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ファイル74王立図書館の妖精と秘密の依頼⑧

よろしくお願いします!

 レティシアと最後の暗号を解いた翌日。

 アイリーンは灰色の空の様などんよりした気持ちで目覚めた。

(ああ。今日はコメリカの王太子様とレティシア様が会われる日……もっと早く暗号が解けていれば……)


 自責の念でいっぱいの彼女だったが、そんな彼女の気持ちはお構いなしで、あれよあれよという間にメイドたちに豪華な衣装を準備され化粧を施されていた。

 今日は貴族全員に招待状が送られている。コメリカの王太子とレティシア王女殿下の婚約披露の儀式に参列するためだ。


(レティシア様は大丈夫かしら?)

 彼女の脳裏に昨日のレティシアの笑みが浮かぶ。


 **********


 結果として、アイリーンの心配は杞憂に終わった。

 式は何のトラブルもなく、つつがなく終わりを迎えた。

 帰ってきたアイリーンはマギーと初めて会ったコメリカの王太子について話始める。


「コメリカの王太子様、初めて見たわ」

「どんな方だったんですか? エドガー殿下に負けず劣らずの美丈夫と聞きますが」

「そうね。とても美しい方だったわ。理知的な印象で、あまり表情の変わらない方みたい」


 アイリーンは初めて会った王子の印象を語る。

(表情が変わらないからか、少し冷たい感じのする方だわ)

 昨日までの経緯ゆえか、コメリカの王太子にいい印象を抱けないアイリーン。


 どこか元気のない彼女の様子にマギーも気付いてはいたが、特に何も詮索することなくそっとしておくことにしていた。

 自室に戻るとアイリーンは落ち込む気持ちを引きずりながら、せめて自分に出来ることをしようとろうそくと大きなお菓子の空き缶、バケツにたっぷり入った水を準備した。


(レティシア様はこれでいいのかしら?)

 今までの捜査や秘密の部屋での出来事を思い返しながら、アイリーンはろうそくに火をともす。

 レティシアの想いがどんなものであっても、婚約間近の王女が男の人を慕うというのが世間的に良くないことだということは、アイリーンのような子供でも理解している。


(私に出来ることは、本当になかったのかしら?)

 レティシアはこの想いをずっと隠して、いや、なかったことにして、お嫁に行くのだ。

 だから自分は、レティシアの頼みを一人で完遂するのだ。暗号の存在を誰にも知られない様に一人で燃やす、アイリーンに出来ることはそれだけだった。


 以前図書館でお勧めされていた王女と騎士の恋物語は、王女が使えていた騎士と添い遂げるハッピーエンドだったが、これでは苦いだけではないのか。

「……現実の恋は小説の様には上手くいかないのね」


 アイリーンはレティシアの大事な思い出を一枚手に取ると、そのままゆっくりと炎にくべる。

 ジッと小さな音がして、生成りがかった紙は端から段々と黒くなっていった。中心に火が当たる。すると、先ほどまでとは違う様子で、こげ茶色に変色する。


 アイリーンは目を見張り、思わず紙を炎に勢いよくくべてしまう。火が紙全体に回り、灰になるまで紙の中心に浮かんだこげ茶色の線は次第につながり、文字となってアイリーンの前に現れたのだ。

「あ、うそ! 待って! 水! って、あちっ」


 混乱するアイリーンは一枚目を読み終えるまでに焼ききってしまった。

 彼女は手元の紙束とろうそく、バケツの中の燃えつきた灰を見比べる。


「これってもしかして、炎にくべると文字が出てくるの? このリンゴの匂い、香水じゃなくて果汁だったのね」

 アイリーンはもう一枚暗号をろうそくの上へかざす。今度は燃えることなくじんわりと文字が浮かび上がった。


「これ、全部の質問に答えているんだわ。暗号の空欄も果汁で書いてあったから意味がつながらなかったのね。大事に取っておいても一生見つからない。燃やす決心をしないと見えない暗号。どうしてかしら。すごく、悲しいわ……」


 アイリーンは泣きながら一枚一枚丁寧に燃やしていった。水でいっぱいだったバケツの中が真っ黒な紙屑でいっぱいになるまで。

 アイリーンは燃やしながらでも一部の暗号は解くことができた。


 そこから得られた情報は、どれも伝えられない悩み事や苦悩、書いた本人を特定できるような内容ばかりだ。

【兄弟は二人】【司書騎士】【英雄の子】【愛称はフィリ】


 そしてアイリーンは、このヒントに当てはまる人物を知っている。

 アイリーンは涙をぬぐって、最後の一枚、最も新しい暗号を燃やす。

「これは、この間の暗号とヒントが全然違う」 


【7(目のイラスト)右に2つずらして4たは終わりから(目のイラスト)抜け(葉のイラスト)もう一つの答え】

 アイリーンは意味が分かるように訳していく。


【斜め右に二つずらして下は終わりからアイ抜けばもう一つの答え】

 下段の語群からヒント通りにしたアイリーンは、息を吞む。

「【祝祭の日 十の鐘が鳴り響くころ 屋上庭園で待つ】 そういうことなのね……」


 アイリーンは涙でぐしゃぐしゃになった顔をぬぐうこともなく、消え入りそうな声でポツリと呟いた。

「最初から、会う気なんてなかったのね……フィリップ」


 **********


 プー! プッププッー!

 軽快なラッパの音が街に響いていた。

 今日は平民街のあちらこちらが綺麗に飾り立てられ、人々の歓声や音楽が聞こえる。


「今日はなんて快晴なんだ! めでたい!」

「レティシア王女殿下万歳!」

 すっかりお祭りムードの平民街は、レティシア王女殿下のコメリカへの出発と結婚を祝うパレードの準備で大賑わいだった。


 道行く人々が待ちきれないと言わんばかりに、時計塔を見上げている。

「早く、始まらないかな?」

「わくわくするね!」


 孤児院の子供たちも今日はみんなでお祝いに来ている。笑顔で楽しみにパレードを待つ子供たちの声を背に、アイリーンは一人こっそりと見物の列を抜け出した。

 沢山の人が見物のために並んでいる中、人の流れに逆行して彼女はようやく王立図書館へたどり着いた。


ありがとうございます!

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