ファイル79怪盗プリンスからの挑戦状
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アイリーンの愛読書である【名探偵シャーリーシリーズ】の作者、ドイル氏の初の個展が行われる数日前。
王都ローデンの街にとある衝撃のニュースが駆け抜けた。
【名探偵シャーリーシリーズ最終章突入 新聞での週一連載開始】
国民的人気となった作品の最終章、その作品が本になる前に新聞で読めるというのだ。平民、貴族を問わず大人も子供も大喜びである。
例にもれずアイリーンも大喜びだ。
自宅に届いた号外を握り、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら歓声を上げている様子をポーター侯爵家の従者たちは、仕事をしながら微笑ましそうに見守っている。
(先生の個展に行く前に、こんな発表があるなんて! エドガー様が言っていたのはこのことだったのね)
その日の新聞によると、連載開始は明日の朝刊からのようだ。
「楽しみだわ」
うきうきと口笛でも吹きそうな様子でその記事をスクラップしたアイリーンは、翌日の朝が早く来ないかと、今か今かと焦れながら夜を過ごしたのだった。
翌日になってポーター家に新聞が届いた。
いつもならば、父と母が新聞を読んでから、アイリーンは事件や依頼が無いかささっと目を通すのみ。だが今日は、待ち遠しくて居ても立っても居られず、朝刊を一番に読むことにしたのだ。ちなみに保存用として、新聞をもう二つ買ってきてもらっている。
朝食前の楽しみにと、お茶と小さなお菓子を用意して新聞を手に取る。
「はあ~楽しみすぎて、眠れなかったわ。それでは早速!」
一面には大々的に【名探偵シャーリーシリーズ】の宣伝文句が書かれていた。ぱらぱらと新聞をめくり、目的のページを探す。丁度真ん中あたりのページに小説が載っている。
「あった!」
そこからアイリーンは、集中して小説を読み始める。文字を追うアイリーンの目は真剣で、どっぷりと小説の世界を楽しんでいることがよくわかる。
しばらくして、アイリーンの視線が動かなくなると、彼女は「ほうっ」と息を吐いて脱力する。
「すっ、すごかったわ! なにこれ!」
はぁーと満足気なため息を吐いて、アイリーンはすっかり余韻に浸っている。
この作品は連載形式なので今日はまだ導入部分だが、この最終章は怪盗貴族が活躍する話のようだ。
舞台はとある悪徳貴族が経営する図書館のギャラリー。そこに飾られていたある絵を盗むという予告状がシャーリーの元に届いた。
シャーリーは地元警察と警備を固め、怪盗貴族を捕まえようと画策する。結局、怪盗貴族は窃盗には失敗し、シャーリーによって絵は守られるのだが、そこから何か別の事件に発展するようだ。
これはファンでなくても、続きの気になる展開となっているのではないか、とアイリーンは思う。
「はぁ~。これからどうなるのかしら? 次が待ち遠しいわ! ……ん?」
アイリーンが新聞を綴じようと動かすと、その拍子に何かが新聞の中からはらりと落ちてきた。
「これは何かしら? カード?」
アイリーンがカードを拾い上げる。
「えっ! これは!」
何気なくカードを裏返して、アイリーンは驚愕した。
カードには【明日、敬愛する我らがドイル氏個展にて、第一巻表紙シャーリーと怪盗紳士の出逢い、いただきにあがります】と書かれている。
そして、メッセージの下にはカードの贈り主の名が記されていた。
「差出人は怪盗プリンス……怪盗プリンス!?」
アイリーンは動揺でカードの裏表を交互に見る。
(えっどういうこと? このカードは、【シャーリーシリーズ】の宣伝か何か? それにしては怪盗貴族ではなく、怪盗プリンス? 怪盗プリンスって……)
アイリーンは大急ぎでマギーを呼んだ。
「マギー! ちょっと来てー! 重大事件よー!」
普段ならば絶対に出さない大声でアイリーンはマギーを呼んでいるので、マギーは急いでアイリーンの部屋へと現れた。
マギーが一瞬で室内中に視線を動かすが、特に変わった様子は見られない。一見問題のなさそうな主の様子にマギーは首を傾げて尋ねる。
「お嬢様、どうされました?」
「マギー、今日お願いしていた新聞を持ってきてくれる? ちょっと確認したいことが合って」
「分かりました」
数分後マギーは、アイリーンの保存用に購入していた新聞を持って再度部屋を訪れていた。
「ありがと」
新聞を受け取ったアイリーンは、テーブルの上で新聞の全てのページをめくり、その後上下に振り始めた。
「ええ! お嬢様、何をなさっているんですか!?」
「やっぱり何も落ちてこない……マギーこれを見て」
「これは何ですか? カード? ……予告状ではないですか! しかも、えっ怪盗プリンス!?」
アイリーンと同様の驚いた表情を見せるマギー。彼女の反応を見てアイリーンは頷く。
「そう。怪盗プリンス、よ。やっぱりわざわざうちに届いた新聞にだけ入っていたみたい。私が殿下に恋心窃盗犯として、怪盗プリンスと命名して捜査していることは、私とマギー、お兄様ぐらいのはず」
「お嬢様は、お友達にも怪盗プリンスの話はしていないんですよね?」
「もちろんよ! マギーが不敬罪って言ったのよ?」
そうでした、とマギーは頷くが、すぐに首を傾げる。
「では一体誰が怪盗プリンスのことを? 私は誓って誰にも話していません」
「うーん、後はお兄様かしら? だけどお兄様が怪盗プリンスのことを話すような相手が思い浮かばないわ。だって言う必要がないもの」
アイリーンが米神に指を当てながら、うーんと呻る。
「偶然の一致でしょうか? ですが、この予告状はお嬢様宛てで間違いなさそうですね」
「やっぱりそう思うわよね? 怪盗プリンスの名を語るなんて一体誰かしら? 殿下に報告、は間に合わないわね」
「そうですね」
「それじゃあ殿下には当日に相談してみるわ」
「では、そろそろ朝食のお時間です」
マギーが促すとアイリーンはカードだけを手元に残し、新聞を手にダイニングへと向かった。
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