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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異界管理官メイの見文録(仮)

いのち売りの妖女 〜キケンな報酬、仕事のあとはおたのしみ〜

作者: 者別

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


     命売ります

      品目数量取引条件、応相談


      マーカスの賛美歌十三番の件、

       と店主までご用命ください


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 獣人(ヒト)の行き来もまばらな裏路地の一角、そこに立つ古めかしい雰囲気を匂わせる雑貨屋、それとは酷く不似合いな酒臭い樽に立て掛けられた真新しい看板……

 もし、その看板の文字が上記の通りに読めたなら、あなたは『有資格者』だ。

 必要があれば、店主の(おんな)に商談を持ちかけてみるといい。条件次第ではあるが、彼女に『売れない』命はないらしい。


 だが無資格なら潔く諦めるべきだ。決して、読めると嘘を吐いてはいけない。

 資格なき要求者は皆、嘘を見破られ『市場へ売られ』てしまうから。



 ……という噂を聞いた私は空腹に耐えながら、藁にもすがる思いで噂の裏路地を歩いている。


 しばらく進むと、確かに聞いていた通りの佇まいをした雑貨屋があった。

 いつの間にか、こんなところに雑貨屋ができていたのか。しかし、この町にまだこんなボロ……古い家屋が残っていたとは。

 町の復興は順調だと家臣から聞いていたが、まだまだ時間がかかるらしい……


 こんなときに、妙な規制とやらでいたずらに民を飢えさせるなど……果たしてそれは王の、『勇者』の振る舞いとして相応しいものなのだろうか……?

 神の御声とともに降臨し、魔王『ニムゲム』とその眷属アンゲリ共を討ち果たし『剣の女王』として即位した新王の振る舞いとして……



 私は門前で一息ついて苛立ちと胸の鼓動を抑えてから、戸を叩いた。


「どうぞ、開いています」

 (おんな)らしき声がした。物静かなようでいて、張りのある美しい声だった。

 店員だろうか、店主だろうか。私はなぜか、その姿に少し期待してしまう。


 戸を開けて店内に入ると、カウンターの向こう側に人影が一つ立っていた。

 人影の、顔のあたりに目を凝らすと……微かな癖と鮮やかな艶のある長めの黒髪、その下には整った顔立ち。目は力強く輝き、鼻や口は小ぶりで可愛らしい。まるで純血の北方猫人(ノルジャンネコビト)のような……

 しかし猫人にしてはずいぶん顔の毛が薄いし、第一私のように耳が頭上へ出ていない。であれば、猿人(サルビト)の一族なのだろうか?

 カウンター越しに(おんな)の上半身を眺めると、毛が少ないのはどうやら顔だけではないようだ。露わになった腕にも、体毛らしきものが見当たらない。確か猿人は、もう少し腕や脚に毛が生え揃っていたはず……

 などとあれこれ想像していると、(おんな)はカウンターを出てこちらへ歩み寄ってきた。


 もしかしたらこの(おんな)は、あの女王と同族なのかもしれない? だがそれにしては肉付きの良い、胸騒ぎがするような腰つきの、ずいぶん妖艶な身体をしていて……



「あの……お嬢さん、私の姿……おかしいですか?」

 彼女のことをまじまじと見つめてしまっていたらしい。困ったような顔で服の端をつまみながら、毛の少ない(おんな)が話しかけてきた。


「これは、失礼いたしました」

 私はひとまず非礼を侘びてから、


「マーカスの賛美歌十三番の件で、店主さんにお話いたしたく」

 噂の通り、目にした看板の記載通りに、『商談』を切り出した。




「エリノー、という名の……一点のみのご依頼で」

「……はい」

「条件はありますか? 命の証憑(しるし)を持ってくる、あなたの確認のもとで引き渡し作業を行う、対象以外の命は扱わない、などなどご用命あればお聞きします。可能な範囲で、ではありますが極力ご対応いたしますよ」

「そうですね……なるべく早く済ませてほしいところですが、わたくしの依頼であることを口外しないで頂ければそれで十分です」

「そうですか。ASAP、秘密保持義務、と……他になにか、守るべき契約事項はありますか?」

「えーえす……? あ、いえ、他にはございません」

「わかりました。作業完了後に連絡いたしますので、報酬は後払い……完了連絡の際にご準備いただければ」



「それでは、吉報をお待ちください。失礼いたします」

「宜しくお願いします」

 私たちは握手を交わした。(おんな)の手は、私とは違う肉の少ない華奢な手だった。

 のち店主の(おんな)が店の奥へ去っていくのを見て、私も店を出て居城へと歩いていく。


 『商談』は、すんなりまとまった……しかし本当に、そんなことが可能なのだろうか?

