表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノア  作者: 柏木椎菜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/16

九話

「戻りました」

 外から戻って事務所へ行くと、リベカさんはいつものように事務作業をしてた。

「お帰り。どうだった? 弟君は」

「元気にしてました。調子もよさそうで……」

 今日は午前中に休みを貰って、あたしは週に一度のアロンとの面会のため、ミューベン養護院に行って来たところだった。

「それは何よりね。早く具合がよくなるといいね」

 リベカさんは微笑むと、再び手元に視線を戻した。あたしはちょっと迷ったけど、意を決して聞いた。

「あの、リベカさん。お願いしたいことがあるんですけど……」

「ん? 何?」

 リベカさんがこっちを見る。その緑色の目をあたしは見つめた。

「弟のアロンを、ここに泊まらせてもいいですか……?」

「泊まらせる? っていうのは――」

「あっ、一日だけです。何日もじゃありません」

「別に何日だってこっちは構わないけど……こんなお願い、初めてだよね。何かあったの?」

「実は、アロンに外出許可が出て……」

「それって初めてのことなの?」

「いえ、アロンの状態がいい日が長く続けば、そのたびに許可は出てました」

「そうなの? じゃあその時は二人でどっかに?」

「街を散歩するだけでした。明るい昼間だけ……でも、出来たら丸一日、アロンと一緒にいてあげたいと思って、それで……」

「何だ。そういうことならもっと早くに言ってくれればよかったのに」

 リベカさんはあたしに体を向けると、にこりと笑った。

「許可が出てなくたって、どんどん連れて来てよ。ミリアムの弟君なんだから」

「……いいんですか?」

「当たり前でしょ。一日と言わず、一週間ぐらい泊まって行けば?」

「それはさすがに無理だと思いますけど……わがまま聞いてもらって、ありがとうございます」

「何にもわがままじゃないから。それに私、弟君見てみたかったし、少し楽しみ」

「あんまり、期待しないでください」

「ミリアムは本当に控え目ね。それで? いつここには来るの?」

「アロンの状態に変わりがなければ、明日に。急なお願いで申し訳ないんですけど」

「大丈夫よ。明日ね。じゃあ弟君のためにいろいろ買っておこうかな」

「一日だけですから、お構いなく……」

「構うに決まってんでしょ。まず泊まる部屋は、ミリアムと一緒でいいか。あ、でもあのベッドで二人は狭いよね。何か考えないと……。ところで弟君は好物とかってある? 近所で買えるものだといいけど……」

 リベカさんはあたしに聞きながら弟のための準備を考え始めた。その様子はどこか楽しげでもある。よかった。迷惑がられたらどうしようかって、だからこれまでお願い出来なかったんだけど、でも思い切って聞いてみて、ようやくアロンと長くいられそうだ。リベカさんの優しさと気遣いには、いつも感謝するばかりだ。あとは明日、アロンを迎えに行くだけ……同じ屋根の下で過ごすのは、いつ以来のことだろう……。

 そして翌日、あたしは午前中にアロンを迎えに行き、養護院から改めて状態に問題なしと判断されて、一緒に便利屋の扉をくぐった。

「戻りました」

 そう言った途端、事務所からリベカさんが小走りで現れた。

「お帰り! ……へえ、あなたが弟君のアロンか。ふうん……」

 リベカさんは珍しい動物でも見るように、あたしの隣に立つアロンをじっくり見つめる。

「やっぱり姉弟だけあって、顔は似てるね。目なんか色も同じでそっくり」

 アロンは今十三歳で、あたしより頭一つ分背が低い。短く切られた髪は薄い茶色で、あたしの色よりちょっと濃いけど、リベカさんの言う通り、顔の作りは昔からそっくりだってよく言われる。でも養護院に入ってからは、日焼けしてた肌は真っ白に戻ってしまった。今じゃあたしよりも白いかもしれない。

