第7話 逃亡
魔力封じの首輪とは、文字通り私たちの魔力を封じるための首輪だ。
とは言っても、別にそんな高性能なものではなかったと、後から知った。
そしてその知識は今の私にある。
それでも、枷は枷だ。私たちを、この研究所に縛り付けるための、枷。
それが外されて、私とサラの身が、ある程度自由になるのが、この演習の時。
演習では、一対一でモルモット同士が戦う。
大人たちは戦いの戦略や使う能力をモルモットに指示し、モルモットがその通りに動くのか、またどの程度の能力を発揮できるのかをデータに記録し、また新たな指示を…というように、中々時間がかかる。
その間、勿論大人たちの目や意識は戦っているモルモット2人に釘付けで、待機している他の、人形のようなモルモットへ向けることはほとんどない。
万が一のために、戦う2人以外には魔力封じの首輪をつけるとか、出入り口に警備員を置くなんてこともしない。
そのことから、この研究所の実態が少しだけ見えてくる。
要は、お金がないのだろう。後ろ盾もきっと、大したことがない。それもそのはずだ。
この国はここ数年戦争は起こっておらず、これからも…少なくとも数年は起こらない。
子供を使った生物兵器に、非合法な人体実験。考えるに、大した成果もほとんど出していない、そんな研究所に、罪と分かっていて出資する貴族などほとんどいないだろう。
現に、私が10歳の時、この研究所はたった1人の少年とも呼べる歳の男に潰された。それだけ脆く、そして再建できなかった。再建する価値もないものだったのだ。
それだけのもの。その程度の、研究所に、私たちはいたのだ。
「次、おまえとおまえだ、こい」
目の前にいた子が、力なく引きづられていくのを静かに見送る。
私とサラの番はまだまだ。いつも最後だ、目玉商品、メインディッシュ、みたいなものだから。
今は半分くらい過ぎただろうか。何人かが戦わされて、そのうち半分くらいが怪我をしている。
私たちは一列から一塊になって、戦闘を見ている。
ジリジリと、ジリジリと、ゆっくり、私とサラは集団の1番後ろへ移動して。
待っている。
あと少し。
私はサラを見る。
「…」
サラも、こちらを見ていた。
「……」
コクリ、とサラが頷いて。
私は歩き出す。
サラも一緒に。
ゆっくりと、なんてことないように。
気軽に、散歩にでも行くように。
鼻歌でも歌っちゃうくらい。
サラが隣に来る。
私はにこりと笑って、サラも少しだけ笑った。
私たちは手を繋いで、出口へ向かう。
屋外エリアから一度屋内へ入り、すぐに非常口へ。
誰にも気づかれずに、誰ともすれ違わずに。今日はほとんどの人員を戦闘演習に回しているからだろう。施設内に人の気配はほとんどなかった。
だから。
私たちは歩いて、研究所から出た。
2人で手を繋いで、軽い足取りで。
今日は晴れていて、さっき見たはずなのに、なんだか懐かしくて。
青い空が、やけに美しく、輝いて見えた。