第6話 決行
脱走を決行する日は思いの外早くやってきた。
そもそもこの研究所で、私たちモルモットにスケジュールなんてあるわけがない。
だから、脱走のタイミングというのは、その日、その時にしかわからないというわけで。
薄暗く、ジメジメした実験室とは打って変わって、明るくて風が気持ちいい、屋外エリア。
一列に並んだ実験モルモットと、よくわからない機械をガチャガチャやってる大人たち。
今日は、モルモットの戦闘演習が開かれることになったのだ。
戦闘演習は、不定期に開催される実験の一環で、だいたい月に1、2回程度のモルモット全体での、ほぼ実戦の模擬戦のようなものだ。
この研究所は、戦時における生物兵器や、魔法の研究、錬金術の発展などを目的としている、とは後から知ったことで、この戦闘演習は生物兵器分野における実験ということなのだが…私はこの演習が嫌いだった。何故なら、弱いものいじめをしている気持ちになるから。
私たちモルモットは、あらゆる実験によって身体や中身を弄られ、各々様々な分野に得意不得意が存在する。
例えば、私は戦闘技術に関しては強い。魔法も物理系に偏っている。唯一、治癒系の力があるにはあるが、これは研究所時代には持てなかった上にかなりしょぼい。今から伸ばせばもう少し使い物になるかもしれないが…まあ今後に期待、である。
また、サラは完全精神系の魔法に偏っている。勿論これまでの実験で身体能力もそれなりに高まっているため、魔法との組み合わせでそれを補っているが。
結論から言えば、この戦闘演習、成績1位は私で、2位はサラである。
戦闘能力、魔法技術、知能において、この研究所で私とサラの右に出るものはいない。
考えても見て欲しい。
なぜ私たちが子供部屋で堂々と脱走計画を話していたのか。確かに隅の方でこそこそ喋っていたものの、部屋にいた他の人に聞こえないはずがないのに。
理由は単純だ。
他の人はもう、ほとんど自分で考える力がない。
意識もほとんどなく、喋ることも殆どない。言われなければ何もできず…逆に言えば言われたことだけはしっかりやる。おそらく、研究所が作りたい生物兵器はそういうモノなんだろう。
下手に力がある兵器が、自分でものを考えて、反乱でも起こされては敵わない、ということだ。
私たちのように。
「……」
サラが先程から、何が言いたそうにこちらを見ている。
私は目配せをして、そのまま待つように伝えた。
私も、サラも、大人たちの前では喋らないし、ほとんど表情を動かすこともしない。そうじゃなきゃ、潰されてしまうから。
何も考えず、何も出来ず、何も喋らず。
そんなお人形のように、振る舞っている。
だから大人は、なんの疑問も抱かず、魔力封じの首輪を取る。列の1番端から、順番に。
私たちの、唯一の枷を、外した。