表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/23

第5話 お願い

「そんな…」

 青ざめたサラが俯く。

 私は、そんなサラの手を握ることしかできない。

 モルモットの脱走は、研究所の大人が仕組んだ罠だった。それこそイベントといって仕舞えばいいような、そんな馬鹿げたものだったのだ。

 私達は、大人たちにいいように使われて、いいように操られて、いいように殺される。

 恐怖や暴力なんてもので縛られて。

「サラ、逃げよう」

「レモちゃん…」

 サラの瞳が不安げに揺れる。

「こんなところで、私は死にたくない。サラと一緒にいたい。だって逃げられるんだよ。逃げられる、なのに、サラは逃げたくない?このままここにいたい?」

「それは…」

「サラ、選んでよ」

 握っているサラの手をギュッと強く、強く握る。

 卑怯でごめん。でも、これは自分で決めなきゃいけないことだから。

 例えば夢から覚めて、私がここからいなくなっても、サラが1人で生きていくために、貴方のことを私が勝手に決めてはいけない。

 サラがこれから生きていくためには、自分で決めなくちゃ、だから、貴方に選んでもらわなくちゃ。

「私もここから逃げるか。それともこのまま研究所で飼い殺されるか、選んでよ」

「…逃げて、どうするの?私たち、子供なのよ、どうやって生きていくの?それにもし、捕まったら…」

「有り得ないよ。捕まるなんて、私とサラは強いんだから。それに、逃げた先でどうするかは、私に考えがあるの」

 だから信じて。

 私は言う。卑怯なことを言う。優しい貴方を誑かす。誑かす。

「…わかったわ」

 ごめんなさい。

「ありがとう…」

 サラ、サラ、サラ。貴方のために生きるから。私は私のために、貴方を言い訳にして生きるから。貴方のためだと、言い訳にして生きるから。

 貴方は、本当に貴方のためだけに生きて。

 貴方が幸せになるために。

 貴方が喜びを感じられるように。

 貴方が楽しいと思えるように。

 貴方は、私を消費して生きて欲しい。

 きっと、優しい貴方はそんなことよしとしないけれど、私はもう、貴方に死んでほしくないから。

「いつ、逃げるの…?」

「早い方がいい、ね。計画を話すから、よく聞いて」

 真剣な顔のサラ。

 私は計画を話しながら、周りに気を配りながら、ただただ貴方に謝る。

 生きることは苦しくて、辛い。

 それを強要する資格なんて私にはない。

 だけど、それを選んでくれた貴方に感謝を。

 私は貴方を…。

「レモちゃん」

「なに?」

「ありがとう。レモちゃんが優しいこと、私はよく知っているの。私はよく、わかっているわぁ」

「…そんなことないよ」

 サラの方が優しいし。

 それを私もよく知ってるし、わかってるよ。

 そう言っても、サラはその主張を頑としてやめなかった。

 なんだか珍しく、申し訳なさそうな、そんな顔で笑ってた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