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ファイル59決戦! 聖なる日の茶会⑥

よろしくお願いします!

 順番にケーキを選んでいく貴族たちを見学しながら、アイリーンはふと兄の手元に輝くケーキを見た。

「そういえば、お兄様がショートケーキを選ばれるなんて、珍しいですわね」

「ああ、まあ、そうだな。家では父さんとお前がチョコレート好きだから、菓子もチョコレートが多いからな」


「まぁ! それなら、今まで、我慢してチョコレートを食べていらしたの? 私てっきりお兄様もチョコレートのほうが好きだと思っていたわ」

「チョコレートのほうが好きだぞ」

 アイリーンはアーサーの言葉に首をかしげる。


「……あー、今は、ちょっとショートケーキの気分なんだ」

「そうなのですね!」

 少しアーサーの様子に疑問を感じたものの、確かにそんな日もあると思ったアイリーンはそれ以上尋ねることはしなかった。


 アイリーンは次々にケーキを選ぶ貴族たちに視線を戻す。丁度ベリンダとオスカーがチョコレートケーキを選んだところのようだ。

 ベリンダとしっかり視線が合って、お互いににこりと微笑み合う。そのままベリンダが近付いてきた。


「アイリーンの選んでいたものと同じにしてしまいましたわ!」

「とっても美味しそうな匂いがしていたものね! ショートケーキもとても美味しそうだったわ」

「ええ。ショートケーキも素敵で、わたしとても悩んでしまいましたわ」



 全員が選び終わったところを確認し、エドガーが合図を出す。

「さて、待たせたね。さぁ、ケーキを切ってくれ」

 全員が自分のケーキに一斉にフォークをいれる。

「ん? なんだ?」

「中に何か入っているぞ」


 一人の貴族が声を上げたことをきっかけに、会場全体で驚きの声が広がる。

 アイリーンもチョコレートケーキを一口大に切ってみる。

 チョコレートクリームの中から、フォークに何か固いものが当たる感触がした。アイリーンは薄桃色のそれをちょいちょいと掘り起こす。


「これは、ハートの飴細工?」

「そうか。ほら、こっちはコインだ」


 アイリーンの皿を覗いてから、アーサーも自分のケーキから飴細工を取り出す。彼の皿には、黄色いコイン型の飴が転がっている。

 周囲を見ると、それぞれのケーキから飴細工が出てきたようだった。形はいくつかあるようで、何の形を引いたのか囁き合っている者も多い。


「今、見つけた飴細工は、君たちの今年の運勢を表す運試しのようなものだ。コインの形を引いたものは富、星は名声、リングは家族愛、剣は仕事――ハートは恋愛、とかね」


「きゃあ! 殿下と目が合いましたわ!」

「違いますわ! わたくしですわ!」

 周囲の令嬢が悲鳴のような歓声を上げる。


「!」

 アイリーンは、言葉を区切ったエドガーと一瞬目が合ったような気がした。

(な、何かしら? 今の殿下の表情が……何故かドキドキするわ。きっと私を見たのではないと思うけれど)


 ちくり、胸に刺さるような違和感があった。理由も分からず、トクトクと早鐘を打つ胸に困惑し、そっと胸を押さえてみる。

 少し経つと治まったので、アイリーンはほっと胸をなでおろした。


(びっくりしたわ。こんなに離れているのに、殿下の風格に参ってしまったのかもしれないわ。さすが、エドガー殿下だわ)

 彼女が納得していたところ、一部の貴族たちがざわめき始めた。その中央にいるのは、ウッド子爵と娘のオリーブだ。


 周囲の貴族が道を開け、ウッド子爵が困惑した表情で娘を連れてエドガーの前に跪く。エドガーはその様子をどこか楽しそうな様子で眺めている。まるでこうなることを予想していたようだ。

「おや。どうしたんだい? ウッド子爵」

「はい殿下。先程のケーキの中身についての説明なのですが……その」


 ウッド子爵は一旦言葉を区切り、娘を見てから戸惑った表情でエドガーに向き合う。

「娘のケーキから先程の説明にない飴が出てきたのですが」

「そうだったのか。ウッド子爵令嬢、どんな形かな?」

「はい、エドガー殿下。本の形をしております」


 子爵はオリーブの背中を押すと、彼女がエドガーのほうへケーキの皿を見せる。

 皿の上には真っ白のケーキと、ちょこんと除けられた赤い本型のキャンディが乗っていた。エドガーの濃紺の瞳がじっとキャンディを映し、そしてふっと緩んだ。


「ああ、確かに――ウッド子爵令嬢、おめでとう。君が、今日最も幸運な者のようだ」

「まぁ!」

「それでは……」


「皆、直筆サイン入りの本は、ウッド子爵令嬢が引き当てた!」

「すごいわ! オリーブ様!」

 アイリーンとベリンダが声を上げると、他の貴族たちも口々に祝いの声をかけ始める。


「大したものですな!」

「おめでとう!」

 ウッド子爵とオリーブは、歓声の中心で照れくさそうに微笑むのだった。




 アイリーンとベリンダは、帰る前にと、兄たちと別れて二人で化粧室を訪れていた。

「ふふ。オリーブ様と子爵様は、あれじゃ動けないわね」

「そうね。仕方ないですわ。またお茶会の時にお祝いしましょう」


 アイリーン達は、オリーブにお祝いを伝えたかったのだが、彼女は沢山の貴族に囲まれていて近付けそうになかった。

「本が当たらなかったのは残念だけど、催しはとても楽しかったし、オリーブ様なら大事にしてくれると思うから安心ね」


「そうですわね。でもちょっと直筆サインは気になります」

「私も……また今度オリーブ様にサインを見せてもらえるように頼んでみましょう」

「そうですわね!」

 二人は顔を見合わせて笑う。


 そこで、アイリーンはふと思い出した。先程、ベリンダにクラウスとのことを聞きたいと思っていたことを。

 周囲を窺ってみると、幸いにもここにいるのは自分とベリンダだけ。そう思ったアイリーンは話を切り出した。


「あのね、ベリンダ。聞きたいことがあるのだけど」

「アイリーン? どうしたのですか?」

「ベリンダの好きな方って、もしかしてクラウス様?」

「なっ、なっ!? ど、どどうしてそう思ったのですか!?」


 顔が真っ赤になったベリンダがアイリーンに詰め寄る。

「さ、さっき、会場で話しているところを見て思ったの」

「そ、そんなに分かりやすかったのですか!? あ、あの方にも分かってしまったのかしら?」


 真っ赤な頬を両手で押さえて、ぶんぶんと首を振り悶えるベリンダ。

「ど、どうしましょう。アイリーン!」

「お、落ち着いてベリンダ! 大丈夫よ。きっとクラウス様には気付かれていないと思うわ!」

「うう、そうだといいのですけど……」


 本当にクラウスのことが好きらしいベリンダの表情を見て、可愛らしいなと思うアイリーン。

(恋するベリンダ可愛いわ! クラウス様はいつも優しくて誠実な方だから、きっとベリンダともお似合いに違いないわ!)


 アイリーンはベリンダの両手をぎゅっと握った。

「ベリンダ! 私、ベリンダとクラウス様のこと、応援するわ!」

「アイリーン! ありがとう!」

 がっしりと握手を交わすアイリーンとベリンダなのだった。


読んでいただきありがとうございました!

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