 彼女はこの町に居ながら、私の名にも、私の顔にも気づいていない様子だった。いくら他種族らしいとはいえ……いささか世間知らずとも思える。

 「エリノー」の名にも、眉一つ動かさなかった。もしかしたら、あの『剣の女王』のこともよく知らないのではないのか?

 いや、こういう場合は世間知らずというより浮世離れ、だろうか。


 ……あれ? 連絡……そういえば、どうやって連絡を取るつもりなのだろうか? そもそも報酬がなんなのか、少しも話していない……?

 まあいいか、もし吉報が聞けたら……もう一度ここを訪ねてみよう。



 城に帰り着いた私は、用意されていた菜と果物ばかりの夕食を何とか糧にしようと飲み込んでみる……が、いつも通り戻してしまった。

 やはり、虎人(フレン)……始祖の血が濃い私には、菜食はとても受け付けない……


 乳すら手に入らぬ今、菜食を糧にできなければ……もはや、獣人(ナカマ)を喰らうか、飢えて死ぬかのどちらかしか道が無い……



 私のためと言って、多くの者が死んでいった。


 備蓄の食料を全て献上して、餓死した者。

 女王の守る森へ密猟に行き、討たれた者。


 なぜ、こんなことになってしまったのか…………



「ここは今や私の世界、アタシの好きなようにやらせてもらう」

 一月ほど前、『剣の女王』となる勇者エリノーのために建造された、西の大森林にほど近い王城で……戴冠式を終えたエリノーは、だしぬけにそう宣言した。


「まず……肉を食うのをやめなさい。四脚(ケモノ)……だっけ? 彼らもあなたたちと同じ命なのだから、殺してはいけない。四脚(ケモノ)は全てアタシの森に入れて、アタシが守る」

 エリノーは四脚(ケモノ)を殺すな、食べるなと主張した。

 しかし私たち獣人(ヒト)の中には、四脚(ケモノ)の肉でしか生きられない種族がいる。

 エリノーの周りで主張を聞いていた者たちは、どよめき始めた。


「僭越ながら……四脚(ケモノ)の肉しか食せぬ者は、どうすれば……」

 私は、特に私と血の近い親族のことを思い浮かべて、エリノーにたずねた。


「肉しか食えない? だったらそこの(オス)でも殺して食えばいいじゃない」

「そ、そんな……!?」

 発言に慌てふためく私たちの目の前で、女王は居並ぶ侯爵たちに飛びかかりその内の一人の(おとこ)の首を刎ねて見せた。


「別に(オス)なんかいらないでしょ。私が直々に殺してあげたんだからさあ、早く食べちゃいなさいな。ほら」

 頭部を失い倒れた侯爵の死体からは血が噴き出している。エリノーは冷たい視線でそれを見下ろし、剣先で指し示している。


「え、さっき殺してはいけないと、ご自分で仰ったではありませんか……!?」

「……はあ??」

 エリノーの顔が、ぎりぎりと音を立てるかのように力強く歪んだ。


「ねえ、ザコのくせに、私に意見する気ィ!? テメエらは黙ってアタシのために這いつくばってればいんだよ!!」

 小さく悲鳴が漏れた。諫言した伯爵の首に、恐るべき速さでエリノーの剣が突きこまれていたのだ。


「話が通じない!? ら、乱心! ご乱心ぞ!!」

 私たちが総力を挙げてなお、一進一退の攻防を続けるしかなかった魔王『ニムゲム』とその軍勢……それすら単身で滅ぼしたエリノーに狙われては、抵抗のしようもない。

 私たちは新王の豹変を前に、逃げるしかなかった。



 森に全ての動物を集めて、私たちに狩らせないよう監視する……おそらくエリノーは始めからそのつもりで、わざわざ不便な西の森を領地にしたいと前王陛下に申し出たのだろう。

 エリノーが何の目的でそうしているのかは分からない。しかし私たちにとってその行為は、命を捨てろと言われているに等しい……とんでもない暴挙。


 止めさせなければならない。どんな犠牲を払ってでも、何としても……





 依頼から二日後の夕方、少しでも空腹感をやわらげようと寝室で横になっていると……突然「女王エリノー暗殺さる」との報せが届いた。


 もしや、彼女がやってくれたのだろうか!

