ファイル87エピローグ
よろしくお願いします!
王都ローデンから遠く離れたポーター侯爵領。
緑豊かで人々の活気もある。広大な領土の中心に一際大きな屋敷があった。
大きな屋敷のとある部屋、茶色い髪の男がベッドに横たわっている。
この部屋の主アーサー・ポーターだ。
明るい光が窓の外から差し込む。ピチチ、鳥の声が聞こえ、彼は身をよじる。
「ううん……」
コツコツコツ――
廊下を歩く足音が部屋のほうへと近付いてくる。
靴音が部屋の前で止まる。
ドアの前までやってきた女性は、女性には珍しくスーツを着ている。
彼女はアーサーの部屋のドアをノックすると声を掛ける。
「先生! 起きてください、先生!」
「ううん……何だよ。昨日まで、アイツらのために、ぶっ続けで書いてたんだから、少しぐらい許せよ」
「何言ってるんですか! 新聞の連載小説で人気がさらに爆発してるんですから、次回作が大事ですよ! ドイル先生! 妹さんと殿下の婚姻が上手くいったら本業に戻られるんですから、その前に書けるだけ書いてください!」
「もとはと言えば、ぐずるアイリーンに話してやってただけのに……どうしてこうなった」
ドアノブをガチャガチャ鳴らされ、我慢していたアーサーだったが、ついに耐え切れず叫んだ。
「ああー! 少しぐらい休ませてくれー!」
**********
そして数年後――
霧の多い国フォグラード。
そんなフォグラードには珍しい晴天に溢れる日に王太子殿下の婚約者発表の儀式が行われた。
今代の王太子は類まれな容姿を誇る人物で、美しいプラチナブロンドに夜空の様な瞳を隣に立つ婚約者へと向けていた。
「とっても綺麗だよ。リーン」
「ありがとう。エド」
誰もが見惚れるような王太子の、蕩けた砂糖菓子の様な甘く幸せそうな視線を一身に受ける国一番の幸福な令嬢は、とある一族の宝と言われたレースをふんだんにあしらった純白のドレスに、これまた素晴らしい美しさの首飾りを付けている。
首飾りの中心には、王太子の髪色とよく似た淡いイエローダイアモンドが輝きを放っていた。
「さぁ、どうぞ」
「なんだか照れるわ」
「今更じゃないか。みんな待っているよ」
彼女は隣にいる王太子を見て、気恥ずかしそうに微笑むと、エメラルドグリーンの瞳を細める。
そんな彼女を愛おしそうに見つめる彼に促されるまま、民衆の視線集まるテラスへと姿を現す。
途端に湧く歓声。
歓声にこたえる彼女が手を振るたびに、美しくまとめられた彼女の赤髪が揺れる。
人望の厚い彼女は若年ながらも孤児の保護や就労などに尽力した素晴らしい令嬢で、国民の間でも探偵令嬢として親しまれていたらしい。孤児院の新設は彼女の最初の偉業として有名である。
眼下に集まった国民たちの歓声を浴びて、二人は穏やかに微笑むのだった。
fin
これにて、「迷探偵令嬢は怪盗プリンスを捕まえたい!」は完結となります!
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!
 