「……ところで、弟君はどこが悪いの? 見た感じ、どこも悪そうなところはないけど、体の中を悪くしてるの?」

 アロンについてはまだ何にも教えてなかったんだ。だけど連れて来た以上は必ず言っておかないといけない。

「はい。アロンは、精神に……心に障害を負ってて……」

 これに少し驚いたのか、リベカさんは瞬きしてあたしを見た。

「そうだったんだ……てっきり、大怪我でもしてるのかと勝手に思ってた……。でも、怪我じゃないなら自由に動けるし、大きな制限もないからいいよね。精神障害だって、時間はかかるだろうけど、治るものなんでしょ?」

「そうだと、あたしは信じてます」

 お医者様は必ず良くなるとは言ってくれなかった。でもそれは治療を続ける環境次第だとも言った。だからあたしはアロンが昔みたいに笑ってくれるまで、ずっと信じて側にい続けるんだ。出来ることを探しながら。

「そうだよ。いつか絶対に良くなるよ。だってミリアムが付いてるんだからね。弟君はきっと心強いはず。……そうでしょ?」

 リベカさんはおもむろにアロンの顔をのぞき込んで聞いた。

「………」

 無反応なアロンにその首をかしげる。

「初対面の人間じゃ話しづらいか。じゃまずは自己紹介からね――」

「あの、リベカさん……」

「私はここで便利屋をやってる、リベカ・ダヤンっていうの。よろしく」

 そう言ってリベカさんがアロンの手を握ろうとしたのを見て、あたしは咄嗟に二人の間に割って入った。

「ちょっ、ちょっと! 何なのミリアム」

「ごめんなさい。でも駄目なんです。アロンは知らない人に触られると、混乱状態になっちゃうことがあって」

「え? そういう大事なことは早く言ってよ」

「普通に話しかけるのは大丈夫なんですけど……あ、でも、あんまり長くてしつこかったり、大声だったりしても駄目なんで、気を付けてお願いします」

「それだけ気を付ければいいの? わかった。弟君は繊細な心の持ち主なのね。ふう……でも残念だな。たくさん聞きたいことあったのに。質問攻めは治るまでお預けか」

「答えられることなら、代わりにあたしが答えますから」

 これにリベカさんは微笑みを向けた。

「……駄目ですか?」

「そうじゃなくて、しっかりお姉さんやってるなあって思って。弟君をちゃんと守ってる感じ。いつもは私とシモンでミリアムを見守ってるのに」

「アロンはあたしの宝物なんです。絶対に失いたくない、唯一の家族なんで」

「……唯一?」

 聞き返されてはっとした。両親のことはまだ話してなかった――あたしはうつむいて続ける言葉を探した。

「えっと、家族っていうのは、あの……」

「まあいいわ。弟君をずっと立たせっぱなしってのも悪いし、とりあえず応接室に行こうか。そこで一休みしてもらってる間に、ミリアムには食事の用意でも手伝ってもらおうかな。いい?」

「あ、は、はい」

 リベカさんは自分から話を切って台所へ向かった。あたしに気を遣ってくれたんだ……。アロンの手を引いて、応接室のソファーに座らせてから、あたしはリベカさんの手伝いに行った。

 台所にはアロンのために買った食材がたくさんあって、リベカさんは包丁片手に簡単な料理をいくつも作ってく。あたしも一緒に手を動かしながら、弟はこんなに食べないかもと言うと、好き嫌いがあったら困るから、いろんな食材でいろんな料理を出しておきたいということだった。別に仕事のお得意さんでもない弟のために、ここまで気遣えることには頭が下がる思いだ。