 唐突な吉報に、彼女の蠱惑的な姿が思い浮かぶ。


 しかし、願望にゆがめられた誤報かもしれない。私は念のため手の者に情報収集を命じつつ、あの雑貨屋へ向かった。



「結果を知り次第、来てくれると思っていました。律儀そうな貴女でしたから」


「本当に素直で、実直で……可愛らしい方」

 彼女は微笑んでいる。


「それはそうと、報酬はいかように?」

 私は彼女が笑うのに少し反発を覚えながら、報酬のことを確認する。


「そう言えばそうでしたね、では…………」

 彼女は小ぶりな紅い唇に指を添えて、何かを思案するような様子を見せてから……提案してきた。


「貴女、でどうでしょう」

「え? そ、それは……」



 そうか……私は察してしまった。

 女王すら殺せる彼女は……いわゆる死神のようなものなのだろう。

 であれば、彼女のため……相応の対価を払う必要があるのだろう。


「……わたくし一人で宜しければ、今すぐにでもどうぞ」

 私は心の限り凛と意識して胸を張り、堂々と答えた。

 虚勢と笑われるかもしれないが、私にも少しは意地がある。



「ありがとう。では早速ですが、目を閉じてくれますか」

 言われた通りに目を閉じると、体毛の薄い急所に彼女の息遣いが伝わる……首筋に、彼女の口が迫るのを感じている。


 ああ、()()を噛み千切られるのか。

 そう想像すると何かが身体の中を走り、私はつい手足を震わせてしまった。


 しかし、諸人の命に代わるこの身なら……私一人の命など、比べるまでもなく安いものだ。

 後悔は……ない。

 後悔も、後ろめたさもないのだから……身体を震わせるなどみっともない。


 私は全身に力を込めて、震えを抑えながらその時を待つ……



 だが。



「ひっ、ひャッ!?」


 喉笛を熱く柔らかいものが擦ったような、くすぐったい感触に思わず変な声を漏らしてしまった。

 私は思わず目を見開き、彼女を見つめる。


「フフッ、可愛らしい声……はじめて聞けましたね」

「じ、じ、自分のことくらいわかります、いちいち説明しないでんぅっ」

 どういうことだ!? 私の命が欲しいのではなかったのか!?


「では、奥へ行きましょうか?」

 な、何をする!? なぜ私を抱きあげる!? なぜそんなところに手を入れる!?



 二人は夢中になれたから、思い出の一夜を何度も繰り返す。

 舞台は小さなベッドの上、そこに彩りを持ち寄って。




「ん……」

 朝日だろうか、顔に射した光をまぶしく感じて私は目を覚ます。


 そこには、私一人だけがいた。


 彼女は、どこに……? と考えたところで、昨夜のことを思い出した私は赤面した。

 顔が熱いのが分かるほど赤面しながら、身体のあちこちを目で見て、あるいは手で触れて無事を確認する。


 安心して吐いたため息も、赤面したように熱かった。



 私は脱ぎ捨ててあった服を着て、家屋の隅々まで彼女を探した。しかし室内には小さな四脚(ケモノ)の気配すら感じられない。

 仕方なく外に出てみると、領民らしき者がたむろしていた。この家についてたずねてみようと、声をかけてみることにする。


「あ、え!? 侯爵さま……?」

「この家に住んでいる(おんな)について、知っていることを隠さず教えてくださいな」

「え……この家? (おんな)……? 確か、ここはもうずいぶん長いこと空き家のはずですが……」

 ……どういうこと?


 いったい、彼女はどこに……すぐにでも探しに行きたいと、心が求めて逸る。


 だが私の立場上、そうはいかない。

 女王の死が確かとなった以上、すぐにでも飢えた領民を女王の森へ向かわせ……食を摂らせなければならない。そこで起こるかもしれない混乱、諍いに備えなければならない。


 もちろん、領民だけの話ではない。私も、まずは食べないと……




 その後、王国に本当の平和が戻った。

 私は諸侯をまとめ、世継ぎをもうけ、領内の復興に腐心した。


 ……そして天寿を全うするその日まで、彼女との再会はかなわなかった。


 彼女は一体、何者だったのだろうか。

 けれど、そんなことよりも……もう一度だけでいいから、彼女に逢いたかった。

 彼女に……私をもう一度、愛してほしかった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





 ────六柱緑弾(ベリクプルム)を使用して標的『エリノー』を銃殺したのち、霊体を回収。これを以て、逸脱処理を完了した。


 私見だが、何故あのような暴力的志向を有す輩を未処理のまま、それもあれほど精神的に安定した世界へ転移させたのか。それは不幸な生命への憐憫(れんびん)、という範疇をあからさまに外れている。あのような者に無責任な力と自由を与える行為は、文化的あるいは精神的に成熟した異界への、またその住人への当てつけにほかならない……

