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V6_似た者同士の緊急クエスト

「実はな、奴が現れた時は別に特筆するような出現兆候なんかは周囲じゃ見受けられなかったんだ。シノ、あの時変わった様子は?」


 ふとカッツがシノの方へと話を振る。一瞬何のことかと戸惑った彼女だったが、今までのやり取りを見て自分に何を言わせたいのか分からないシノではないだろう。そう彼女のことを信頼しているがゆえの振りだった。


「天候に変化はなかったですね。でも……強いて言うならモンスターのリポップに制限がかかっていたような気がします」


 GMFの世界は広大だ。最先端AI「ゼウス」により管理されるこの世界は、そんな広大な大地にモンスターが全く居なくなってしまわないようにと世界最高峰の人工知能でリアルタイムに調整を行っているらしい。


 つまりあの日カッツが周囲のモンスターを全て狩り尽くすなんて言うことは本来あり得ないことなのだ。


 しかし55区画の東エリア。カッツとシノが戦闘を行っていたあのエリアに限ってはそれが起こった。あり得ないことがあり得た。つまりそれは「ゼウス」によってGMF内に意図的に引き起こされた事象なのだ。


「ふむ、大変興味深いお話が聞けました、80万ガルで手を打ちましょうっ」


 満足するものが得られたのか、カウンター越しの猫耳が嬉しそうに左右に揺れた。先ほどまで一切の隙を見せない少女が二人に向けて初めて見せた笑顔だった。


「80万……!?出しすぎじゃないか?」

「いえいえとんでもございません。元々ラスターシャからは70万までは引き出せていたんですよ」


 その言葉を聞いてなるほど、とカッツは思う。元々その金額で取引をする気はあったのだ。問題は安値を吹っかけた時に自分たちがどういった対応を見せるか。


 要は単純に二人は試されていた訳である。


「……あれ、じゃあ残りの10万ガルは?」

「あぁ、それは私のポケットマネーです」


 あっけらかんとした表情で彼女はそう言い放った。


「ど、どうしてですかっ!?」


 尋ねるシノの声色にも動揺が混じる。商業ギルドに所属する多くのプレイヤーは売買で使用するゲーム内通貨をギルドの仮想金庫から引き出している。


 当然ギルドの売り上げに貢献する交渉であるがゆえの事。ギルドの金庫からそれを用いることが一種彼らのしきたりなのだ。


 しかし今回、目の前の少女はそこからの金額に自分の色を足して見せた。


「いやぁー気まぐれって奴ですよ。私の商売魂が二人を無性に気に入ってしまいまして」


 そう言って少女はくしゃりと笑った。それが本来の彼女の姿なのだろう。その様子に思わずシノは親近感を覚えた。


「改めまして、商業ギルド「マゼラン」担当はわたくし、ジンジャーがお受けいたしました」


 ペコリ、とジンジャーと名乗ったその少女はカウンター越しに二人に向けて頭を下げた。


「あ、あぁ……カッツだ」

「シノです」


 現実だろうが仮想世界だろうが関係ない。これが無意識に刻まれた性というものなのだろうか。唐突に名乗られたものだから、それに合わせるように二人も咄嗟にジンジャーへと名乗り返す。


「ふむ……カッツさんにシノさんですね」


 ぴょこり、と直後二人のフレンド欄に申請の通知が現れる。


「実はできれば今後ともごひいきにしていただきたい次第でして……」


 猫耳をぴょこぴょこと動かしながらジンジャーは二人へ頭を下げた。あれ、自分の意思で動かせるのか。なんてことに気が行ってしまいそうになるが、あれについてはあまり触れない方がいいのだろうとカッツはそう判断することにした。


「それで、急に俺たちに距離を詰めてくるけど、一体どうしたってんだ?」

「いやはや、これは失礼ー。わたしの夢にもしかして近づけるのではと考えてしまうと、ついつい言動も逸ってしまうものです。失敬しました」


 そう言ってジンジャーは先ほど腰を掛けていた机の下から一枚の紙を取り出した。


 それは一般的にクエスト受注書と呼ばれるもので、ゲーム内で自動で生成されるものからプレイヤーが作成するものまで、この世界のありとあらゆるクエストを発注することが出来るアイテムである。


「実は折り入ってお願いしたいクエストがありまして……」


 アイテムを売りに来ただけなのに一体なぜこんな風に話が進んでいるのだろうか。何やら雲行きが怪しくなっていくのに戸惑いを覚え、カッツとシノは互いを見合う。


「か、カッツさん、一応内容を聞くだけならいいのではないでしょうか……?」

「そうだな」


 そうジンジャーに告げると、彼女はすいとクエスト受注書を元の場所へとひっこめてしまう。


「申し訳ありません。これに関しては受けてくださる方にだけ内容を明かすことのできるクエストでして……」


 クエスト発注者が受注に際し条件を設けることは珍しくない。しかしクエストの内容自体を教えて貰えないというのは二人にとっては初めての経験だった。


「おいおい、それじゃあこちらはどうしようもないぞ」

「ですです。依頼内容によっては私たちじゃどうしようもないこともありますし」


 魔法剣士と狙撃手。GMFというゲームにおいてあまりメジャーではないスキル構成をしている二人にとって相性のいいクエストというのはそう多くない。


 当然そうなると内容を明かせないクエストに対して警戒心が強まるのも当たり前だ。


「おや……?お二人は55区画まで行かれたんでしたよね?おっかしいなぁー」


 しかし難色を示す二人をからかうようにジンジャーはいかにもな演技をして見せる。こうすることで目の前のゲーマー共は引き下がれなくなるということをジンジャーは経験で知っているからだ。


「50区画以上をぶらつける実力者って珍しいと思ったのですが、わたしの思い違いだったようですねー。そうですよねー実力のないお二人でしたら断ってしまうのも当然ですよねーしょうがないな―」


 全くの棒読み。その言葉には微塵も感情を感じられない。なんとも安っぽい挑発である。しかしそう分かっていながらもそれに乗ってしまう人間が存在することもジンジャーには織り込み済みだ。


「おーけーおーけ!このGMFトップクラスの魔法剣士であるカッツ様がそのクエスト、受けてやろうじゃないかっ!」


 VRMMOヘヴィーユーザーを自称する洋輔にとって、その挑発はなんとしても乗らねばならないものだった。わざとだと分かっていながらも自分をそうこき下ろされて引き下がれるような男ではない。


 そして――そんな挑発に乗っかってしまうVRMMOプレイヤーがここにもまた一人。今までカッツが見てきた中で一番と言ってもいい程にやる気に満ち満ちた少女が居る。


「やぁあってやろうじゃないですかぁ!!!!!」


 こうしてカッツとシノは、唐突に持ち込まれたクエストを請け負うことになったのだった。


と言う訳でお付き合いいただきありがとうございました。

併せてご感想、ご評価、ブックマーク等いただけると泣いて喜びますのでよろしくお願いいたします。

それでは次話っ!!!!

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