 そうして出来上がった数品の料理を応接室のアロンの前に並べた。あたしとリベカさんもソファーに座る。

「アロン、この中で食べてみたいのある?」

 隣のアロンに聞いてみると、その視線がいくつかの皿を巡ってから一つに留まった。そしてゆっくり出した手がその料理を取る。

「なるほど。弟君が好きなのは肉を使った料理なのね」

 鶏肉のハーブ焼き――これが弟の選んだ料理だった。あたしはそれを切り分けてアロンに渡す。すると匂いをちょっと嗅いでから、むしゃむしゃと食べ始めた。その食べっぷりを見てからあたしとリベカさんも食事を始めた。アロンはその後も他の肉料理を選んでは美味しそうに食べ続けた。どうやらリベカさんの手料理は弟の舌に合うようだ。出来れば肉以外の料理も食べてもらいたいけど。野菜ときのこのスープなんて味付けが最高なのに。

「……ところで、弟君はいつから病気に?」

 サラダを食べながらリベカさんが不意に聞いてきた。

「数年前から……」

「数年って、何年前?」

「六年前……アロンが七歳の時に……」

「っていうと、捜してるノアが行方不明になった頃と同じか」

 そう言われて、あたしは内心どきりとした。

「原因はわかってるの?」

「それは……」

 言うべきなのかどうか……リベカさんにはあんまり隠し事はしたくないけど……。

「もしかして、家族が原因だったり?」

 あたしは食べる手を止めて、思わず顔を上げた。

「あ、違ったらごめんね。さっき唯一の家族って言ってたから、親御さんに何かあったのかなって思って……深く聞きすぎだね」

「い、いえ……」

 リベカさんはやっぱり鋭い。あたしが言わない事情を何となく察してるのかもしれない。六年前、家族、そしてノア……それらがつながってることは、さすがにまだ気付いてないと思うけど。

「弟君、すごく大人しいけど、前は違ったんでしょ?」

「はい。小さい頃はあたしとノアで、近所を駆け回って遊んで――」

 そんな話を皮切りに、あたしとリベカさんは他愛ない話をしながら食事を終えた。アロンも料理を平らげて、表情にこそ出さないけど満足そうだった。その後リベカさんは事務仕事に戻って、あたしはアロンと散歩に出かけることにした。弟は昔から昆虫が大好きで、特にトンボがお気に入りだ。水辺が少ないこの辺りで見かけることはほとんどないけど、他の昆虫ならいるから、散歩は決まって緑の多い道を通ってあげる。そうして目ざとく見つけた昆虫に近寄るアロンは、ほんの少しだけ楽しそうにしてくれる。あたしはそんな弟を見られることが幸せだ。

 散歩から帰ると、疲れたのかアロンは応接室でうたた寝を始めた。ここじゃ迷惑だと、あたしは二階の部屋へ連れて行こうとしたけど、リベカさんに寝かせてあげようと言われて、その言葉に甘えさせてもらった。その間にあたしも自分の仕事に戻って書類整理をする。

「ミリアムが書類をきっちり分類してくれるから、最近は依頼のほうもはかどってるよ。ありがとね」

「お役に立ててるなら、あたしも嬉しいです」

 新たに溜まった書類の束を一枚ずつ確認しながら分類する。おかげで文字を読むのがちょっとだけ速くなった。

「でもねえ、一つだけはかどってないんだよね……」

「一つだけって、何ですか?」

 聞くとリベカさんは苦笑いを浮かべた。

「ノアの行方よ。他の仕事の合間を縫って、いろいろ捜してはいるんだけどね。やっぱり情報不足で」

「そう、ですか……」

 あたしの知らないところで、二人は頑張ってくれてる……。

「ミリアムの望みだし、便利屋としても絶対捜し出したいわけよ。だから無理を承知で聞くけど、他にノアに関する情報、ないかな? 思い出したことでも、些細なことでもいいから」

 あたしは迷った。ノアの情報はもう全部伝えてる。でもそれは言える情報だけで、言えない情報がまだ残されてる。言えないし、言いたくない。それが本音だ。だけどこのままじゃノアは見つかりそうにない。これが大きな手がかりになるのかどうか、あたしにはわからないけど……それでも確実にわかってることは、変化がないと状況は動かないってことだ。二人の時間もこれ以上無駄に使わせたくない。リベカさんがどんな反応をするか怖いけど、多分言わないといけないんだ。ノアを見つけるためには、覚悟して――