 本件を引き起こしたΩ∬@∃【この部分は機密事項のため非表示設定です】に対し、強く抗議したい────





 無機質な部屋で三人の女が談笑している。


「さて、だいたい書けたかな……報告書で触れてない部分は、まあそんな感じで……フフ、最後は美味しくいただきました」

 談笑する女たちのうち、部屋の隅に座る黒髪の女が満面の笑みを浮かべながらグラスを傾けている。

 女は左手でグラスをもてあそび、右手は机上で淡い光を放つ盤面に乗せて静止させている。


「いーなー楽しそー」

 羨ましく思ったのか、部屋の中央辺りで赤髪の女が口を尖らせている。


「獣人たちを見慣れるまでは楽しかったけど……肉は食べらんないし、魚……漁業の技術も発達してなかったらしくて……食欲が湧かないから酒も不味い、観光としては何とも消化不良でさ」

 黒髪の女は光る盤面から一旦右手を離し、グラスに酒を注いでいた。

 そしてグラスに満ちた泡立つ酒の、その半分ほどを口にして気持ち良さそうに眉を寄せる。


「ハーッ……仕事明けはやっぱコレよ、『ヴォーダンのネコ』!」

 一息ついて、女は右手を盤面に戻す。


「あー、確かにメイやんちょっとやせたっぽいー」

(こころ)の力は概ね充ちて、ですが(いのち)の力が萎んでいます。貴女らしくない……」

 赤髪の女の向かいに座る亜麻色の髪の女が、メイと呼ばれた黒髪の女を真っすぐに見つめながらボソリと呟いていた。


「はえーよくわかんね……あ〜、あたしも単独出張したいなー」

「報告書が作れないと言って私達に泣きつくから駄目、レポート代筆できる部下を見つけてからになさい」

「ん、あ〜……そんなむかしの話は忘れてやー」

「レイナの不可解な行動と状況説明を報告文に起こそうと、苦悩する日々……思い出したくない……」

 メイにも亜麻色の髪の女にも苦い思い出があるのか、やんわりとではあるが両者が赤髪の女を責めたてる。


「あはは、あん時はども……んで、その娘とはどこまでいったのー?」

 レイナと呼ばれた赤髪の女は、嫌な思い出話を避けようと話題を変えた。


「どこまでと言うと、まあ……『女の悦びを実感』させるまで、ね」

 レイナはそれを聞いて、ヒュウと口笛で応えた。

 対して亜麻色の髪の女は無言で、なにか物言いたげにメイをじとりと見つめている。


「勿論、種は残してませんよ」

「そこまで仲良くしたなら、最後までやっちゃえばよかったのにー」

 レイナは興味津々といった態度を隠さない。


「生殖細胞子再構築剤を持っていないので、どのみち」

「あーもったいない……あたしも見てみたかったな、とらみみー」

「えっそれは……こっちで私に産めと?」

 レイナの物言いに、メイは苦笑する。


「貴女の子……? とてもとても楽しそうな話、興味を禁じえない……」

「いやそこの話じゃないでしょ」

 メイの側へ身を乗り出してつぶやいた亜麻色の髪の女に対しても、メイはやはり苦笑する。


「ともあれ、私達は領分を越えるべきではないの。私達はあくまで各界の自然なかたちをい゛ぐっっ」

 いつの間にか、メイの背後に銀髪の少女が現れ……黒髪の絡む首に腕を巻き付けていた。


「こんばんはぁ、課長さぁん」

「あ、き、局長お楽しみタイム!? じゃあたしそろそろ帰るわー」

 猫なで声を上げる銀髪の少女を見たレイナは早々に目を泳がせ、逃げるようにドアから飛び出ていった。


「私も帰ります、明後日までは来ない……」

 亜麻色の髪の女も、冷静な態度こそ崩さないものの早々に退出していった。



「そんなお楽しみやってるから帰りがおそかったのねぇ、全く……」

 銀髪の少女は少し絞めをゆるめながら、猫なで声と同様の甘ったるい笑顔で語りかける。

 その態度は……少女の幼げな外見にはあまり似つかわしくない。


「だからと言って、休暇もレポート作成の時間も与えずお楽しみに来たのですか?」

「うんそうだよ、だめ?」

 銀髪の少女はたしなめられたが、平然と受け流す。


「管理局局長としては言うまでもなく駄目ですが……そう言われて素直に聞き入れるショボーではないでしょう?」

