第4話 単純で残酷
ジリリリリリ!!!
耳を裂くような非常ベルの音で、真夜中に起こされる。
そのベルの意味を察した瞬間、子供部屋は恐怖と期待に染まる。
誰かが脱走を試みたのだ。
私もサラの手を握り、祈る。
お願い、お願い、逃げて!私たちに、ここから出られるんだと教えて!
しかし、そんな願いが叶うことはないことを、私は知っている。
数分後、館内放送で流れる、脱走者確保の5文字に、みんなの表情が落胆に変わる。
知っている。
知っている。
知っている。
「脱走に失敗したら、どうなるんだっけ」
私はとぼけてサラに聞く。
「忘れたの!?殺されるの、とても、酷い、方法で…」
サラは驚いたように私から体を離し、真剣な目で見つめてきた。
「そうだったね」
勿論、私は忘れてなどいない。
脱走に失敗したら、そいつは大体が錬金術の材料にされる。もしくは致死率の高い実験に回されるか。とりあえず、悲惨だ。
でも、私はそんなの、怖くない。
だって、あれって全部、嘘だったのだ。
いや、実際に錬金術の材料や実験の餌食にはなっている。嘘なのは、その、前。
処罰された彼らは、脱走者などではないのだ。
「でもサラ、よく聞いて」
あれは、あのイベントは、研究所の奴らが仕組んだ罠だった。
おかしいと思った。そんなに定期的に脱走者が出るのも、それが廃棄間近と言われていた子供ばかりだったのも、戦闘訓練を受けている彼らと戦って、全くの無傷な研究所の人間も。
私は不思議だった。何故彼らは、魔力封じの首輪をつけられている夜に脱走しようとするのか。
私たちは夜、いや、厳密に言えば実験や戦闘訓練を受けていない時には魔力封じの首輪をつけられている。
今思えば、これこそが研究所側の驕りそのものだった。
研究所は、子供たちの魔力さえ奪ってしまえば、大丈夫だとたかを括っていたのだろう。実際の研究所の警備はザルそのもので、内側から外に出るのは容易にできることだったのだ。
ただ、研究所も馬鹿ではない。保険をかけておくのを忘れてはいなかった。
それが定期的に現れる脱走者の正体だ。
要は、アレは完全に仕組まれていたことだっていうことだ。
使用するのは廃棄間近の子供。ほぼ自我がなく、言葉も話せなくなり、体の健康維持も出来なくなった個体。これならば、どうせ錬金術の材料や危ない実験に使うのだから、その前に小道具として利用しようということだ。
筋書きとしては、夜中に小道具をこっそり運び出し、非常ベルを鳴らす。数分後、捉えたという放送を鳴らして子供たちを集める。
そして私たちの目の前で、小道具を脱走者として吊し上げ、暴力を振るう。1人くらいその場で切り刻み、錬金術の大釜にでも入れてしまえば、効果は抜群だ。
ついでに連帯責任として同じ子供部屋から1人選んで、罰を与えれば、恐怖で脱走なんてしないモルモットの出来上がり。
私たちは、まんまと策にはまっていたのだ。
それも、こんな単純で、残酷なものに。