「……ノアは、隠れてるのかもしれません」

「え? 隠れてるって、どこに?」

「わかりません。でも、ノアは……」

 あたしは一つ息を吸って、言った。

「……ノアは、指名手配されてるんです。だから――」

 その瞬間、ガタンと音を鳴らしてリベカさんは椅子から立ち上がった。

「指名手配? それ本当なの?」

 あたしは書類を置いてすぐに言った。

「ごめんなさい! 言えなかったんです! 言えばお二人が捜してくれないと思って……」

 顔を伏せて謝るしかなかった。ずっと騙してたようなものだ。怒られて当然――

「何言ってんの? 指名手配程度で断ると思ってたの?」

「……え? でも警察に追われるような人を捜すなんて――」

「ミリアム、私達が誰を相手に仕事してると思ってんの? 犯罪ともつながりがあるような裏社会の人間だよ? 今さら指名手配ごときに怖気付くはずないでしょ」

 あまりの拍子抜けに、あたしは呆然としてしまった。さっきの緊張と覚悟は何だったんだろう……。

「もう、そんな大事な情報は真っ先に言ってほしかったな。そうすればこんなに手こずらなかったかも」

「あ、あのこれ、役に立つ情報なんですか?」

「もちろん。裏社会には訳ありな人間と、それを使う人間がうじゃうじゃいるからね。聞き込みに行けば何かしら手掛かりはつかめるはずよ」

「本当ですか! はあ……」

 安堵と期待で、体から力が抜けた。ノアが見つからなかったのは、あたしが臆病だったせいなのか。

「それで、彼は何で指名手配されてるの?」

 聞かれて、胸の奥に痛みを感じながらあたしは答えた。

「殺人の、罪で……」

「ふうん……殺人か」

 リベカさんは真剣な表情で宙を睨んだけど、すぐに笑みを見せてこっちを見た。

「わかった。シモンにも伝えて、これで少しは進展するはず。……ありがとね、ミリアム。勇気出して教えてくれて」

「何か、いらない勇気だったみたいですけど……こっちこそ、改めてお願いします。ノアを見つけてください」

「任せて。ここから速さを増して捜すから。楽しみに待ってて」

 どんな反応をされるかと思ったけど、これで状況は動き出してくれそうだ。あとは結果を待つだけ……ノアは今、どこでどうしてるんだろうな。

 時間は夕方になって、アロンもうたた寝から目覚めたところで、あたし達は夕食の用意を始めた。シモンさんはまだ仕事から戻ってなかったけど、いつものことだとリベカさんは言って、先に三人で夕食を食べ始めた。美味しい食事と楽しい会話を終えて、あたしとリベカさんで食器を洗いに台所にいた時だった。

