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ファイル73王立図書館の妖精と秘密の依頼⑦

よろしくお願いします!

 その後ザックに案内されて城内を歩くが、頭の中は衝撃的な事実と自分の追っていた暗号主が全く的外れだったことに落ち込んでいた。


(何てことなの! 追っていた中で最も怪しいと思っていた彼が、まさかベリンダのお兄様で、レティシア様の護衛だったなんて! 道理でレティシア様のいる時にしか会わないわけだわ! 司書騎士でないのだから勤務表にもいないし……なんで気付かなかったのよ、私。はぁ……)


 こんなことならばベリンダに、もう一人の兄がどこで働いているのかしっかり聞いておくべきだったと、しょぼくれているアイリーンの心境を知ってか知らずか、ザックが声を掛ける。

「何か気になることがおありですか?」


「いえ、その……ザック様がベリンダの兄だとは思わなかったから、てっきり、」

「暗号を書いたのが私だと思っておられたのですね」

「ええ……って、知っているのですか!? その、暗号のこと」


 先ほどから何回驚いたのか忘れてしまいそうなアイリーンが、また目を皿のように丸くして、周囲を見回してから小声で尋ねる。

 そんな彼女にザックは笑うと、今まで知らなかったことを教えてくれた。


「私はレティシア様の護衛で、一緒に図書館へ行っていましたから存じています。暗号のことも殿下があなたに依頼した内容も。フォスター男爵家は、建国前、初代国王陛下と無二の友人で、そのご縁で代々、こっそりと王族の方の護衛を務めることとなっているのです」


「そうだったのですね。では、ベリンダも?」

「はい。妹はそこまで武術ができるわけではありませんので、将来エドガー殿下の妃を社交界から支える役目を担っております」

「彼女にそんな使命があったなんて……でも、社交界でのフォスター家は」


「ええ。当時、権力を持つことをよしとしなかった初代当主の取り決めで、このことは他言無用となりました。時が経ち、ほとんどの貴族に忘れられた今では、フォスター家の真の責務を知る者はほとんどいないので、影の存在としてお仕えしています」


 相手がナメてくれると動きやすくて助かりますと、笑顔で言い放つザックにアイリーンは引きつった笑みを見せる。

 しばらくして気を取り直したアイリーンは一つ疑問を口にする。


「暗号のことも知っていたのなら、暗号の主のことは知らないのですか? ずっとレティシア様を護衛していたのですよね?」

 笑顔を浮かべていたザックが、突然表情が抜け落ちたような真顔になった。


「……現国王陛下は、恋愛結婚推奨派です。ですから仮に、エドガー殿下がアイリーン様と恋に落ちたとしてもその結婚は許されるでしょう」

「え、エドガー殿下と恋!? け、け、結婚だなんて!」

 アイリーンは頬を染めて悶え始める。


「拾うのはそこですか……まあ、そういうことです」

 百面相するアイリーンを面白そうに笑ってザックがそう言い切って、それ以降二人が話すことはなかった。


 **********


 その日以降、アイリーンとレティシアは毎日一緒に暗号を解こうと知恵を絞った。場所は、王立図書館の秘密の部屋がほとんどだったが、王宮で解くこともあった。

 暗号解読に進歩が見られたのは、図らずも一週間後、コメリカ王太子のやってくる前日のふとした瞬間だった。


 上段の暗号文は数字とイラストの組み合わさったもので、それを見ながらアイリーンは行儀悪く机に突っ伏していた。

【7(目のイラスト)  2     4       (目のイラスト)  (葉っぱのイラスト)       】

 全く意味の分からない言葉にお手上げ状態だった彼女が、上目遣いで暗号を見て声を上げた。


「あー!! 【ななめによめば】斜めに読めばいいのよ!」

「えっ、ほんと! アイリーンすごいわ!」

 早速二人は下段に書かれた文字とイラスト、数字の混ざる正方形の中から斜めに繋いで読んでみた。


「えーと【おめでとうございます。これでおわり】え? これだけ? 嘘でしょ!? はっ! 振ったら文字が増えるかも!」

 余りに中身のない答えにアイリーンは、思わず紙を縦横斜めに揺すり始める。


 レティシアはその紙をじっと見つめると、ゆっくりと目を閉じて息を吐く。そしてまたゆっくりと目を開けた時には、今までで最も王女らしい気品溢れる笑顔を見せアイリーンを呼ぶ。

 アイリーンもその風格にピタリと止まってレティシアを凝視している。


「アイリーン・ポーター令嬢、私の願いを聞いてくれてありがとう。暗号も解けたし、これでもう終わりにします」

「……はい」

「私は数日後にはこの国を発ちます。最後にお願いしてもいいかしら?」


「はい。なんでもおっしゃってください!」

「ありがとう。これを処分してほしいの」

「それは……」


 アイリーンの手に託されたのは、数週間前にも見た箱。彼女自身も最近まで借りていた、その箱に入っているものを思い出し、アイリーンは目頭が熱くなるような気がした。

 レティシアはアイリーンの手に箱を持たせると、そっとその上から彼女の手を握る。


「あなたにしか頼めないのよ。お願いできるかしら?」

「はい。必ず、全て私がこの手で処分します」

「ありがとう。アイリーン」

 そう言ったレティシアの表情は、アイリーンが見てきた気さくな彼女の表情の中で一番王女様だった。


ありがとうございました!

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