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ファイル68王立図書館の妖精と秘密の依頼②

よろしくお願いします

『この本を開いたあなたへ

 この謎が解けるか』


 恋愛哲学の本から落ちてきた紙には、文章はたったこれだけで、後は縦横九つずつの正方形が並ぶ正方形が書かれていた。チェス盤の様だとアイリーンは思った。


 一部の正方形には数字が書かれており、他にもよく見れば中には少し枠が太い正方形がある。太い枠の中には小さく番号が振られていた。

 アイリーンはしばらく考えてから、首を傾げる。


「これは……、規則性があるのですね。縦横斜めそれぞれで、同じ数字は一度だけ、一から九のどれかが入る仕組みなのですね?」

「ええ。この端を見て」


 レティシアは隅の方を示す。キーワードと書かれた枠の中には、【愛とは何か】、【知恵】など十個の語句が並んでおりそれぞれに番号が振られていた。その下に答えを書く欄が用意されている。

「これは、この法則に則って、全ての四角に数字を埋め、枠の太い四角に入る数字を探すパズルなのですね」


 アイリーンはペンを持ってパズルを解き始める。

「そして、この太枠の中に入る数字は、キーワードの語句に振られた番号と対応していて、これを番号順に並べ替えると【せいかい】ですね」


「流石ね。キーワードに書かれた語句は、この本の中に出てくるものだったわ。きっとこのパズルを作った人はこの本が好きだったのだと思うわ。本を読み切ってから、その暗号が解けるまで、数日かかったのだけど、解き終わった私は、嬉しくなったの」


 言葉通りに満面の笑みを浮かべて嬉しそうに微笑む。

「この感動を伝えたくて、この解けた暗号と一緒に手紙を挟むことにしたのよ。【あなたのお陰でこの本が楽しくなった。ありがとう】と。しばらくしてからまた図書館を訪れた時には、また本に暗号が挟んであったの」


「それがきっかけだったのですね」

「ええ。そこから、ずっと暗号のやり取りが続いているわ。いつも同じ本に挟んであるけれど、内容は別の本からだったから、私は暗号がきっかけでいろんな新しい本を読むようになったの。それが今の研究好きにも繋がっているわ」


 レティシアは可愛らしい装飾のされた箱を取り出すと、中から紙の束を取り出した。それは全て暗号やパズルが書かれた紙だった。

 アイリーンはその紙束の量に目を丸くして、レティシアから受け取る。嗅いだことのある甘い香りがふんわりと感じられる。


「こんなにたくさん!」

「三年以上だもの。でも、この中で本が被ったことは一度もないのよ」

「そんな! こんなにあるのに一度も本が被らないなんて! 確かにここは図書館ですし沢山の本がありますが、普通の人ならこんなに思いつきませんわ」


「相当本が好きなのでしょうね」

 レティシアの予想を聞いてアイリーンは頷く。

「なるほど。確かに相当の本好きのようですね。あの、よろしければこの暗号お借りできませんか? 捜査の手掛かりになるかもしれないので、見せていただきたいのです」


「ええ。もちろんよ。持って帰っていいわ。私の解けなかった暗号も沢山あるから、手掛かりになることが書いてあるかもしれないわ」

「ありがとうございます。エリ様が相手の方についてご存知なのは、恐らく男性で本に詳しいということで良かったですか? 他には何かありませんか?」


「うーん。そうね……とても本に詳しいということぐらいかしら。本当に出会ったことが無いのよ。この三年間、多い時は週に数回暗号のやり取りがあったのよ。図書館に来る時間もいろんな時間を試してみたの。早朝や閉館後、開館時間中も」

 だけど、と言葉を区切り、肩を落とすレティシア。


「一度も会えなかったわ。それに次に来るときには必ず別の紙が挟まっていたわ」

「なるほど。相手もかなりの頻度で図書館に足を運んでいたのですね」

「そうでしょうね」

 レティシアが頷く。


 アイリーンはうーんと唸り、状況を整理しようと頭を働かせる。そうしてふと思いついた疑問を口にした。

「エリ様が図書館に来ていることは、図書館の職員には知らされていないのですか? 以前、図書館の妖精について教えてくれた司書騎士の様子では、何も知らなさそうに見えました」


「ほとんどの司書騎士は知らないはずよ。近衛と違って王族にあまり関わらない部隊だから。私がここに来るときも、護衛は近衛の騎士だわ。知っているのは、私の本の貸し借りを担当してくれる館長だけだと思うわ」


「そうなのですね。一般の人に姿を見られたことはありますか?」

「どうかしら? そんなに何度もということは無いと思うのだけど、遠目に二、三度だと思うわ」

 それ以上は特に情報もなく、お茶会は解散となった。


 **********


 自室に戻ったアイリーンは、今日のレティシアからの情報を整理するため紙にまとめ始める。

(暗号はまた今度とりかかるとして……忘れないうちに書き留めておかないと)

 さらさらとペンを走らせながら事件の流れを考察していく。


(今の情報では暗号を書いた人物Xの範囲が広すぎる。図書館はいろんな読み物があるし、くる人も様々だけど、毎日のように来る人もきっといるわよね。まずは王立図書館を頻繁に訪れる人物を洗い出す)

 捜査方針を固めたアイリーンは、人海戦術のため、ガーネットチルドレンに協力を依頼することにした。


 彼らには孤児院の子供達と協力して、司書騎士見習いの体験として潜入を依頼する。

 常連客は彼らに任せて、アイリーンは司書騎士についての捜査を行うことを決めた。

 そして、エドガーに手紙を送る。


 王立図書館にガーネットチルドレンを潜入させるにあたって、館長に直接相談することも考えた彼女だったが、館長に詳しい話を聞かれた場合、レティシアのことは話せないので、悩んだ末にエドガーを頼ることにしたのだった。


 エドガーへの手紙にもレティシアのことは書かず、孤児たちの就労支援の一環としたが、果たして協力は得られるのだろうか。

「どうか、エドガー殿下に届きますように!」

 今、出来ることを終えたアイリーンは、レティシアの幸せのためにと、夜空に祈るのだった。


読んでいただきありがとうございました

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