ファイル64悪徳商会摘発事件②
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孤児院を出て宝飾店パールラントへ向かったアイリーンとマギー。
「ん? マギー見て。店の前に人だかりが出来ているわ」
「何かあったんでしょうか?」
「うーん」
人だかりを進み店の様子を窺う。
武器を持った護衛と身なりのいい男、その使用人らしき数人の男たちが店から出てくるところだった。
彼らの後についてパールラントの店主とマダムローズの店主が、険しい表情で現れる。
「情報にあったバッハ商会でしょうか?」
「おそらくね」
一番身なりのいい男が店主たちに何事か話しかけ、そのまま馬車で去っていった。
それを見届けてから、アイリーンとマギーは深刻な表情の店主二人に話しかけたのだった。
「ちょっと失礼。店長さんたちこんにちは」
「あら、あなたは探偵ドレスの……」
「私、アイリーンといいます。探偵をしているの。さっきの男たちについてなのだけれど」
「探偵……」
「あなたが……とりあえずここでは話せないわ。中へどうぞ」
アイリーンとマギーは二人に続き、宝飾店パールラントの中へと足を踏み入れた。
「うわ、なにこれ……」
「まるで泥棒に入られた後みたい」
以前訪れた際のキラキラした印象は見る影もない。
ショーケースがひっくり返され、本来宝石を守るはずの台座やビロードの敷物は全て破かれている。
あまりにも凄惨な現場の様な店内に彼女たちが呆然とその場に立ち尽くしていると、マダムローズの店主がおどけたように笑う。
「驚かせてごめんなさい。アイツらが来るといつもこうなの。私はボタン、こっちは従妹のマリンよ」
「いつも? あの男たちは何者なんですか?」
「あれはバッハ商会の商人。アイツらはうちの商品に盗作疑惑を吹聴して、店内をぐちゃぐちゃにしてくるの」
「何でそんなひどいことを?」
「彼らと何かあったんですか?」
アイリーンとマギーが尋ねると、マリンとボタンは顔を見合わせた後、決心したように話始めた。
「わたしたち、ある貴族に狙われているの。お嬢さんとブロンドの彼が来た時に見せたもの、覚えているかしら?」
「ええ。覚えているわ。綺麗なイエローダイアモンドだった」
「その宝石と最高級と言われるレース、この二つが私たちの一族の家宝なの」
「私たちの一族は、昔から服飾やデザインの職について代々やってきたの。以前は王族の方にも贔屓にしていただいていたのよ」
マリンが嬉しそうに微笑んだ。
「ある時、王族の方に献上するために買い付けた宝石を領主に狙われたことがあったの。その時は、何とか取られずに済んだのだけど、少しでも安全になるようにとほとぼりが冷めるまで安全なところに家宝を隠すことにしたの」
「私たちが独立して、こっそり家宝を持ち出したのよ。家にはそっくりな偽物を準備してねー」
「すごいわね」
「でしょ? 結構うまくいってたの。実家に残った皆が私たちの行方を隠してくれていたのよ」
どこか懐かしむ様に微笑んでいた二人の表情が曇る。
「でも、去年の聖なる茶会であなたのドレスが有名になって、作った私たちの名前が広まってしまったの」
「えっ! それって私のせいで有名になって見つかってしまったの!?」
「ああ! 勘違いしないで。私たちは感謝してるのよ。あなたが王宮に着て行ってくれたんだもの。家宝をいつか王族に献上するという一族の夢へ近付けたわ」
「知名度が上がることは覚悟していたわ。それで見つかる可能性が高くなることも」
「数週間前、領主から手紙が届いたの。宝石を持っているなら渡せって内容だったわ。それに断ってからよ。バッハ商会が盗品探しと言って乗り込んでくるようになったの」
「それって、バッハ商会の裏でその領主が手を引いている、ということよね?」
「私たちはその可能性が高いと思ってる。でも、それが分かってもどうすることもできないのよ。領主と戦えるような権力もないし。私たちはこのまま宝石を隠すしか出来ないのよ……」
そう告げるとマリンは顔を覆って泣き出してしまう。ボタンも大粒の涙をこぼしながら、拳を握り締めている。
(なんてことなの……)
アイリーンは二人の状況を聞き、胸を痛めた。
(殿下が買ってくださったドレスが、そんな悲しいきっかけになってしまうなんて……私にとってすごく嬉しいものだったのに、それが彼女たちを苦しめたの? ……ん?)
アイリーンは思った。
(そう言えば、エドガー殿下もあの宝石を一緒に見たのだったわ。もしかして、彼女たちの願い、叶えられるんじゃないかしら? そのためにもバッハ商会について捜査しないと……)
アイリーンは二人に笑顔を見せる。
「二人とも、安心してちょうだい! この名探偵アイリーンが、必ず二人を助けてみせるわ!」
屋敷に戻ったアイリーンは早速行動に移った。
まずはエドガーとの定期報告会の日程を調整するための手紙を送った。
返事が来るのを待つ間に、アイリーンはガーネットチルドレンを呼び出した。
孤児院によって彼女の諜報部隊は、かなり大きな組織へと変貌していたので、どんどん情報源としての精度も上がり頼もしくなっている。
そんな彼らにアイリーンが頼んだのは、バッハ商会の情報を集めることだ。
定期報告に行く前には、バッハ商会が平民街に出来てからのトラブルや評判が詳細にまとめられた報告書が届いていた。
王宮へ向かう馬車の中、アイリーンはガーネットチルドレンの報告書に目を通して微笑んだ。
「みんな素晴らしい働きだわ。これで殿下にお話しできるわね」
「それにしても、バッハ商会はかなり恨まれていたようですね。立ち退き被害にあった店がこんなに」
「ええ。でも、突然平民街に出店したのに、こんなに好き勝手出来るなんて、絶対貴族が裏にいるわ。マリンとボタンの言っていた領主が糸を引いていると思う。さあ、マギー! 行ってくるわ!」
「はい。お嬢様、お気をつけて」
待合室でマギーと別れ、アイリーンは侍女についてエドガーの執務室に向かうのだった。
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