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ファイル63悪徳商会摘発事件①

よろしくお願いします!

 平民街のコットンストリートに位置する宝飾店パールラント、この店の店主マリンの朝は早い。

 店の開店準備、隣のブティックマダムローズを切り盛りする従妹を起こしに行く作業がある。

 朝食のスープを待つ間、新聞を読もうと郵便受けを覗いた彼女は、二通の封筒に気付いた。


「あれぇ、手紙?」

 従妹のボタンが、しょぼしょぼと目をこすりながら歩いてくる。朝食の匂いにつられて起きてきたようだ。


「ええ。そうみたい」

「珍しいねぇ。誰から? パパたち?」

「一通はそうみたい。もう一通は……何ですって!」

「え!」


 ボタンは慌てて、マリンの取り落した手紙を拾って読んだ。

 父からの手紙は、故郷を治める伯爵の手先が、性懲りもなく家宝を狙いに来たとのことだった。

 追い返したが、いずれマリンとボタンに気付くか分からないから気を付けろとの注意喚起だった。


 しかし、父の手紙は一歩遅かったようだ。

 二通目の手紙は、バッハ商会と書かれている。どうやら取引がしたいという内容で、数日後に店を訪問するとのことだった。

 ボタンは首を傾げる。


「バッハ商会って知ってる?」

「最近急成長している商会だと聞いているけれど、どうして私たちの店にくるのかしら? 叔父様の手紙といい、なんだか嫌な予感がするの」


「……あたしも」

「とにかく何かある前に、あれだけは隠しましょう」

「そうね。守らなくちゃ……」


 マリンとボタンは、ぎゅっと手を繋いで祈る。

(どうか、何事も起きませんように)


 **********


 年が明け、徐々に暖かい日が増してきた頃。

 アイリーンは、マギーと共に、孤児院を訪れていた。


「まあ! いつ見ても立派になったわね!」

「本当ですね!」

 アイリーンとマギーは、真新しい孤児院を見上げて笑顔を見せる。


 もともとこの場所には、元教会を利用した孤児院があった。

 幼児失踪事件の現場となったこの孤児院は、管理者のモラン神父が逮捕された後、王太子エドガーの管理下に入ることとなった。


 教会を取り壊し新しく建て替えられた孤児院では、彼の指示で優秀なシッターや教師を雇用し、孤児院の枠を超えた学校を兼ねた巨大な施設となったのだった。

 当初は愛着もあり、建て替えに反対していた子どもたちだったが、ニックやリサといったガーネットチルドレンが説得を試み、今ではスラムの子どもたちも移り住んで楽しくやっているようだ。


 アイリーンは、度々この孤児院を訪問したり、支援も行っている。

「おーい、お嬢~!」

「おじょう~」


 孤児院の入り口からニックとリサが、アイリーンたちに手を振っている。

 アイリーンはマギーと共に孤児院の玄関へ向かう。


「ニックもリサも元気そうね。どう? 先生方は優しい?」

「うん。たまには厳しいことも言うけどな。皆勉強出来て喜んでるぜ」

「みてみて。テストがんばった」

「偉いわ! 正解が沢山ね!」


 アイリーンはテスト用紙を見ながらリサの頭を撫でてやる。アイリーンに妹や弟はいないので、彼女はリサやニックを可愛がるのが楽しいらしい。


 応接室に通されお茶を飲みながら、ニックとリサから近況や捜査状況、平民街の情報を聞く。

 探していたペットの発見や落とし物の情報など、特に変化のない捜査報告が続き、平和を感じていたアイリーンだったが、リサの口から気になる情報が上がる。


「コットンストリートの服屋さんと宝石屋さんのお姉さんたち元気がないの。最近変なおじさんがコットンストリートにいるって」

「ブティックマダムローズと宝飾店パールラントな、最近変な商会に絡まれてるらしい」


 妹の発言を補足するニック。それを聞いたアイリーンは首を傾げる。

「あの人気店が? 初耳だわ。変な商会って?」


 二人の説明によると、最近バッハ商会の使者という人物たちが、マダムローズとパールラントに治安部隊のようなものを連れて乗り込んでくることがあったらしい。

 そして二店の信用を落とすような噂話を吹聴しているとのことだった。


 噂のせいでその二店は、客足が減っているらしい。

 アイリーンとマギーは顔を見合わせて首を傾げた。

「その商会は、なぜそんな家探しみたいな真似を?」


「なんか、マダムローズとパールラントがバッハ商会の商品を盗んで売ってる、みたいな噂が発端らしいぞ」

「ええ! 随分悪質な噂ね」


「ですが、マダムローズは聖なる日の茶会のお嬢様の衣装で王室からの注文を受けたと、貴族間では評判になっていたはずです。何故数ヶ月でそんな話に?」

「理由は分からなけど、押しかけられてるのは、パールラントの方が多い」


「パールラント? あそこの商品は、店主のセンスが」

 アイリーンの頭には、エドガーとパールラントで見たイエローダイアモンドの存在が思い浮かぶ。


 考え込んだアイリーンにマギーが声を掛ける。

「お嬢様、どういたしますか?」

「そうね……とりあえず、パールラントに行ってみましょう!」

ありがとうございました!

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