 メイはショボー……銀髪の少女をもう一度たしなめて、窮屈そうに溜め息を漏らす。

 そして、それ以上の動きを見せない。


 この体勢のまま、抵抗せずにいれば……ショボーが少し力の入れ方を変えるだけで、彼女の命は握り潰されてしまうかもしれない。

 そんな状況だが、多分そうはならない。


 ショボーは首を折ろうというでもなく、窒息させようというでもなく……的確に()()を締め付けることで、彼女をなるべく苦しませずに失神させようとしているだけ。多分。

 ショボーはイタズラ好きだが決して、メイに致命的な怪我をさせるつもりはない。そう信頼しているから……彼女は本気での抵抗をしない。


 そしておそらくはショボーも理解している。何のトラップも仕掛けられてないこの場で、メイが本気で抵抗するつもりなら……背後に居るショボーの大まかな位置を感知して頭を砕いてでも、首に絡められた腕をつかんで引き千切ってでも……容易く逃れられることを。職務上はメイの上司であるショボーだが、戦闘員としての二人にはそれだけの力量差があることを。

 そんな力関係だが、決してそうはならない。


 メイは職務を抜きにしても、ショボーの身体を傷付けるつもりはない。そう理解しているから……彼女は安心してちょっかいを出しているのだろう。



 ショボーはメイに絡めた腕と手の位置を微調整しながら、片脚をメイの太腿に絡める。

 そしてメイが微かに身体を震わせたのを合図にして、さっと腕の絞めを強めた。


「えいっ」

「んぎッ!? ……あゔ……ぅ゛〜っ…………」

 メイは朦朧とした呻き声を上げながら崩れ落ちた。


「フッヒュゥウゥゥ〜ッ!! たっ、た、たっまんねえぇ〜〜」


 ショボーは自身の薄い胸、細い腕に捉えられたメイが目の前で意識を失い、脱力する様を身体のあちこちで感じ取り……それがもたらす快感に身悶えしながら奇声を上げる。


「んあぁ…………んっ……おっと、早く準備しなきゃ」


「フヒヒ……やっぱトラップや薬より、手作業がいちばん気持ちいいなぁ……」

「けど手作業だと、起きるのも早いんだよなぁ……」

 独り言をこぼしながら、ショボーは手際よく「準備」を進める。

 ……もしかしたら本当は、メイは失神などしていないのかもしれない。

 と、ほんの少しだけ疑いながら。




「ちょっとショボー……拘束するならせめて服は先に脱がせておけと、いつも言っているでしょう」

「あ、ごめん……」

 意識を取り戻したメイの姿は着の身着のまま、手首を括られた状態で両腕を頭上に持ち上げられ、両脚は膝のところで閉じられぬように固定され。


「けどいまさらめんどいから、ごめんち」

 しかしもはや我慢の限界が近いショボーは、余計な手間をかけまいと軽く謝って済ませようとする。



「んじゃ、わたしが満足するまで『おんなのよろこびをじっかん』してねぇ」

「くっ……」

 メイは言葉少なく、頬を紅く染めながら目を逸らす。


「今日は新しいグッズいっぱい作ってもらってきたから……泣いたり笑ったりしても止めないよ、あはっ」

 ショボーは予想通りのメイの反応を受けて、それを更に煽るような物言いをしてやる。



「ひっ、ひャッ!? な、なんでそんなとこ……っ!?」

「うーん、可愛らしー声っ! ウワキモノのくせに! ちゅーしてやる!!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 その実力は有事の際の治安維持を専門とする『刑部衆』にも引けを取らぬと評される、『中圏壱〇捌界管理局』……通称『鬼の棲む』管理局は、今日もいたって平和なようである。

題名:(『命売ります』+『マッチ売りの少女』+『タイタンの妖女』)÷3 ……

メイ:「命 (めい)」であり「May(英:許可、願望、あるいは「Mad about you(あなたに夢中)」)」でもあるダブルミーニング? と思いきや「美(中国語)」でもある、とりあえずたくさんミーニング!

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