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V1_剣と魔法と銃弾の世界へようこそ

 ゲームというにはあまりにリアルで、現実というにはあまりに空想的。

 そんな空間が人々を魅了し始めて10数年が経った。


 フルダイブVR技術。


 その技術の発展がゲームというコンテンツの姿を大きく変えていった。キャラクターを操作するためのコントローラーは頭に装着するヘッドギアへと変わり、美麗なグラフィックを映し出していたモニターは不要となり、世界は脳内に直接広がるようになった。


『Guns&Magic Fronteir』


 最先端のVR技術を用い、更には独自のAIを搭載したそのゲームは無数に生み出されるVRMMORPGの中でもまさに期待のビックタイトルである。


 AIによりリアルタイムで生成される世界。五感を通してそれが目の前に広がる没入感。


 そのゲームはまさにもう一つの”現実”と言っても過言ではなかった。


――――————



「これで98体目。ボチボチってところか……?」


 淡い光となって消えていくモンスターの姿を眺めながら、カッツは一人今日の稼ぎを振り返る。


 消え去った光の跡に転がり落ちたモンスターの魔石を拾い上げると、それを腰の袋へと乱雑に放り込む。金策のためのクエスト中にドロップする魔石は、最近懐事情が寂しいカッツにとってはまさにありがたい副産物だった。


「っと、もうこんな時間か……。熱中しすぎたかな」


 モンスターを打倒すために使用した剣を素早く鞘へとしまい込むと、戦闘前に近くの石の裏へと隠したカバンの中へと魔晶石の袋を投げ入れる。


「この辺の湧きはしばらくないみたいだし、ちょっと西に移動してみるか……」


 周囲を眺めると、先ほどまで無数に姿を見せていたモンスターの姿は何一つ見つからない。カッツの今日の狩場となったこの場所はGuns&Magic Fronteirのゲーム内でも高難易度とされるエリアの一つだ。


 サービス開始からまだ数か月と経っていないこのゲームにおいてこのエリアへと足を運べるプレイヤーはそう多くはない。


 今日もカッツがここへと訪れた時にプレイヤーの姿は一人も見当たらなかった。つまりこのエリアのモンスターを一人で狩りつくしたのは彼自身である。


「あ、そうだ。晩飯……」


 目的の方角へと足を踏み出した直後、カッツを猛烈な空腹感が襲った。


 このゲームには空腹感を感じる機能は設定されていない。空腹値のステータスは設定されているもののそれはあくまで数値上のステータス。


 実際にお腹が空いたと感じることはないはずだ。つまり今空腹を感じたのは、実際にゲームをプレイしているカッツの現実の体である。


「もう少し狩ったらログアウトするか……」


 今日の討伐数は28体。キリを良くするために後2体ほど。そう思ってマップを一度確認しようとした時だった。


「がっぁああああああああああああ!!!!」


 けたたましい方向が辺りに響き渡る。


「な、なんだ……!?」


 咄嗟に耳を塞ぎ体勢を落とす。直後、猛烈な爆風が周囲を吹き抜けたかと思えば右頬がちりと痛むのが分かった。


「……攻撃判定あるのかよっ」


 僅かに減った体力ゲージに目をやりながらカッツは忌々し気にそう呟いた。


 攻撃の主はどうやら丘の向こう側にいるようで、なだらかな坂の下にいるカッツはその姿を捉えることは出来ない。


「っつかこのエリアにあんな攻撃をするモンスターなんて……ん?」


 そんな時だった。ゲームシステムを通達するテキストボックスが点滅するのが分かった。素早く空中にシステム表示を呼び出すと、そこで光る運営からの通達を確認する。


「えっと、なになに……、緊急討伐クエスト……独眼竜討伐!?」


 心臓が一つ跳ねるのが分かった。緊急クエストなんて文言にワクワクしない訳が無い。カッツは根っからのMMOゲーマーである。


 そんな男がこの文字列を見てはしゃがない訳が無かった。


「よっしゃ、その独眼竜とやら、ぜひとも拝ませてもらおうじゃねぇか!」


 初めて見るモンスター。その姿をぜひともこの目で確認しようと勢いよく坂を駆け上がった時だった。


「いぃいいやぁああああああ!!!!!」


 甲高い悲鳴が一つ、丘の向こうを駆け上がってくるのが分かった。


「あれ、誰かいたのか……?ってかそんな場合じゃねぇ!初めての撃破は俺がっ!」


 先着の人間が居たことを悔しく思いつつ丘の上を再び目指す。稜線を超えてその向こうにモンスターが現れるはず、そう思ったまさにその時だった。


「ぶへっ!」

「ぎゃっ!?」


 突如体に衝撃が走る。と、同時に誰かが目の前で勢いよく倒れるのが分かった。


「ちょ、いきなりなんだってんだ!」

「びびびびっくりした……っ!まさか人がいるなんて」


 そこにいたのは一人の少女。くすんだ緑色のローブに全身を包んでいるが隙間から覗く装備は随分と軽装だ。


 この高レベル地域で随分と舐めたものだな、とその防御力の薄さに思わず呆れそうになる。しかし身のこなしはそれ相応のようで、少女はすぐさま立ち上がりこちらへと指を突き立ててくる。


「いきなりぶつからないでくださいよっ!」

「それはこっちの台詞なんだが……」

「いやぁ~それはなんというか……ごめんなさいっ!」


 続けて文句の一つでも言いたくなったが、目の前で頭をぺこりと可愛らしく下げる少女を見て喉まで出かかっていた言葉も引っ込んでいく。


「君、こんなところによくそんな防御力のない装備で……」

「いやぁ……メインの武装はちゃんとあるんですよ!ほらっ!」


 彼女が背中に手を回す。なるほど、背中に背負えるタイプなのか。ならば今の位置から見えないのも仕方がない。そう冷静に分析した時だった。


「あ……」


 少女が情けない声を一つ上げる。


「どうしたんだ?」

「……武装……逃げるのに必死で置いてきちゃいました」

「はぁ」


 呆れ声一つ。と、同時に目の前の少女の顔がどんどんと青ざめていくのが分かる。このゲームに顔色まで読み取る機能はないはずなんだが……と思いつつ、カッツは重要なことをすっかりと忘れてしまっていたことを思い出した。


「独眼竜!」

「そうだっ!私追われてるんでしたぁああああああ!!!!」


 少女が勢いよく坂道を逃げるように駆け出していく。と、同時に激しい振動と大音量の咆哮を伴って一頭の黒い竜がこちらに勢いよく飛来するのが目に入った。


「あああぁぁぁぁぁぁぁ……」


 次第に小さくなる少女の叫び声も既にカッツの耳には届いていない。今の彼は既にもう目の前の強敵の事しか頭に入っていないのだ。


「これが武者震いって奴かねぇ」


 体長5メートルを優に超えるだろう巨体を前に思わず身震いが止まらない。だが思ったよりも冷静で居れたようで、獰猛な顔つきの左目には縦に大きく傷が入っているのが見て取れた。


「へぇ……確かにこりゃ独眼竜だ」


 右手で腰の剣を抜きながら、左手に炎魔法をストックさせる。


「さぁ、緊急クエと行きますかっ!」


 抑えられないゲーマー魂が、カッツの口元を小さく歪ませるのが分かった。


ということで今回から新連載です。第一話でしたがここまでお付き合いいただきありがとうございました。


「面白かった」「よかった!」と思っていただけましたら、下の☆欄またはブックマークから少しでも応援していただければ幸いですっ!


頑張っていきますので期待を込めてブクマ、ご評価等いただければ作者の励みになりますのでよろしくお願いいたします

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