ファイル48王子の好きな人を探せ!①
よろしくお願いします。
「はぁ~」
机に向かっていたエドガーは、物憂げな表情でため息を零す。
その横ではアーサーが、背中に悪霊でもとりついていそうな澱んだ表情で、書類を見つめている。
そんな二人を見ながらクラウスは、苦笑交じりに声をかける。
「二人とも、いい加減に立ち直ったらどうです?」
「クラウス……お前はあの場にいなかったから、そんなことが言えるんだ。お前、エドのあの時の嬉しそうな顔を見てから、崩れ落ちるまでを見てないからっ! しかも、原因がうちの妹だぞ!?」
「アーサーやめてくれ。傷口をえぐるな……」
そのままエドガーは、机に突っ伏してしまう。
「ははは。随分と重症ですね」
クラウスは渇いた笑いを漏らした。
アイリーンの捜査にエドガー達が同行してから早数日。
あの日のエドガーとアーサーのショックはかなりのもので、仕事中のため息が大変なことになっていた。
このじめじめとした鬱陶しい空気を変えるべく、クラウスは別の話題を考えた。
「あっ! そう言えば、今日はアイリーン嬢が捜査のために登城しているんですよね!?」
「ああ。リーン……会いたい。はぁ~」
「クラウス。もうちょっと話題選べ……」
「ふっ、すみません。最近の話題と言えば彼女なのでつい」
そう言って、顔を背けたクラウスの肩は、笑いをこらえすぎて震えている。
「完全にわざとだろ。ていうか、エド。本気で十六まで待つつもりなのか?」
「ん~? ……ああ、リーンに出した挑戦状の期限の話? 本気……でも、今回の件で若干不安を覚えた」
エドガーはアイリーンに好きな人の捜査を挑戦状として叩きつけたわけだが、期限としてはヒントのつもりでアイリーンが結婚適齢期となる四年後までと指定したのだ。
ここにきてアイリーンの恋愛面での鈍さに、彼はその約束を後悔しそうになっている。
「俺もそう思ったわ……」
暗い顔で机に突っ伏しているエドガーと、げんなりとした表情のアーサー。
「でもまぁ、挑戦してからそんなに日も経っていないし、まだ分からないしね」
「エド……」
自分に言い聞かせているようなエドガーに、憐みの目を向けるアーサーとクラウスなのだった。
**********
「へっくしゅん!」
同時刻、探偵令嬢アイリーン・ポーターは、王宮内の庭園でくしゃみをしていた。
(あらやだ、風邪?……それとも、誰か私の噂でもしているのかしら?)
何となく悪寒を感じたような気がするアイリーンは、両手で自分の体を抱きしめる様にして擦る。
(今日は、王城勤務の方々に聞き込みよ! 殿下の好きな人を探さなければ!)
アイリーンは探偵としての使命に燃えていた。
彼女は先日の平民街捜査で、エドガーのアクセサリーを贈る相手を、推理し間違えたことを悔しく思っていた。
(私あてだったから、私の好みを聞いているのは普通だったのよね。完全に読み間違えてしまったわ……まさか殿下が、私に贈ってくださるなんて思わなかったんだもの)
名探偵失格だわ、と肩を落とす彼女だったが、いつまでも落ち込んでばかりはいられない。
彼女は辺りを見回して、目に付いた使用人や騎士、文官など、城で働くあらゆる人に声を掛けていく。
今日は登城してからずっとそうしているが、なかなか有力な情報は得られなかった。
(今のところ有力な情報は、来た時にご挨拶した、陛下と妃殿下からの情報だけね)
そう思ったアイリーンは、今朝のことを思い出す。
**********
「おお。アイリーン嬢! 久しいな」
「全く、エドガーったら、全然貴女に会わせてくれないのよ。お茶がしたいのに! 息子が無理を言っていませんか?」
「エドガー殿下は、いつも私を気にかけてくださって、適切に支援してくださっています。先日の教会での事件の際も、犯人に捕まった私と侍女を助けてくださいました。本当に感謝しています」
そう言って満面の笑みを見せたアイリーンに王妃は、母としてかホッとした優しい微笑みを見せる。
「そう? それならいいんだけど。何かあったら言ってちょうだいね」
「お気遣いありがとうございます……それでは、その、陛下、妃殿下にお伺いしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「聞きたいこと? 何でも聞きなさい」
「そうよ。遠慮しないで」
二人は快く頷いて、アイリーンに質問を促す。それでは、と言って、彼女は今日の目的となる質問を口にする。
「エドガー殿下の好きな人を捜査しているのですが、ご存じありませんか?」
「え?」
「む?」
きょとんとした表情で顔を見合わせる国王夫妻。
暫く目と目で何事かを語り合っていた二人だったが、頷き合うとそろってアイリーンに向き直った。
エリザベス王妃殿下が、口を開く。
「いいかしら、アイリーン。エドガーが好きな人は、もちろん私も陛下も存じていますが、それを教えることはできません。あの子は自分の力で彼女に想いを伝えなければ意味がないからよ」
「はい……申し訳ございません」
アイリーンは、しょぼんと項垂れる。
「あ、もちろん、アイリーンを責めているわけではないわ。そもそも、あの子の意気地なしが良くないのよ! なんでそんな回りくどいことっ」
「こらこら、エリザ」
「あらやだ、おほほ。とにかくね。アイリーンは直接エドガーにヒントをもらいに行ってはどうかしら? やっぱり本人だし、一番の情報源でしょう?」
そう言ってにっこり笑った国王夫妻に「頑張ってね」と言われ、送り出されたアイリーンなのだった。
**********
アイリーンは、ため息をつく。
(殿下に直接聞きに行くのは……うう、何となく聞きにくいわ。何故かしら?)
アイリーンはエドガーに心を奪われてから、探偵として活動するにつれてエドガーと多く関わるようになった。
そのたびに、あの夜の化身の様な美しい美貌に胸をときめかせてきた。
事件があると多少は、うっかり忘れてしまったかもしれないが、それでも、彼女にとってエドガーは憧れの怪盗プリンスであることには変わりない。
今、彼女の胸は、何となくモヤモヤするのだ。
(どうしてかしら? 怪盗プリンスの秘密を暴くのが、私の探偵としての使命なのよ? 直接捜査できるなんて最高よね。でも、何となく……うーん)
きっとあの美貌に委縮しているのかもしれない。
そんな気がする。と、ぼんやり納得したアイリーンは、他の人物から出来るだけ情報を集めようと、あらゆる城の人々に声を掛けていたのだった。
読んでいただきありがとうございました!




