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【書籍化】迷探偵令嬢は怪盗プリンスを捕まえたい!  作者: 七戸光


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ファイル84決戦前夜

よろしくお願いします。

 翌日、ようやくマギーを呼んだアイリーンは、真っ赤に腫れた目を冷やしてもらう。

「ああ~。こんなに腫れて。元に戻るまで一日はかかりますよ。今日は大人しくお家にいましょうね」

「うん。ありがと、マギー」

 ベッドの上で目に冷たい布を当てたアイリーン。そんな彼女を、マギーは姉の様に優しく見つめるのだった。




 何とか目の腫れも引いたアイリーンは、それから一月の間、無我夢中で日々を過ごした。

 今まで以上に捜査に打ち込み、エドガーとの報告会はお休みし、手紙で必要な情報をやり取りする形を取る。


 情報収集を行い、借り受けた兵やガーネットチルドレンと何度も打ち合わせをしている彼女の姿は、一見やる気に満ち溢れた元気な様子だが、彼女を良く知る者にはあえて忙しくしているように見えていた。


 エドガーのことを考えない様にしているのだろう彼女の様子に、マギーやポーター夫妻は無理をしないようならばと、黙って彼女のことを見守っていた。


 **********


 そんな日々を過ごすこと一ヶ月。遂に、愛の証が王宮に納められる日がやってきた。

 アイリーンは王宮のとある一室で、今回の作戦で参加するガーネットチルドレンと警備部隊と集めていた。

 テーブルの上には今回守る部屋とその周囲の地図が広げられている。


「ついに今日が来たわ! 皆準備はいいかしら。最終確認よ! まずA班――」

 アイリーンは各班長達と共に作戦の最終チェックを行っていく。


「――でお願いね。それでは皆! 何が何でもエドガー王太子殿下の愛の証を守るのよ! 力を貸してちょうだいね。はい、解散!」

 パチンと手を叩いてアイリーンが合図を送ると、それぞれが持ち場に向かっていく。それを見届けてから、アイリーンは到着した愛の証を見るために歩き始めた。




「アイリーン様、どうぞこちらへ」

 アイリーンが宝石の納められる部屋に向かうと、すでにエドガーや側近のクラウス、警備の兵たちがそろっている。

 入り口にいたアイリーンに気付いたクラウスが、ちょいちょいと手招きする。


 アイリーンはクラウスの隣にいるエドガーを一瞬見て、視線を逸らすとエドガーのいない側についた。

「ご苦労様です。準備はいかがですか?」

「皆、頑張ってくれていますわ。それで、こちらが例の?」

「ええ」


「ああ、これが君に守ってもらう宝飾品だよ」

 クラウスの話を遮るようにエドガーがアイリーンに声を掛ける。

「……ご挨拶が遅れまして、失礼いたしました。エドガー殿下」


 急に話しかけられたことで驚いたアイリーンは、びくりと肩を震わせるが、何とか平静を保つ。

 エドガーは視線を合わさないアイリーンを少し嬉しそうに見つめると、いつもと変わらない笑みを浮かべる。


「挨拶はいいよ。状況は問題なさそうで安心した」

「私だけではできないことです。殿下のご支援と皆の頑張りですわ」

「そうか」


 アイリーンは「それより」と話を切り替えて、さりげなくエドガーから宝飾品へ視線を移す。

 透明度の高いガラスケースの中に美しいネックレスが飾られている。


 品のある装飾の施されたプラチナの台座に、華やかでひときわ美しい輝きを放つイエローダイアモンドが嵌まっている。

 台座の周囲には小さく上品なダイアモンドがちりばめられていた。


 アイリーンが今まで見たことのない美しさのネックレスに彼女は見惚れる。

(殿下の愛は、こんなに綺麗なのね……いいなぁ)

 まぎれもなく特別なネックレスに、もやりとした黒い感情が沸き上がる。


 アイリーンは目の奥がツンとするような気がして、早くこの場から立ち去りたくなった。しかしそんなわけにはいかない。アイリーンは平静を装う。

「……素敵なネックレスですわね」


「君もそう思う? 良かった……このイエローダイアモンドは特別だから、どうしても彼女への贈り物にしたかったんだ。とてもいい仕上がりだね。素晴らしい職人技だ」

 優しく愛おしそうに、どこか嬉しそうな声が、彼女の胸には苦しい。


(ああ、レティシア様、フィリップ。愛ってこんなに苦しいのですね)

 どんよりとした気持ちを抱えながら、アイリーンはエドガーやクラウスとの打ち合わせを終わらせ、足早にポーター邸へと帰宅したのだった。




 マギーはポーター侯爵家の玄関先でアイリーンの乗った馬車を待っていた。

 開いた馬車から出てきたアイリーンは、眉を下げて困ったような笑みを浮かべていた。泣くのを堪えて無理に笑っているアイリーンの瞳が、だんだんと潤んでいく様子をマギーは優しく迎える。

「お帰りなさいませ。アイリーンお嬢様」


「ただいま、マギー……」

「よく頑張りましたね」

「……うんっ」

 マギーはアイリーンの顔が見えない様に抱きしめて、優しく背中を撫でるのだった。




 その夜、明日に備えて早めにベッドに横になったアイリーン。彼女は傍に控えたマギーを見る。

「ねえ、マギー」

「どうしました? お嬢様」

「あのね、私……明日、頑張るわ。ちゃんとネックレスを守ってみせるわ」


「……はい」

「帰ってきたら、美味しいおやつを食べたいわ」

「はい。準備しておきますね」

 アイリーンはマギーに微笑みかけると、ゆっくりと目を閉じる。


「おやすみなさい。いい夢を」

 マギーはアイリーンの寝入りを見届けて、静かに部屋を後にした。

 運命の日の前夜は、ゆっくりと過ぎてゆくのだった。


ありがとうございます!

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