第3話 脱走
夢を見始めてから数日。もはやこれが夢か現実なのか分からなくなってきた。
限りなく現実に近い。もしかしたら過去に戻ったのかも、だなんて都合のいいことを考えてしまうくらいには。
「お疲れ様ぁ、レモちゃん」
「サラも、お疲れ様」
夢が覚める気配はない。
今日もまた、私とサラは研究所で実験を受けて、子供部屋に引き摺られて戻り、お互いを労う。
単調な日々。以前ならば、それは仕方がなく、どうしようもないと思っていた。
だけど、私は知っている。この夢が実際にあった現実のように進むなら、こんな日常が、どうしようもないだなんて、嘘だということを知っている。
チラリと横に座るサラを見る。
こんな地獄で、それでもニコニコ笑う貴方。
「サラ…話があるの」
「なぁに?」
私、貴方を守りたい。
きっとこれは、私の勝手なエゴ。だって、生きるのって苦しいもの。生きるのって、大変だもの。
私は私のためにしか生きられない。他人を思いやって、他人のために生きることはできない。
私は私のために貴方を生かしたい。私が生きやすいように、息をしやすいように。ごめんなさい、貴方のためなんかじゃないの。
だけど、貴方が生きてくれたなら、私は私の出来る限りのことをする。
どうせ夢だもの。この夢の中だけは、私は誠実でありたい。私は人間でありたい。私は、優しくありたい。そのために、貴方には酷いことをします。
ごめんなさい、サラ。貴方が手を繋いでくれたなら、絶対に離さないって約束するから。
「…サラ、私と一緒に、ここから逃げよう」
「…え」
サラの、驚いた顔。
桃色と赤色の中間みたいな色の、瞳が揺れる。
私の好きな色。サラの性格にぴったりな、優しい色だ。
「レ、レモちゃん?どうしたのぉ?急に、そんな…」
「サラ、落ち着いて。大丈夫なの」
「大丈夫って…」
ここが、本当にあの研究所と一緒なら、絶対に私たちなら逃げられる。確信があった。
正直な話、この研究所の警備は緩い。
だからこそ、前は私と一歳しか違わない子供に壊滅させられてたし。まあ、あいつはあいつでとんでもないやつだったけど。
ただ、私もサラも、戦闘力はあいつと比べても劣ってないと思う。なら、きっと、逃げられる。
「ダメよぉ!だって、失敗したら…!」
「…」
サラが怖がるのも無理はない。
私はサラをぎゅうっと抱きしめる。背中に手を回して、落ち着くようにさすった。
失敗したら。
どうなるのか。それは、この研究所にいる子供なら誰だって知っている。
何故なら、よくあることだから。
何故なら、誰も脱走なんて、出来たことがないから。
だから私たちは、その結果を、よく知っている。