈りをささげている。
「そういえば、オドラちゃん聞いたかい?」
ある日、村のおじいさんが街に行ったときに聞いたという噂話を教えてくれた。
なんでもとある街の神殿が大変なことになっているらしい。
これまで強固に築かれていた結界が、急に機能しなくなったと。
その神殿で最も力が強いと言われている聖女が、聖女としての力がほぼないに等しかったと。
……それがたった一人の聖女を神殿から追い出してしまったせいだと言われて捜索されているとか。
……どこかで聞いた話だった。
でも、まさかね? と私は気にしないことにする。
私はただ祈りをささげているだけで、特別なことは何もしていないもの。
それに例えばその話の追い出された聖女が私だったとしても、この村での生活が楽しいから戻るつもりもないもの。
「面白い話ね」
だから、村のおじいさんの話にはそれだけ答えておいた。
それからも追手が来ることなく、私はその村で楽しく過ごし続けるのであった。
――ただ神に祈りをささげていたら、突然追放された。
(実は村人たちが追手がこないように手を回しているのは、オドラは知らない)
書きたくなって書いてみた短編です
オドラ
無自覚聖女様。孤児だったので神殿に引き取られて衣食住が保証されていることに感謝し、信仰深くなる。神殿では人と仲良くせずに黙々と祈ってた。
祈りの力が発動していることに気づいていない。神に好かれているがそれも気づいていない
追放後、辺境の村に辿り着いて楽しく生活中。
ジチアン
平民出身の聖女。向上心が強く、貴族の男性を落とすために嫌がらせを捏造。自分の力を偽っていた。
力は少ししかない。見た目が良かったため、貴族が後見人となり神殿に入れられた。
オドラ追放後、神殿が大変なことになり、力が弱いことが発覚。色々大変。
辺境の村
昔は栄えていた。周りのあちこちに神にまつわるものがある所謂聖地的なエリア。
ただし今は巡礼者もあまりおらず、一部の人たちしか知らない場所。
オドラが綺麗にして祈ってを繰り返しているため、神気が満ち始めている(本人無自覚)
村に残っている人たちはこの地に思い入れがある聖職者たちの末裔ばかり。村人たちはこの地を残し続けることを目的にしており、辺境の村だが色んな場所にネットワークがある。
オドラの力にも気づいている。オドラのような力がある聖女が定住してくれたことを喜んでおり、オドラが神殿に戻りたがっていないことを知っているため追手を妨害しまくっている。
結果追手はオドラの元へは誰一人辿り着けていない。