ファイル49王子の好きな人を探せ!②
よろしくお願いします!
アイリーンは思わずため息を吐いた。
(それにしても、全くと言っていいほど情報が出てこないなんて……)
今回話を聞けたのは、比較的王族から遠いところで働いている者たちだったからなのか、それらしい情報は全く上がってこない。
わざわざ王族から遠い者に声を掛けたのも、彼女なりの考えがあっての人選だった。
王城で働く者たちは、殿下の秘密を気軽にしゃべるような者たちではないだろうと、考えたアイリーンは、王族に会わないような職業の者を中心に声を掛けたのだ。
王太子殿下の意中の人となれば、好きな食材をお茶会で使ったり、城中を掃除する中で、うっかり殿下に呼ばれる令嬢を見てしまうこともあるかもしれない。
しかし、その結果は芳しくない。
特にめぼしい情報は得られなかったのである。
「うーん。やっぱり、もう少し殿下に近い所で勤めている人たちに話を聞かなきゃダメよね」
城内へ戻ろうとしていたアイリーンに、突然背後から声がかかった。
「失礼いたします」
「ん? 何かしら?」
振り向いたところに立っていたのは、一人の騎士。かなり鍛えているようで、がっしりとした背の高い男だ。どことなく見覚えがある、とアイリーンは思った。
「失礼ですが、お嬢様は、先日殿下と一緒に平民街におられた方ではありませんか?」
「え? ええ。そうですわ……あ! あの時の、トニーのお父様!?」
アイリーンは驚いて思わず大きな声を上げるが、騎士は落ち着いた様子で笑うと敬礼の姿勢を見せる。
「ええ。ネイサン・ビル・ナイトレイドと申します。あの時は、息子を保護していただき、ありがとうございました。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「まぁ! ナイトレイド、ということは、英雄ビル・ナイトレイド男爵の? お礼なんてそんな。アイリーン・ポーターと申しますわ。あの日は、無事に会えてよかったですわ。トニーはお元気ですか?」
「ええ。ビルは私の父です。トニーは、あの日助けていただいた殿下と貴女に感銘を受けた様子で、お二人を守る騎士になると言って日々剣の修行に励んでおります」
ネイサンは息子の姿を思い出したのか、愛おしむ様に微笑む。
「そうなのね。きっと素敵な騎士になるわね。将来は王城勤務か、ポーター侯爵家の護衛かしらね!」
「お二人とも守りたいからと、王城勤務を希望したいそうです。我が家は騎士の家系なので、父はそれを聞いて、うちの弟みたいにならなくてよかった、と大喜びです」
それからしばらく雑談をした後、アイリーンはふと、例のことについて聞いてみようと切り出した。
「そういえば、少し伺いたいのだけれどいいかしら?」
「私で答えられることでしたら」
「エドガー殿下が女性と親しくしている、とかそう言った話は、ご存じないかしら?」
「えっと……それはどういった意味でしょうか?」
「殿下に意中の方がいるとか、噂だけでも何か知らないかしら?」
「殿下の好きな人、ですか? え、え? あれ?」
途端に驚愕の表情を浮かべるネイサンに、アイリーンは目を丸くする。
(こんなところに、重要参考人が!)
アイリーンの目がキラリと光った。
「ねぇ! 何か知っているのね! 実は今、殿下の好きな人を捜査しているの! 教えていただけるかしら?」
「……いや、その」
アイリーンの反応と平民街でのことを重ねて、合点のいったネイサンは、顔を青くして口ごもる。
(殿下! これは、ヒントを伝えていいのでしょうか!? 城内ではポーター家令嬢が、筆頭婚約者候補と噂されているのに、何故本人がこんなことを言っているのか、意味が分かりません!!)
心で叫びながらも、口には出せないネイサンは、必死に思考を続ける。
たっぷりと数分かかって彼は、汗をぬぐい、アイリーンを見る。
「私は、その……殿下の好きな人を知りませんが……あー。えっと」
「なにかしら?」
「えー、その。噂、では、年下の女性だとか」
「年下? 殿下は15歳だから、それ以下の年齢ということね! 他には何かないかしら?」
「そう、ですね……明るい髪の女性だとか。こ、これ以上は、エドガー殿下に直接お聞きくださいっ」
「……そうね。わかったわ。貴重な情報をありがとう」
アイリーンは、ネイサンにお礼を言うと、覚悟を決めてエドガーの下へ向かう。
去っていくアイリーンの背中を見ながら、ネイサンは思う。
(よくわからないがこれでよかったのか? とにかく殿下、頑張ってください!)
平民街で見た二人の姿とエドガーの笑みを思い浮かべ、そっと心の中でエドガーにエールを送った。
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「ついに来てしまったわ。でも捜査のためよ! 行くのよ名探偵アイリーン!」
護衛の騎士に案内されてやってきたエドガーの執務室前で、アイリーンは覚悟を決めてドアノブをひねる。
「やあ、アイリーン嬢! いらっしゃい!」
扉を開けるとそこにはエドガーのキラキラした笑顔があって、彼女は思わず反射的に一歩下がる。
「し、失礼いたします。急な面会をいただきましてありがとうございます」
「そんなこといいよ。男ばかりに囲まれて仕事に滅入っていたところだから。さぁ入って! 今お茶の準備をさせるから」
「は、はい」
エドガーの嬉しそうな表情に驚きながらも、案内されるままにソファーへ腰を下ろす。
そして、そんな彼女の隣に当然のように腰を下ろしたエドガー。
クラウスとアーサーは顔を見合わせてため息を吐くと、クラウスはお茶を淹れに行き、アーサーはアイリーンの向かいに座るのだった。
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