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【書籍化】迷探偵令嬢は怪盗プリンスを捕まえたい!  作者: 七戸光


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ファイル57決戦! 聖なる日の茶会④

よろしくお願いします!

「やぁ。アイリーン。それに、皆。よく来てくれたね」


 兄二人に見守られながら談笑し始め数分が経った頃、アイリーンに声がかかる。

 アイリーンとベリンダが振り向くと、白い正装に身を包んだエドガーが、極上の笑顔を浮かべて立っていた。数歩後ろにはお付きのクラウスを連れている。


「あら! エドガー殿下!」

 アイリーンが喜色を含んだ声を上げる。彼女はずっとドレスのお礼が言いたいと思っていたので、エドガー自ら来てくれたことに嬉しくなり声が明るくなる。


 そんなアイリーンの横にやってきたアーサーが、周りに聞こえないよう小声でつぶやく。

「げ。もう来たのかよ。我慢が足りないんじゃないのか?」

「アーサー、何か言ったかい?」


「うっ、なんでもないです……」

 にこり、美しく笑顔を見せるエドガー。笑顔の裏に猛獣すらも縮み上がりそうな威圧を感じたアーサーは、それとなくアイリーンを盾にして後退した。


 エドガーは何事もなかったかのように、兄たちのやり取りをよく分からないながらも見守っていたアイリーンに笑顔で向き直る。


「アイリーン。ドレス、着てくれたんだね。嬉しいな。よく似合っているよ」

「はい! 殿下にいただいたこのドレス、とっても可愛くて気に入っております。ありがとうございます」

「君に喜んでもらえてよかった。とっても可愛いよ」


 はちみつの様に甘くてとろける笑顔を見せるエドガー。先ほどに絶対零度の笑みとは大違いである。

 そんなエドガーの様子に、周囲の貴族たちは衝撃を受けた。それぞれに「噂は本当だったのか」などと小声でささやき合いながら、生暖かい視線を送りつつ、成り行きを見守っている。


(なにかしら? 視線が生暖かいような……それにしても殿下の笑みは、本当にいつも素敵だわ。大人気なのも頷ける)


 疑問を感じながらも、エドガーの笑みが特別であることに気付かないアイリーンは、ぽっと頬を染めて彼に見とれる。

 エドガーはそんな彼女の反応に気を良くして、更に甘い笑みを見せるのだ。


(うへぇ。こいつら見てると砂糖吐きそうだ。アイリーンの鈍さ、信じられん)

 間近で見守るアーサーは、忍耐力を試される苦行に荒ぶる心を押さえていた。


(くうっ、私の贈ったドレスを着たリーンが可愛いすぎる)

 周囲の視線を全く気にしていないエドガーは、自分の贈ったドレスで着飾った可愛らしい彼女に見とれ身悶えしそうになるも、流石に王太子として長年培ってきた鉄の様な表情筋が崩れることはない。

 そして平静を装いながら、アイリーンの興味を引くであろうとっておきの話題を仕掛ける。


「そうだ、アイリーン。先程のサイン本の話なのだけれどね」

「ドイル先生の直筆サイン本ですわね! はぁぁ! そんな素晴らしいものがこの世にあるなんて! きっと今日のために殿下が配慮してくださった賜物なのでしょうね。素敵ですわ!」


「ははは。私は少し声をかけただけだよ」

「それでも! そんな逸品がこの世にあるだけでファンとしては、喜ばしいことなのです!」

「そう? 喜んでくれたならよかったよ」


 嬉しそうに話すエドガーに、アイリーンが「あの、殿下」と、恥じらいの表情を浮かべて切り出した。期待に目を煌めかせ、少し躊躇しつつも聞きたくてたまらないといった表情にエドガーの心は悶えていた。


(なんなの、その反応。喜ぶと予想はしていたけれど、これは反則じゃないかな? いくらでもヒントをあげてしまいたくなるよ)

 エドガーは王太子として何事にも動じないよう常に表情を鍛えてきたその成果を遺憾なく発揮し、何食わぬ顔で穏やかにアイリーンに応える。


「どうしたのかな?」

「あの、殿下。どうやって当選者を決めるのですか?」

 アイリーンがそう尋ねた瞬間、会場の喧騒が心なしか小さくなった。会場中の貴族がこぞって聞き耳を立てているのが分かり、エドガーは苦笑を浮かべる。


「ふふふ。秘密だよ。でも謎解きではない。謎解きだと、名探偵の君が有利になってしまうからね。最も幸運なものに贈るとしか今は言えないな」

「そうなのですね。どんな方法で決めるのか、楽しみにしていますわ」

「ああ。楽しみにしていて」


 アイリーンの素直な笑顔はとても明るく、本当に楽しみにしていると分かるので、エドガーも甘い笑みを返すのだった。

(うふふ。どんな方法で当選者を決めるのか楽しみだわ!……あら?)


 エドガーと微笑み合っていたアイリーンが、視線を外すと隣の兄が呆れたような表情を浮かべていた。アイリーンは首を傾げて、兄に尋ねる。


「お兄様、そんな顔をしてどうしたのですか?」

「……ああ。ちょっと馬に蹴られた気持ちになって」

「馬? お兄様、大丈夫ですか? どこか痛いのですか?」


 慌てて兄を心配したアイリーンを見て、エドガーがふっ、と噴き出した。

 アーサーが妹に気付かれないように、エドガーをじろりと睨む。


(兄様と殿下、本当に仲がいいわね。私もベリンダと負けないぐらい仲良しだわ! ……あら?)

 アイリーンが振り返ると、そこにはオスカーが女性たちに囲まれて立っていた。しばらく見ていると、視線に気付いたらしいオスカーと目が合う。


(ベリンダはどこに行ったのかしら?)

 アイリーンの意図が分かったようで、オスカーは視線でさらに後ろを示す。

 その視線を追ってみると、令嬢たちの向こう側、隙間からチラリと銀の髪が見えた。アイリーンは近付こうと足を踏み出してピタリと止まる。


(あ、ベリンダ……と、クラウス様?) 

 ベリンダは、クラウスと話していたらしい。随分と話がはずんでいるらしく、とても楽しそうに笑っている。

 エドガーとアーサーもベリンダたちの方へ視線を向ける。


「ん? ああ、クラウスとベリンダ嬢か」

「へぇー……っと、そろそろ行かなくていいのか?」

「ああ、そうだな。じゃあまた後でね、アイリーン。たっぷり楽しんで」

「あ、はい!」


 含みのある表情で悪戯っぽく笑ったエドガーは、アイリーンに手を振ると、クラウスの方へ歩き出した。エドガーたちに気付いたクラウスが、ベリンダとの話を切り上げ、彼女達に会釈をしてからエドガーと共に去っていく。


 エドガーとクラウスを見送ったアイリーンは、ようやくベリンダに近付いた。

「ベリンダ。殿下はサイン本の選考方法を教えてくださらなかったわ。本当にどうするのかしら? 最も強運な者って……」

「……」

「ベリンダ?」


 返事がないベリンダの表情を見て、アイリーンは目を見開いた。

 ベリンダは頬を高揚させて、うっとりとした表情でエドガーたちを見つめていたのだ。


 ここでアイリーンは、以前の茶会で聞いたベリンダに好きな人がいるという話を思い出した。

(はっ!)

 アイリーンの中で、ピコンッと一つの確信的な仮説が生まれた。


(ベリンダの好きな人って、もしかしてクラウス様!?)


読んでいただきありがとうございました!

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