「戻ったぞ……はあ、だりい」

 玄関からシモンさんの声が聞こえた。今日は朝から仕事で、帰りは日が暮れたこんな時間だ。かなり疲れてるんだろう。

「お帰り。夕食はどうする?」

 リベカさんは皿を洗いながら離れたところのシモンさんに聞く。

「何か残ってれば食べたいけどな。なきゃ買ってくるけど」

「豚肉のソテーとサラダが少し残ってるよ」

「じゃそれでいいか……その前に休ませてくれ」

 部屋として使ってる応接室に行くのか、シモンさんの足音が聞こえる。……あ、応接室にはまだアロンが――

「あん? 誰だ、こいつ」

 シモンさんがアロンに気付いた。この声にリベカさんがすかさず言った。

「昨日言ったでしょ。ミリアムの弟のアロンよ」

「ああ、こいつがそうか。よく見りゃ似てんな……俺はシモンだ。よろしくなアロン」

「変にちょっかい出さないでよ? その子は――」

「出してねえって。挨拶しただけだろ。にしても静かなやつだな。こっちも見ねえし。恥ずかしがりなのか?」

「だからアロンは病気なの。静かにしてあげないと――」

「男ならもっと威勢よくしねえと。そんなんじゃ周りからなめられるぞ。ほら、こっち向いてみろ」

「うう……」

 弱々しくうめくアロンの声――それが聞こえた瞬間、あたしもリベカさんも洗ってた食器を置いて、すぐに応接室へ駆け出してた。

「シモン、何やってんのよ!」

 部屋に入ると、そこでは二人がソファーに座って、シモンさんはアロンの顎をつかみ、自分に顔を向けさせてた。……いきなり触れちゃってる!

「その手を早く離して!」

 リベカさんはシモンさんの体ごとアロンから引き離した。

「なっ、何だよ。何か悪いことしたってのか?」

「そうよ。アロンに触れないで!」

「少し触れるぐらいいいだろ。俺はばい菌かよ!」

「同じようなものよ。私達が触れるとアロンが混乱するの。だからやめて!」

「混乱? 何だよそれ」

「病気だって言ったでしょ! 精神が安定してないの。いつもみたいな粗野な振る舞いはアロンを不安にさせんのよ!」

「そ、そうなのか。そりゃ悪かったけど、なら早く言っとけよ! 知ってりゃ俺だって気を付けてたさ」

「私の話を聞かないからでしょ! 人の話ぐらいちゃんと聞いてよね」

「聞いてねえのはお互い様だろ! リベカだって前に――」

「昔の話じゃなくて、今はあんたの話をしてんの! すり替えはやめてよ!」

「う……ああ……」

 再びのうめき声に、二人はぴたりと口を閉じてアロンを見た。アロンは縮こまるように両腕を抱えてうつむいてる。その表情は眉間にしわを寄せて怯えてる――まずい。混乱寸前かも。あたしはアロンの隣に座って、その体をそっと抱き締めてあげた。

「アロン、大丈夫、落ち着いて」

「姉ちゃん……うう……」

 アロンの体がちょっとずつ震え始めた。あたしはその背中をゆっくり撫でる。

「おい、ミリアム――」

 話しかけてきたシモンさんに、あたしは人差し指を立ててさえぎった。今だけは静かにさせてほしい。

「ごめん。そうだよね。静かにしなきゃいけないのに、弟君の目の前でこんな……」

 抑えた声でリベカさんが言ったのを、あたしは頷きで返した。でもその直後だった。

「姉ちゃん、僕……僕が……!」

 始まってしまった。弟の中で繰り返される悪夢――

「僕が……殺した! ああ、僕が殺した! 殺しちゃった! 姉ちゃん、姉ちゃん!」

 混乱に陥って大声で叫ぶ弟を、あたしはひたすら抱き締めることしか出来ない。

「アロン! 違うよ。誰も殺してないから。アロン――」

「だって殺しちゃったんだ! 真っ赤になって、うああ!」

 苦しみから逃れられないアロンの目から涙がこぼれる。それを拭ってやってあたしは耳元で言ってあげる。

「殺してないよ。殺してない。姉ちゃんはここにいるから、何も怖がることない。ずっと一緒にいるよ……」

「うう……姉ちゃん、僕……」

「違うから。アロンは何にもしてないから……」

 抱き締めて、背中を撫で続けて、ようやく混乱状態が落ち着き始めた。アロンの表情も緩んで、体の震えも止まった。もう、大丈夫かな……。

 弟からゆっくり身を離して、あたしはソファーから立ち上がる。そこでふと顔を上げれば、リベカさんとシモンさんのいぶかしむ視線にぶつかった。

「ミリアム、弟君がこうなったのって、もしかして、ノアが関係するの……?」

 殺人で指名手配。そしてアロンの叫んだ言葉……それを考えれば、もう無関係だと言い張るのは難しい。鋭そうなリベカさんには特に――聞かれたことにあたしは、小さく頷いて見せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