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ファイル50王子の好きな人を探せ!③

よろしくお願いいたします。

 意を決してエドガーの執務室に乗り込んだアイリーン。

 エドガーに誘われるがままソファーでは隣に座り、クラウスの準備してくれたお茶とお菓子に目を輝かせる。


「今日はどうだった? 何か成果は上がったかい?」

 エドガーは紅茶に舌鼓をうつアイリーンに尋ねる。


「……実はあまり。情報では年下ということと、明るい髪の女性ということだけでした。それで、その、殿下にお聞きしたいことがありまして」

「ん? なあに?」


 アイリーンはカップをテーブルに戻し困った表情を浮かべる。

「この情報は本当でしょうか? 他にも何か手掛かりになるものが欲しいのです」


「ふむ。年下と明るい髪ね。髪色は聞かなかったの?」

「はい。教えてもらえませんでした。珍しい髪色なのではないかと思ったのですがどうでしょう?」


「珍しい……かもしれないね。彼女の髪色は赤だよ」

「えっ! 赤色ですか」


 アイリーンは目を丸くする。

 エドガーはいたずらな笑みを浮かべ、彼女の様子を窺う。


「意外でした。てっきり……」

 アイリーンが言葉を区切ると、エドガーはしめたと言わんばかりに体を寄せて顔を近付ける。


「てっきり? なあに、言って?」

 耳元に甘く囁くエドガーに、アイリーンはすぐに顔を真っ赤に染め、あうあうと口を開閉する。

 彼に顔を見られたくなくて、慌ててアイリーンは視線を逸らした。


「そ、その。てっきり、銀髪とか金髪とかをイメージしていたものですから」

「ふーん。この前も言ってたよね。でも違うよ。私の好きな人は赤い髪をしているんだ」


「そ、そうなのですね。あ、あの殿下?」

「なんだい?」

 ん、と首を傾げながら、間近に迫る。さらりと艶やかなプラチナブロンドがアイリーンの顔にかかった。


(ひぇー!! 顔が!! 髪が!!!)

 慌てて体ごとエドガーの反対方向にねじり顔を逸らす。羞恥心からか、我慢できずにその場に立ち上がった。


「そ、捜査のために執務室を見せてくださいませ!」

「うん? 構わないよ。特に面白いものはないと思うけど」

 了承を得たアイリーンは、急いでエドガーから離れ、部屋の中を歩き始める。


(もう、もう! 殿下は相変わらず美しすぎるのよ!)

 ドキドキと煩い心臓にアイリーンは、火照った頬を両手で押さえる。心を静めるため、他のことに目を向けようと、エドガーのいない方向を見た。


 室内には三つの執務机があり、一番奥がエドガーの机だろう。他二つの机にも山の様な書類が乗っているが、一番奥の机は山脈の様になっている。

 山脈と無造作に置かれた使い込まれたペンが、王太子殿下の果てしない業務量を物語っている。


(殿下、お忙しいのね。本当は私のために使っていただく時間なんて、ないのではないかしら?)

 そんなことを思いながらアイリーンは、周辺の捜査を続けた。


 エドガーの机は業務に関わるものしかない。

 アーサーの机には、以前にカラスに盗まれた万年筆が置いてあり、脇には大きな辞書が陣取っていて、全体的に紙切れでごちゃごちゃとしている。

 そしてクラウスの机は、書類が乗っている以外は比較的綺麗で、机の隅に小さな多肉植物の植わった鉢が飾られている。


(とても性格が出ているわ。クラウス様は植物がお好きなのね)

 何となく納得して、アイリーンは捜査を続ける。


 その様子を見てエドガーはため息を吐いた。

 いつの間にか、照れていたことをすっかり忘れて、周辺捜索に夢中のアイリーンに、エドガーは面白くなさそうに顔を顰める。


(他の奴の机は見なくていい。私のことだけ考えていればいいのに)

 止めさせて、机なんかより私を見てくれと言うべきか。そんなことを彼が悩んでいるうちに、アイリーンは机周辺の捜索を終え、壁際に並ぶ書類棚を捜索し始めていた。


「あら? この本は!」

 アイリーンの興奮したような声が聞こえて、エドガー、クラウス、アーサーは顔を見合わせる。


(ああ、あれか)

(どうする?)

(私が行こう)

 エドガーがさりげなくアイリーンの元へと足を進める。


 一方のアイリーンは、彼らの中でそんなやり取りがあったとはつゆ知らず、取り出した本をしげしげと眺めていた。

 上品な深い赤の表紙に金の文字でタイトルが書かれているその本は、彼女の家にもあるもので、何度も何度も読み返した大好きな本でもあった。


【名探偵シャーリーの大冒険—怪盗貴族と犬—】

【名探偵シャーリーシリーズ】の第一巻にして、初版限定版。シリアルナンバー入りの逸品だ。世界に10冊しかないと言われているもので、アイリーンは3番目の本を持っている。


 書棚には現在発刊されている全ての【シャーリーシリーズ】が限定版でずらりと並んでいた。

(殿下がどうしてこれを……まさか、殿下も名探偵シャーリーのコレクターだったの? シリアルナンバーは何番なのかしら?)


 アイリーンが表紙をめくろうとしたその時、「面白い物でも見つかった?」と、耳元にどことなく甘い声が響いた。


「ひゃあ! あっ!」

 驚いたアイリーンの手を本が滑り落ちる。慌てて掴もうとするが、その手はするりと空を切った。

(ああ! もうだめ!)

 アイリーンは落下を覚悟し、思わず目をつぶる。


 しかし一向に落下音が聞こえない。恐る恐る目を開けると、本を受け止めるエドガーの美しくも男らしい手が見えた。

「おっと」


「あ、ありがとうございます。申し訳ありません。殿下の本を落としてしまいそうになるなんて」

「ああ。急に声を掛けた私が悪いからね。気にしなくていいよ」

「ありがとうございます。それにしても、殿下もシャーリーシリーズがお好きだったのですね!」


「ああ、リーンはとてもこの本が好きなんだよね? 私も好きだよ。ここにあるのは献上品というか、貰ったものでね」

「まぁ! そうでしたのね!」

 嬉しそうに笑顔を見せる彼女に微笑みつつ、エドガーはさらりと本題に移る。


「ところで、リーン。私の好きな人については、何かわかった?」

「う。それがまだ何も……」

 項垂れるアイリーンにエドガーは微笑むと「それじゃあ、ヒントをあげよう」と一通の封筒を取り出した。


「これは?」

「パーティーの招待状だよ」

「招待状、ですか?」

 アイリーンは首を傾げる。


「三か月後の聖なる日に王妃主催の茶会が開かれることになった。招待客は、年齢の近い令嬢令息たちとその親。君にも参加してほしいんだ」

「つまり、殿下の婚約者候補が一堂に会する場ということでしょうか?」

「そういうことだね。ね? 来てくれるかな?」


「そこに殿下の好きな人が来られるということですね? 喜んで参加いたします」

「ありがとう。そう言ってくれると思っていたよ。詳しいことは、また後日ね」

 そう言うと輝く笑顔でアイリーンを見るエドガーと、そこで必ず殿下の好きな人を暴く、と闘志に燃えるアイリーンなのだった。


読んでいただきありがとうございました!

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