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ファイル85迷探偵令嬢は怪盗プリンスを捕まえたい!

よろしくお願いします!

 そうして怪盗プリンスからの犯行予告当日となった。


 アイリーンは王宮の中を巡回していた。

 すでに兵やガーネットチルドレンには指示を出しており、彼女自身は巡回しながら怪盗プリンスを探しているのだが、彼女は別のことを考えていた。


(大丈夫よ。きっと大丈夫。ちゃんと宝石を守れるわ。今までだって捕まえられていないけれど、盗まれることはなかったのだから。それにきっとあの怪盗プリンスだって、頼めばわかってくれるわ)

 だけどもしもこの作戦が失敗したら、そう考えたアイリーンの表情が沈む。


(ええい! 必ず守り通すわ! そして殿下に、笑顔でお祝いをお伝えするのよ)

 アイリーンは気合いを入れるために両頬をパチンと叩く。

「ふぅ、さ、警備を続けないと」


 肩の力を抜くように息を吐き出すと、彼女はネックレスが置かれている部屋へと戻ったのだった。

 部屋のほうへ戻りながら、アイリーンは違和感を覚える。

(あれ? おかしいわ。この辺りにも兵がいるはずなのに、見当たらない)


 途端に嫌な予感のした彼女は、急いでネックレスのある部屋を目指す。

「まあ!」

 部屋の前まで来たアイリーンは声を上げた。


 部屋を守っているはずの二人の見張り役が、その場で眠りこけているのだ。

(二人ともけがはなさそうね。いびきまでかいているし、とりあえず放っておきましょう)

 それより、嫌な予感が最高潮に達する。扉が少し開いているのだ。


「まさか……」

 アイリーンは恐る恐るドアノブに手をかけ、開きかけた扉を勢いよく引っ張った。

 室内は静まり返っており、警備の者たちは床に寝転がっている。


(ネックレスは!?)

 アイリーンが部屋の奥、ネックレスを納めている台を見ると、そこには黒いマントの人影。

 その手にはネックレス。


「なっ、怪盗プリンス! あっ! 待ちなさい!!」

 その人物は素早い動きでアイリーンのほうへ走ると、扉から出ていってしまった。

 慌てて後を追うアイリーン。


 王宮の廊下を走りぬける。

「ま、まって!」

 アイリーンでは到底追いつけないが、何とか犯人を見失うまいと必死に追いかける。


 マントの男は王宮の神聖な領域へ躊躇なく走っていくと、神殿の中へと逃げ込んだ。

(よし! 神殿の中ね!)

 アイリーンは急いで怪盗プリンスの後から神殿へと入る。


「はぁはぁ」

 先ほどの逃走劇のせいで、肩で息をしているアイリーン。

 神殿の中は静まり返っており、昨日訪れた時よりも厳かな雰囲気だった。


 そんな神殿の奥、祭壇付近に怪盗プリンスは立っていた。

「はあ、はぁ……もう、逃げられないわよ。怪盗プリンス!」

 アイリーンは息を整え、怪盗プリンスに声を掛ける。


 怪盗プリンスは振り返ると、逃げる様子もなく、ネックレスを彼女に見せる。

「あっ! ネックレス! お願いよ! それは返して!」

 アイリーンが呼びかけると、怪盗プリンスは首を横に振る。


「どうして!? 今までもあなたは何も盗んでないわ! どうしてそのネックレスなの? 宝石が欲しいなら私のをあげる! だからお願い、そのネックレスは返してちょうだい!!」

 アイリーンは叫ぶように頼む。


「どうして?」

「え?」

「どうしてこれを守りたいの? そんなにこれが大事?」

 怪盗プリンスは仮面越しに真っ直ぐな瞳でアイリーンを見ている。


「だって、それは、この国の王太子殿下の婚約者様に贈られるものよ? 大事に決まっているじゃない!」

「でも、別にこれでなくてもいいだろう? 王子様だし他の物だって用意できるだろう?」

 アイリーンはそれを聞いて怪盗プリンスに怒った。


「なにも、何も知らないくせに!」

 彼女の剣幕に驚いたらしい、怪盗プリンスの目が丸くなる。

 アイリーンはエドガーと過ごした日々を思い出す。


 恋心を奪われた日、報告会やお茶会での出来事、初めて一緒にイエローダイアモンドを見た日、そして好きだと気付いた日。

 いろんな思い出の中のエドガーを想い、彼の愛の証をもらう幸せな令嬢への嫉妬を振り切った。


「そのネックレスは特別なの! エドガー殿下の愛の証なの! 気持ちがいっぱい詰まっているのよ! 殿下には幸せになってほしいの!!」

「……どうして?」


 遂にアイリーンの涙腺は決壊した。

「私がエドガー様を好きだからよ!! 大好きなの!! 好きな人には幸せになってほしいのよ。たとえ、他の人とであっても……うぅっ、ひっく」


「……そっか」

 しみじみとした落ち着いた声だった。

 コツコツと靴音が響き、怪盗プリンスが近付いてくるようだ。


 怪盗プリンスの声や表情には気にも留めず、アイリーンは号泣しながら顔をハンカチで押さえている。

 泣きながら恨み言の様に「何で言わせるのよ」だとか、「意地悪」などと呟くアイリーンに、近付いた怪盗プリンスは笑みを浮かべて彼女を抱きしめた。


「えっ! 何するのよ! 離してちょうだい! ちょっと、何で笑ってるのよ、意地悪!」

 アイリーンは驚きで抗議するため顔を上げると、怪盗プリンスの口元が笑っていることに気付き、また怒り始める。


 怪盗プリンスは遂に笑い声を漏らすと、優しく慰める様に彼女の耳にささやきかける。

「意地悪してごめんね。アイリーン。――やっと捕まえた」


 アイリーンはその声に、とても聞き覚えがあることに気付いた。

 誰の声か考えて、サッと血の気が引いた。

「え、うそ」


 またしても嫌な予感に、恐る恐る顔を上げるアイリーン。

 よく見れば、彼のシルクハットに納められた髪はプラチナブロンドが覗いており、仮面越しに見える瞳は濃紺だ。


 アイリーンは目を見開いて震える唇を動かした。

「え、エドガー様!?」


「ふふ、大正解」

 怪盗プリンスはそう言うと、シルクハットと目元を隠していた仮面を外し、アイリーンにウインクする。


ありがとうございました!

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