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ファイル58決戦! 聖なる日の茶会⑤

久しぶりの投稿です!

(ベリンダの好きな人って、もしかしてクラウス様!?)


 驚きの表情でアイリーンがベリンダを見ていると、しばらくしてから彼女は我に返った様子で「あっ! 私ったら」と赤い頬を両手で覆う。

 そんな彼女の仕草にアイリーンは確信した。


(やっぱり、あの反応は! きっとベリンダの好きな方は、エドガー殿下ではなく、クラウス様なのね!)

 ベリンダに本当のところを確認したいと思うアイリーンだったが、アーサーとオスカーが傍にいるうえ、周囲に他の貴族が大勢いるこの場では聞くことができない。


 そのままベリンダと一旦別れたアイリーンは、アーサーと共に社交に励むことになったのだが、彼女は先ほどのベリンダのことが気になってしまう。


(やっぱり、二人になれる時があれば聞いてみよう)

 そう決心して、アイリーンはエドガーの好きな人捜査に戻ることにする。


 未だ会えていないもう一人の赤毛の令嬢を探して周囲を見回していると、見かねたアーサーがアイリーンを呼ぶ。

「アイリーン」

「はい。お兄様」


「あそこのテーブル前にいる令嬢見てみろ」

「え? どの方ですか?」


 アイリーンがアーサーの示すテーブルを見ると、数人の女性が談笑している。彼女たちから少し離れたところで、黒髪の男女が親し気に話をしている。

 アイリーンが見る限り、どの女性も仮装のせいか赤毛ではない。


「あの『黒髪の乙女』だ」

 アイリーンは黒髪の男女の方を見る。


『黒髪の乙女』とは、『名探偵シャーリーシリーズ』に出てくる人物だ。作中では登場回数、僅か一回であり、婚約者である『黒髪の青年』とセットで現れる。シリーズ内でもマイナーなキャラである。

 彼らの外見についての描写は、その髪色と、お揃いの花の刺繍が付いた服を着ていることの二つだけだ。


(あの紋章、なんて再現度が高いのかしら! 私の想像する『黒髪の乙女』にぴったりだわ! あの格好を選ぶなんて、あの二人は、かなりの『シャーリーシリーズ』ファンね)

 話が合いそうだとアイリーンが目を輝かせたのを見て、アーサーが話を戻す。


「あの令嬢、前にパーティーで見たことあるが、赤髪だったぞ」

「えっ! お兄様、本当なのですか!?」

「嘘ついてどうするんだよ」


「では、彼女の隣の方は?」

「最近幼馴染と婚約したようだから、その幼馴染じゃないか?」

「まあ!」

 アイリーンは驚愕の表情を浮かべ、両手で口元を覆う。


(一体どういうこと? 殿下が婚約者のいる方を好きになるとは思えないわ。まだ見逃している赤毛の人物がいるの? はっ! もしや平民!? 許されざる恋なの!?)

 真剣に自分の世界に入ってしまったアイリーンを見ながら、アーサーは小さくため息を吐く。


(あーあ、自分のことは計算外か。いい加減気付けよなー)

 兄のもどかしい気持ちには気付きもしないアイリーンは、まだ見ぬ平民の少女を想像しては頬を染めたり真っ青になったりとせわしない。


(ああ! 殿下の好きな方がもし平民なら、どうやって捜査すればいいの!? 何か、手掛かりはっ)

 思わず頭を抱えたアイリーン。


 その時、タイミングを合わせたように会場の光が落ちる。周囲が暗くなったおかげで、パーティー会場で頭を抱えるという奇行に出た彼女に気付いたのは、幸い隣にいた兄のアーサーだけだった。


「周囲が真っ暗。いったい何かしら?」

「さあな。ほら始まるぞ」


 周囲の貴族からも戸惑いの声が上がる中、突然玉座に一筋の光が差した。堂々とそこに立つエドガーが、まるで舞台の主役の様なまばゆい光に照らされている。

 驚きのあまり、あっという間に静まり返った会場にエドガーの凛とした声が響く。


「皆、茶会を楽しんでくれているところだろうが、こちらを見てもらいたい」

 パッと光が会場入り口付近を照らす。


 大勢のメイドたちがワゴンを押して入ってきた。それぞれのワゴンには布がかけられており、何が運ばれているのか見えない様になっている。

 搬入が終わったところで、エドガーの合図で一斉に布が取られる。


 中から現れたのは巨大なケーキだった。長方形の巨大なケーキが、八つのワゴンに乗っている。ケーキは二種類あり、苺の乗った真っ白のクリームが美しいショートケーキとオレンジの乗った濃厚な香り漂うチョコレートケーキだ。


「今から全員に自分の食べるケーキを選んでもらう」

 爵位の高い順にケーキを選んでいくようで、公爵家から順に呼ばれている中、アイリーンは目を輝かせて待つ。


 早々にポーター侯爵家の番になり、アーサーとアイリーンはケーキの前に立つ。

「さあ二人とも好きなものを選んで。どのワゴンからでも構わないよ。どれも宮廷シェフやパティシエたちが自信をもって作ったケーキだからね」


「はい! ありがとうございます」

 王子様らしく綺麗な笑みのエドガーにアイリーンは笑顔で礼を言うと、真剣な表情でケーキを選び始める。


(なんて美味しそうなケーキなの! ショートケーキのふわふわも捨てがたいのだけど、やっぱりチョコレートよね! この香り、絶対に素晴らしい味に違いないわ)

 アイリーンは手近なところにあったチョコレートケーキを選んだ。それを見てエドガーは笑みを深くする。


 アーサーはショートケーキを選んだ。

 二人はエドガーに礼をしてから、見学している貴族たちの輪に戻るのだった。


読んでいただきありがとうございました!

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